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1章
67.社畜の影響力
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試験終了後、俺達はシエラさんが手配してくれていたロイヤルブラッドの冒険者から手厚い回復魔術を受けた。即座に傷や痛みが治るわけではないが、それでも回復を続けて貰ううちに、さっきまで常に悲鳴を上げていた身体が随分と楽になり、気を失っていたルミエナ達も無事に意識を取り戻した。
そうしてトマスさんからの案内を待つ間、シエラさんからの「無茶しすぎなので自分を大事にして欲しい」というような頭ホワイト企業の発言に対して、ファルが「仕事なんだから成果出すために無茶するのは当然」と反論したりといったようなやり取りを眺めていた。
そして。
「それでは、試験結果の発表をさせて頂きます」
その時がやってきたのだった。
◇
どうやら発表についてはガイウスさんが行うらしい。今回の試験監督も兼ねている関係からだろう。
試験では使用不可状態に陥っていた左腕も既に傷跡含め完治しているようで、未だに身体の節々が痛い俺とは違って基礎能力の差を感じてしまう。
「では、イトーのAランク昇級試験結果から発表する」
……先に俺からか。
分かりやすい成果を挙げられなかっただけにどうなるか予想がつかない。
駄目だ。なんだか緊張してきた。
「い、い、いとーさん。だ、だだだいじょぶですよね?」
と思ったけど俺より緊張しているルミエナを見てたらちょっと落ち着いた。
もう結果は決まっているんだ。出た結果を受け入れるだけ。
覚悟を決めて言葉を待つ。そして。
「イトーよ。お前を"Aランク冒険者"に認定する」
その言葉で一気に肩の荷が下りた。
「い、いとーさんすごいですっ! えーらんくですよっ」
「やっぱさすがッスね」
「ま、うちのイトーなら当然ね」
「まーそーだねー」
「イトーさん、おめでとうございます」
自分のことのように喜んでくれるルミエナや、結果はわかっていたとばかりに特に大きな反応を見せないファルにリース。お祝いの言葉を述べてくれるシエラさん。俺の昇級にみんなそれぞれ色々な反応を見せてくれる。
そしてそれも一通り落ち着いた頃、ガイウスさんが口を開き。
「戦い慣れしていない部分含め全体的に経験不足ではあるが、それを補って余りある高い基礎能力から我とトマス双方共Aランク冒険者の資格有りと判断した」
「ありがとうございます」
総評をくれたガイウスさん含め、みんなにお礼を言う。
これで俺も一気にAランクか……今のところあまり実感は湧いていないがこれから先、今までよりも遥かに高難度の依頼にも対応出来るようになると考えるだけで、ゾクゾクしてくる。イーノレカの成長にも大きく貢献ができる。
「では次に小娘、リース・ハルーインの結果だが――」
「すみませんが、それは少し待ってください」
リースの結果発表に移ろうとしたガイウスさんをトマスさんが制止する。
「イトーさんにはまだお伝えすることが残っています。リースさんの結果はその後に」
「ん? まだ何かあったか? 我に覚えはないぞ」
「ええ当然です。あなたにはお話してないですからね」
「む……?」
少し困惑気味な表情を浮かべるガイウスさんをよそに、トマスさんが話を続ける。
「この試験を実施するに辺り、事前にギルド管理局でイトーさんのことを調べさせて頂きました」
俺について調べてあるというのは先日ギルドホームで聞いている。本当に昇級試験を実施する必要があるのかどうかの見極めの為にもそういった調査は必要なのだろう。
「最初は目を疑いましたよ。尋常ではない依頼達成数にリースさんとの公開模擬戦の内容。とんでもない人物がいるのだと」
「うむそうだな。であるから此度の試験を実施したのであろう?」
ガイウスさんの問いかけにトマスさんは小さく「ええ」と頷く。
「確かに特例での昇級試験を実施するに相応しい能力と実績です。それは間違いありません。……ですが彼の場合、その実績が行き過ぎています。誰がどう見ても1人の人間がこなせる業務量ではありません」
その言葉にファルはむっとして。
「それはうちの出した報告書に虚偽があるとでも言いたいのかしら? 漏れなく全て提出していてこれまで管理局側からは何の指摘も受けてないのだけれど?」
イーノレカが不正を働いているとも聞こえる言い方にすぐさま反論する。ファルの言う通り報告書に関しては漏らさず作成しているし、ファルもそれをチェックしている。報告書はギルドの収益管理にも繋がってくるものなので不正発覚時のペナルティが非常に大きい。リスク管理をしっかりしているファルがそんなことをするとは考えにくい。
「いいえ、そこは疑っていません。……ただ、個人的には虚偽であって欲しかったとは思っていますが」
不正を疑っていたわけでも、実際に不正があった訳でもないようだ。だがそうなるとますます何を言いたいのかが見えてこない。周りもみんな状況を掴みかねているようで成り行きを見守っている。
そうした中、話を続けているトマスさんは真っ直ぐに俺を見て。
「正直に言うと、僕……いや冒険者ギルド管理局はイトーさん。あなたを危険視しています」
「……私を危険視ですか?」
一体どういう意味なのか。この世界の法に触れることをしたような覚えもないし、勿論この先していくつもりもない。それなのに管理局から危険視される理由に全く心当たりがなかった。
「…………無自覚、ですか。だから尚更なのでしょうね」
俺の表情から話を理解できていないと悟ったのか、トマスさんが苦笑を浮かべる。
「あなたは凄い人なのだと思います。昼夜問わず依頼人の為に走り回り、それなのに多くの見返りは求めない。そして高い能力に驕ることもせず常に自分を追い詰め続けられる精神力。あなたについて調べていくうちに僕もファンになってしまうぐらいには」
これは……褒められているのだろうか? お礼とか言ったほうがいいのだろうか。
そんな馬鹿なことを考えていると、トマスさんが眼鏡を中指で正しながら。
「だから周りも――そんなあなたの影響を受ける。そしてその"影響力"こそが僕達管理局が危惧しているものです」
影響力……?
あれか、いわゆるインフルエンサー的な?
「……私にそんな影響力があるなんて思えないのですが」
立場上強くは出られないので控えめにそう否定しておく。多少この辺りの街では顔を知られてきたとはいえ有名人という程ではない、ただの社畜の俺にそんな大層な影響力があるとは思えない。
俺の返答を受けたトマスさんは「そうですか」と呟いたあと、今度はリースに。
「リースさん。以前のあなたは依頼放棄もするような方でしたが、それが突如真面目に依頼をこなすようになり、今やAランクの中でもトップクラスの成績を収めています。何か心境の変化でもあったのでしょうか?」
そして突然話を振られたリースは。
「まー……そーだね。うん、イトーくんに負けないよーにがんばろーって最近はがんばってたかなー」
そう答えた。そしてトマスさんはリースの返答に対して何か反応するでもなく、今度はシエラさんに。
「イトーさんを講師として招いた研修後、そちらに所属している一部冒険者の成績が大幅に向上していたようですが、何か心当たりはありませんか?」
あまりにも欲しい答えが透けている質問だったからか、シエラさんは「はぁ」と小さく溜息をついて。
「理由については既に貴方が仰ってますわね。ええ、そうですわ。イトーさんがとても有意義な研修をしてくれたからですわ」
「そうッスね。あれからセンパイ達すげー頑張ってるッス」
そしてその返答を引き出したトマスさんはまた俺を見て。
「どうでしょうか? これでもあなたは自分に影響力がないと言えますか?」
まぁ本人たちの口から言われてしまうと確かに影響力がないとは言い切れない。……が、この程度のことで危険視されているというのは腑に落ちない。
そう思っていると。
「むしろ良い変化ではないか。業界が活気づく」
「そうですわね。お陰でわたくしのギルドも昨年より成長しておりますし」
ガイウスさんとシエラさんからの意見が出る。どちらも規模の大きいギルドのマスターだけに説得力のある発言だ。
「ええ、そのような適度な変化であれば問題ありません。ですが例えばその方達が昼夜問わず自分の身を省みず、まるでイトーさんのように働き続けてしまうとどうなるでしょうか?」
「普通に考えると……体調を崩してしまいますわね」
シエラさんの返答に「ええ、そうです」と頷くトマスさん。しかしガイウスさんの方はあまりピンときていないようで訝しげな表情をしながら。
「だが自分の身体だぞ? そこまで無茶するような奴が出てくるとは思えんが」
「いいえ、既に実例があるからこそ僕達はイトーさんを危険視せざるを得ないのですよ。そしてその方はこの場にいる――」
そう言いながら俺達を見渡すように、ゆっくりと視線を移動させ――あるところで動きを止めた。
「ルミエナ・レイマークさん。あなたです」
「ふぇっ?」
話が自分に来るとは思っていなかったのだろう、ルミエナはきょとんとした表情。しかし全員の視線が自分に集まっていることに気付くと、すぐにあたふたと慌て出し、視線から逃れるように両手で魔女帽子を引っ張って深く被り直した。
「ひぃぃ……あた、あたし何もしてませんよぅ……」
「いいえ。あなたもまるでイトーさんのような働き方をしてしまっています」
まるで小動物のように怯えているが、トマスさんは全く気にした様子もなく話を続ける。
「しかもあなたは魔狩りの鎖――いいえ、それ以前も含めて殆ど実績を残せていない方でした。それが今や昼夜問わず働き続け実績を挙げている……これは明らかにイトーさんの影響を受けてしまっている証拠です」
「こじつけね。この子が頑張って働いてくれているのは本人の努力によるものよ。ちょっと調べただけで実態を見ていない貴方が憶測で物を言わないでくれるかしら」
すかさずファルがそう反論するが、トマスさんは平然とした表情を崩すことなく。
「ええ、そうですね。僕が事前に確認したのはあくまでも書類上の記録だけです。だからこそ今回の試験でイトーさんの周囲の方達がどう動くのかをこの目で確認させて頂きました」
俺の周囲の……?
もしかしてサポートメンバーの選出基準というのは……。
「結果は見ての通り。お二人はサポートメンバーという立場でも魔力を使い果たすまで戦い、自分を犠牲にしてまで死力を尽くす――自分の身を省みない戦い方を見て確信しました。……イトーさん、やはりあなたは睨んだ通り、周りに大きな影響を及ぼす危険な存在です」
雲行きが怪しい。嫌な予感がする。
俺が当たり前に持っている"仕事だから"という意識。仕事を達成するためなら、成果を出すためなら、指示や命令を遂行するためなら、自分のことなんて二の次にしてしまう社畜としての性質。この性質を、管理局が"悪"だと捉えてしまっているのだとしたら――。
「高ランク冒険者となったあなたは、これまで以上に与える影響力が大きくなっていくことでしょう。そうなるとこの先に待っているのは冒険者業界の急激過ぎる成長と――そして疲弊と破滅。……ですからそうなる前に、あなたの影響力が業界全体に及んでしまう前に――」
管理局が取る行動は恐らく――。
「冒険者ギルド管理局の権限に於いてイトーさん。あなたの冒険者資格を――剥奪します」
そうしてトマスさんからの案内を待つ間、シエラさんからの「無茶しすぎなので自分を大事にして欲しい」というような頭ホワイト企業の発言に対して、ファルが「仕事なんだから成果出すために無茶するのは当然」と反論したりといったようなやり取りを眺めていた。
そして。
「それでは、試験結果の発表をさせて頂きます」
その時がやってきたのだった。
◇
どうやら発表についてはガイウスさんが行うらしい。今回の試験監督も兼ねている関係からだろう。
試験では使用不可状態に陥っていた左腕も既に傷跡含め完治しているようで、未だに身体の節々が痛い俺とは違って基礎能力の差を感じてしまう。
「では、イトーのAランク昇級試験結果から発表する」
……先に俺からか。
分かりやすい成果を挙げられなかっただけにどうなるか予想がつかない。
駄目だ。なんだか緊張してきた。
「い、い、いとーさん。だ、だだだいじょぶですよね?」
と思ったけど俺より緊張しているルミエナを見てたらちょっと落ち着いた。
もう結果は決まっているんだ。出た結果を受け入れるだけ。
覚悟を決めて言葉を待つ。そして。
「イトーよ。お前を"Aランク冒険者"に認定する」
その言葉で一気に肩の荷が下りた。
「い、いとーさんすごいですっ! えーらんくですよっ」
「やっぱさすがッスね」
「ま、うちのイトーなら当然ね」
「まーそーだねー」
「イトーさん、おめでとうございます」
自分のことのように喜んでくれるルミエナや、結果はわかっていたとばかりに特に大きな反応を見せないファルにリース。お祝いの言葉を述べてくれるシエラさん。俺の昇級にみんなそれぞれ色々な反応を見せてくれる。
そしてそれも一通り落ち着いた頃、ガイウスさんが口を開き。
「戦い慣れしていない部分含め全体的に経験不足ではあるが、それを補って余りある高い基礎能力から我とトマス双方共Aランク冒険者の資格有りと判断した」
「ありがとうございます」
総評をくれたガイウスさん含め、みんなにお礼を言う。
これで俺も一気にAランクか……今のところあまり実感は湧いていないがこれから先、今までよりも遥かに高難度の依頼にも対応出来るようになると考えるだけで、ゾクゾクしてくる。イーノレカの成長にも大きく貢献ができる。
「では次に小娘、リース・ハルーインの結果だが――」
「すみませんが、それは少し待ってください」
リースの結果発表に移ろうとしたガイウスさんをトマスさんが制止する。
「イトーさんにはまだお伝えすることが残っています。リースさんの結果はその後に」
「ん? まだ何かあったか? 我に覚えはないぞ」
「ええ当然です。あなたにはお話してないですからね」
「む……?」
少し困惑気味な表情を浮かべるガイウスさんをよそに、トマスさんが話を続ける。
「この試験を実施するに辺り、事前にギルド管理局でイトーさんのことを調べさせて頂きました」
俺について調べてあるというのは先日ギルドホームで聞いている。本当に昇級試験を実施する必要があるのかどうかの見極めの為にもそういった調査は必要なのだろう。
「最初は目を疑いましたよ。尋常ではない依頼達成数にリースさんとの公開模擬戦の内容。とんでもない人物がいるのだと」
「うむそうだな。であるから此度の試験を実施したのであろう?」
ガイウスさんの問いかけにトマスさんは小さく「ええ」と頷く。
「確かに特例での昇級試験を実施するに相応しい能力と実績です。それは間違いありません。……ですが彼の場合、その実績が行き過ぎています。誰がどう見ても1人の人間がこなせる業務量ではありません」
その言葉にファルはむっとして。
「それはうちの出した報告書に虚偽があるとでも言いたいのかしら? 漏れなく全て提出していてこれまで管理局側からは何の指摘も受けてないのだけれど?」
イーノレカが不正を働いているとも聞こえる言い方にすぐさま反論する。ファルの言う通り報告書に関しては漏らさず作成しているし、ファルもそれをチェックしている。報告書はギルドの収益管理にも繋がってくるものなので不正発覚時のペナルティが非常に大きい。リスク管理をしっかりしているファルがそんなことをするとは考えにくい。
「いいえ、そこは疑っていません。……ただ、個人的には虚偽であって欲しかったとは思っていますが」
不正を疑っていたわけでも、実際に不正があった訳でもないようだ。だがそうなるとますます何を言いたいのかが見えてこない。周りもみんな状況を掴みかねているようで成り行きを見守っている。
そうした中、話を続けているトマスさんは真っ直ぐに俺を見て。
「正直に言うと、僕……いや冒険者ギルド管理局はイトーさん。あなたを危険視しています」
「……私を危険視ですか?」
一体どういう意味なのか。この世界の法に触れることをしたような覚えもないし、勿論この先していくつもりもない。それなのに管理局から危険視される理由に全く心当たりがなかった。
「…………無自覚、ですか。だから尚更なのでしょうね」
俺の表情から話を理解できていないと悟ったのか、トマスさんが苦笑を浮かべる。
「あなたは凄い人なのだと思います。昼夜問わず依頼人の為に走り回り、それなのに多くの見返りは求めない。そして高い能力に驕ることもせず常に自分を追い詰め続けられる精神力。あなたについて調べていくうちに僕もファンになってしまうぐらいには」
これは……褒められているのだろうか? お礼とか言ったほうがいいのだろうか。
そんな馬鹿なことを考えていると、トマスさんが眼鏡を中指で正しながら。
「だから周りも――そんなあなたの影響を受ける。そしてその"影響力"こそが僕達管理局が危惧しているものです」
影響力……?
あれか、いわゆるインフルエンサー的な?
「……私にそんな影響力があるなんて思えないのですが」
立場上強くは出られないので控えめにそう否定しておく。多少この辺りの街では顔を知られてきたとはいえ有名人という程ではない、ただの社畜の俺にそんな大層な影響力があるとは思えない。
俺の返答を受けたトマスさんは「そうですか」と呟いたあと、今度はリースに。
「リースさん。以前のあなたは依頼放棄もするような方でしたが、それが突如真面目に依頼をこなすようになり、今やAランクの中でもトップクラスの成績を収めています。何か心境の変化でもあったのでしょうか?」
そして突然話を振られたリースは。
「まー……そーだね。うん、イトーくんに負けないよーにがんばろーって最近はがんばってたかなー」
そう答えた。そしてトマスさんはリースの返答に対して何か反応するでもなく、今度はシエラさんに。
「イトーさんを講師として招いた研修後、そちらに所属している一部冒険者の成績が大幅に向上していたようですが、何か心当たりはありませんか?」
あまりにも欲しい答えが透けている質問だったからか、シエラさんは「はぁ」と小さく溜息をついて。
「理由については既に貴方が仰ってますわね。ええ、そうですわ。イトーさんがとても有意義な研修をしてくれたからですわ」
「そうッスね。あれからセンパイ達すげー頑張ってるッス」
そしてその返答を引き出したトマスさんはまた俺を見て。
「どうでしょうか? これでもあなたは自分に影響力がないと言えますか?」
まぁ本人たちの口から言われてしまうと確かに影響力がないとは言い切れない。……が、この程度のことで危険視されているというのは腑に落ちない。
そう思っていると。
「むしろ良い変化ではないか。業界が活気づく」
「そうですわね。お陰でわたくしのギルドも昨年より成長しておりますし」
ガイウスさんとシエラさんからの意見が出る。どちらも規模の大きいギルドのマスターだけに説得力のある発言だ。
「ええ、そのような適度な変化であれば問題ありません。ですが例えばその方達が昼夜問わず自分の身を省みず、まるでイトーさんのように働き続けてしまうとどうなるでしょうか?」
「普通に考えると……体調を崩してしまいますわね」
シエラさんの返答に「ええ、そうです」と頷くトマスさん。しかしガイウスさんの方はあまりピンときていないようで訝しげな表情をしながら。
「だが自分の身体だぞ? そこまで無茶するような奴が出てくるとは思えんが」
「いいえ、既に実例があるからこそ僕達はイトーさんを危険視せざるを得ないのですよ。そしてその方はこの場にいる――」
そう言いながら俺達を見渡すように、ゆっくりと視線を移動させ――あるところで動きを止めた。
「ルミエナ・レイマークさん。あなたです」
「ふぇっ?」
話が自分に来るとは思っていなかったのだろう、ルミエナはきょとんとした表情。しかし全員の視線が自分に集まっていることに気付くと、すぐにあたふたと慌て出し、視線から逃れるように両手で魔女帽子を引っ張って深く被り直した。
「ひぃぃ……あた、あたし何もしてませんよぅ……」
「いいえ。あなたもまるでイトーさんのような働き方をしてしまっています」
まるで小動物のように怯えているが、トマスさんは全く気にした様子もなく話を続ける。
「しかもあなたは魔狩りの鎖――いいえ、それ以前も含めて殆ど実績を残せていない方でした。それが今や昼夜問わず働き続け実績を挙げている……これは明らかにイトーさんの影響を受けてしまっている証拠です」
「こじつけね。この子が頑張って働いてくれているのは本人の努力によるものよ。ちょっと調べただけで実態を見ていない貴方が憶測で物を言わないでくれるかしら」
すかさずファルがそう反論するが、トマスさんは平然とした表情を崩すことなく。
「ええ、そうですね。僕が事前に確認したのはあくまでも書類上の記録だけです。だからこそ今回の試験でイトーさんの周囲の方達がどう動くのかをこの目で確認させて頂きました」
俺の周囲の……?
もしかしてサポートメンバーの選出基準というのは……。
「結果は見ての通り。お二人はサポートメンバーという立場でも魔力を使い果たすまで戦い、自分を犠牲にしてまで死力を尽くす――自分の身を省みない戦い方を見て確信しました。……イトーさん、やはりあなたは睨んだ通り、周りに大きな影響を及ぼす危険な存在です」
雲行きが怪しい。嫌な予感がする。
俺が当たり前に持っている"仕事だから"という意識。仕事を達成するためなら、成果を出すためなら、指示や命令を遂行するためなら、自分のことなんて二の次にしてしまう社畜としての性質。この性質を、管理局が"悪"だと捉えてしまっているのだとしたら――。
「高ランク冒険者となったあなたは、これまで以上に与える影響力が大きくなっていくことでしょう。そうなるとこの先に待っているのは冒険者業界の急激過ぎる成長と――そして疲弊と破滅。……ですからそうなる前に、あなたの影響力が業界全体に及んでしまう前に――」
管理局が取る行動は恐らく――。
「冒険者ギルド管理局の権限に於いてイトーさん。あなたの冒険者資格を――剥奪します」
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