朝起きたら幼馴染が隣にいる

あやかね

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天ヶ崎舞羽と水着事情

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 前回に引き続き、大型ショッピングモールに僕達は来ている。

 僕の水着は早々に決まった。それはもう語るべきことも無いほどに呆気なく。

「あ、これ! これ着て!」

 と、メンズ水着コーナーに足を踏み入れるや否や舞羽がある水着の元にすっ飛んで行って一着の水着を持ってきた。それはまるでボールを追いかける犬のごとく一心不乱に、これ以外考えられないというような勢いであった。

 それが、白をベースにした薄い上着とセットの水着であった。どんな柄であったかと言われると説明が難しいのだけど、氷を絵に描いたような水色と透明感のある柄と言おうか。清涼さを感じさせる青と白と水色のシンプルな水着だった。着てみろと舞羽が言うのでとにかく更衣室で着替えると、

「わ、わ、わ、わぁぁぁ…………………………」

 口元に両手をやり、見開いた目をキラキラとさせ、興味津々の様子で見入っていた。

「どうなんだよ、舞羽」

「………いい………………ふっきん」

「水着は!?」

 舞羽のコメントはよく分からないが、これは気に入ったとみて良いのだろうか。僕にはよく分からないのだけれど。

 と、そこへ店員がおずおずと近づいてきて「恐れ入りますが……」と口を開くではないか。

「一度ご試着いただいたものはお買い上げになっていただく事になっておりますが、よろしいでしょうか」

「え? ………あ」

 値段を見ると7千円した。

 早々に決まったと言うと語弊がある。これ以外を買う資金が無かったのである。

 馬鹿正直に着てしまった僕が悪い。

                  ☆☆☆

 さて、本題の舞羽の水着であるが、なんと、彼女はDカップあると言うのだ。そう聞くと納得するところもあるし、想像よりも小さいなと言った感じもある。しかし、残念ながら僕はその全容を把握する事は出来なかった。

「胸が大きいと可愛い水着が無くて困る」と言って舞羽は店員に声をかけた。

「ゆうはどっか行ってて」

「えっ、なんで?」

「恥ずかしいから」

 と、にべもなく言った。そりゃそうだ。

「それに……海でお披露目したいから」

「ん、分かった。いちごはとっとくよ」

「うん……頑張って選ぶっ」

 そんなわけで締め出しを喰らった僕はショッピングモールをぶらついて暇を持て余していた。

「さて、どうするかなぁ。小さな本屋じゃ学術文庫なんて置いてないだろうし、かといって本屋以外でどうやって暇をつぶそうか?」

 こういうときに陰キャと陽キャの違いがハッキリ出ると思うのである。

 僕のごとき引きこもりは本屋に行けば3時間だって潰せるが、陽キャはきっとカフェに寄ったり服屋を数件回ったりするのであろう。ともすれば靴屋によったりしてオシャレを堪能せんとするのであろう。

 僕には陽キャの才能が無いのでそういった趣味を持ってもすぐに飽きる。この水着だって舞羽との旅行以外で着る事はないだろう。

 特別な思い入れがあるから着る場所を選ぶという訳ではないが、タンスの肥やしとなるのは必定。

「………………」

 僕は数件の小物店を冷やかして回ると、ベンチに座って紙袋を掲げた。聞いた事のないブランドの水着だった。水着がこんなに高いとは思わなかったけれど、だけど、それは一番星のように思えて、大切にしておこうという気持ちになった。

 僕は服のブランドをほとんど知らないし、きっと舞羽も知らないブランドだろう。

 目の前にあるどんなキラキラしたアクセサリーよりも、舞羽が選んだと思うだけで輝いて見えるから不思議だ。

「ま、いいか。僕にオシャレを勉強する時間など無いのだ。いつかオシャレ着も舞羽に選んでもらおう」

 僕はそう思って紙袋を下げた。

「あれ、ゆう君じゃん。お姉ちゃんと一緒じゃないの?」

 するとその向こう側に陽キャがいて僕を見下ろしていた。マンゴーのフラペチーノを携えてこれでもかと青春を満喫している陽キャであった。

「蝶か。そういう君こそ友達はどうした」

「んえ? 私? 私はねえ、ウィンドウショッピング中かなー。なんか、友達が流行りのラブロマンス映画を見たいとか言い出してさ、思春期の女子って単純だねー。有名な漫画家が原作書いてるって知ったらみーんな見に行っちゃった。でも、私は毎日ノンフィクションを見せられてるからさ。食傷気味なんだよねー」

「……? 原作を読んでるということか」

「自覚は無い………と」

「……………?」

「はいはい、幸せ幸せ、お腹いっぱいですよー」

 そうは言っても天ヶ崎蝶の様子はどこか楽し気であった。漫画だったらお花のイラストがふよふよ飛んでいるように楽しそうな顔である。きっと陸上部で友達が増えたのが嬉しいのだろう。いまでも蝶と走る事があるが、その時の彼女に以前のような剣呑な雰囲気は無く、走るのが好き、そんな声が聞こえてきそうな晴れやかな表情で走るようになったのだ。

「まっ、楽しいってのも疲れるときは疲れるよな。慣れてないと特に」

「人をぼっちみたいに言わないでよね。これでも友達は多いほうなんだから」

「知ってるよ」

「ふふん」

 蝶はフラペチーノを飲んだ。

「で、ゆう君は何してんの。お姉ちゃんは?」

「水着を選んでるとこ。旅行先で見せたいんだとさ」

 なんでも明け透けにする舞羽にしては珍しい事だ、と僕は付け加えた。

「そうかな? けっこうゆう君に秘密にしてることあるよ?」

「例えば?」

「おへその右下のホクロ」

「それは……知らないな」

 蝶の発言は驚きであった。

 言われてみれば、僕は舞羽の体をよく見たことは無い気がする。事故を除けば、僕達は一線超えた関係では無いのだからお互いの裸を見せ合う事はない。そんな事をしたら蝶に殺されて今頃は桜の木の下に眠っているであろう。

 おへその右下のホクロ。それはなぜだかエロスを感じさせた。大人っぽいように思われた。

「想像したね?」

「………してない」

「顔真っ赤」

「してないったら」

「本当かなー?」

「………………………」

 正直に白状すると、僕は、舞羽の体を想像した。雪のように白くキラキラした肢体も、意外と大きい胸も、下手に見たことがあるだけに妙に高解像度で再現された。

 おへその右下のホクロ。それは真っ白い習字用半紙に打たれた黒い点のごとき存在感があるように思われる。

 子供っぽいと思っていた舞羽の体に現れた新星のごとき大人の色気。

 間が悪い事にちょうど舞羽が戻ってきた。

「お待たせ―。あれ、ゆう、顔赤いよ?」

 手に紙袋を携えて、とてとてと小走りでかけてくる舞羽。

 想像の舞羽とリアルの舞羽を重ね合わせてしまった僕は、思わず呟いた。「……………ホクロ」

「ほくろ?」

 舞羽が首をかしげる。その簡単な所作でさえ小悪魔的な色気が備わっているように見えた。

 蝶が余計なことを言うからおへその右下のホクロが頭から離れない。

「むっつりスケベめ」

 蝶がフラペチーノをずずずと飲んだ。


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