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1章
35.研修合宿その3【研修のために】
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――その話が出たのは俺がリースとの戦闘訓練を終え、宿舎の部屋へと戻ってきた時だった。
「あ、アニキ! ってどうしたんスかその身体……」
「まぁちょっと色々あってな」
カマセイ君が俺の姿を見るなり慌てて駆け寄ってきた。まぁこんな色々とボロボロな身体じゃ驚かれるのは無理もないか。
「で、みんな何してるんだ?」
今はもう深夜と言ってもいい時間帯。俺がリースとの訓練に出る前から既に研修生達は死屍累々といった感じだったので、てっきり就寝しているかと思いきや、何故か一箇所に固まってなにか話し合いでもしているような様子だ。
「こ、こっちも色々あるんスよねー……ははは……」
乾いた笑い。何かを誤魔化す、あるいは隠そうとしている様子が見え見えではあるが……知られたくなさそうなので気にしないでおこう。
「ところでアニキをそんなにボロボロに出来る人って……もしかして……」
「ああ、リースにちょっとばかり稽古をつけて貰っていた」
ちょっと、という表現は正しくないかもしれないけど……と思っていると。
「な、なにぃっ!? リースちゃんだと!?」
「リースさんが来ているんですかっ!?」
「うおおおおっ! リースちゃーん!」
固まって何か話し合いをしていた男共が突然凄い勢いでこちらへと押し寄せてきた。
「ちょ、ちょっとみんな落ち着くッスよ! アニキは怪我人なんスから!」
いや別に怪我はもう回復魔術で治して貰ってるんだけど……ってこの場を収める為には否定しない方がいいのか。
そしてカマセイ君の言葉が効いたのか押し寄せてきた男共のムサイ群れが少しだけ引いてくれた。
「す、すみません。リースちゃんが来てるって聞いてつい……」
「ん? リースはこの研修の現責任者だろ?」
本来ギルドマスターのシエラさんが責任者になるのが普通だが今日だけはどうしても都合がつかなかったらしい。とはいえ責任者不在という訳にもいかないので丁度手が空いていてギルド内の地位も高いリースを暫定的に責任者としている。
それなのにリースがいることを同じギルドのメンバーが知らないのはおかしい。
「リースの姉御は気まぐれなトコあるッスからねぇ……」
「しょっちゅう仕事サボってるからなぁ」
……なるほど、納得した。
メインの研修をずっと俺が進めていたせいもあり、リースの出番がなかったので今回もサボりだと思われていたのだろう。
「いやぁリースちゃんが来てるって知ったら依然やる気が出てきたぜ」
「ああ、やってやろうぜっ!」
腰が痛いだのと嘆いていた研修生たちはどこへやら。なぜかは知らないが燃えている。誰もがやる気に満ちた表情だ。
「そういうことならやっぱイトーさんにも協力して貰った方がいいんじゃないか?」
「そうだな……俺達だけじゃもしもの時、確実に全滅だ」
「よしカマセイ。先輩命令だ。イトーさんに協力をお願いしろ」
「ええっ!? お、オレがッスか!? ……まぁ命令なら仕方ないスけど」
ホワイト企業のロイヤルブラッドとはいえ、どうやら先輩後輩の上下関係は体育会系のようだ。ルミエナを勧誘する時にシエラさんにかましたハッタリもあながち間違いではなかった……ということにしておこう。
「イトーのアニキ。アニキを男と見込んで頼みがあるッス」
真剣な表情でカマセイ君が俺を見る。相変わらず整った顔立ちのイケメンだ。
ともあれ改まった頼み方をされれば俺も適当に答える訳にもいかない。どんな頼みがこようとしっかりと考えた上で返答を述べよう。
「女風呂の覗きに協力して欲しいッス」
…………。
……。
「はぁっ!?」
しっかりと考える前に驚きが出てしまった。
「予想通りの反応ッスねぇ……」
「いやそりゃそうなる……本気で言っているのか?」
聞き返すとカマセイ君は苦笑いを浮かべながら小さく頷いた。
そうかぁ……だからリースが来てるって聞いてこんなにはしゃいでいたのか。
「お願いしますイトーさん!」
「最悪の場合リースさんを止められるのはイトーさんしかいないんです!」
最悪の場合って見つかった時か……。
確かにDランク以下の人たちだけではこの間のように一瞬で蹴散らされるのは目に見えている。
「「「「「「「お願いしますっ!」」」」」」」
ともあれこれだけの熱意を無碍にするのは忍びない。
なにより困難に立ち向かい、協力し合うことで絆は生まれる。仲間の為に頑張りたい、仲間を放っておけないという気持ちを芽生えさせることが出来るかもしれない。
となれば、これも研修の一環に含まれると考えられる。つまり講師として招かれた俺が取るべき行動は。
「――わかった。協力しよう」
「うおおおお! やったぜええええ!!」
「イトーさんが来てくれるなら安心だ! じゃあ早速――」
随分と盛り上がっていて、中には先走ろうとする奴もいるようだが――。
「待て。今行くのなら俺は協力しないぞ」
「な、なぜっ!? 今ならリースちゃんがいる確率が高いじゃないですか!」
そうだそうだ。今行かないならいつ行くのか? というような声が起こる。
確かに俺との研修もとい訓練でかいた汗や汚れを流しに風呂へ入っている確率は高いだろう。
けれど、けれどもだ。
「考えなしに突撃するのは下策だ。下見、行動ルート、人数、タイミング、その他諸々入念に打ち合わせ、準備を整え――少しでも成功率を高める」
仕事に限らず何事において計画を立てるのはとても大切だ。無計画に事を起こしその場その場をアドリブで切り抜けられる奴なんて一握りの天才だけ。その場凌ぎを何度か繰り返した辺りで限界がきて詰みを迎えてしまうのが普通だ。
特に今回の場合攻め入る場所と目的が決まっており参加者全員のモチベーションも高い。これだけの好条件が揃っているなら計画を立て、確実性を高めるべきだということを、今回のことを通じて皆にも知ってほしい。
そんな俺の考えに賛同してくれたのか「おぉ……」と感嘆の声が起こる。
「で、でもよっ。昂ぶったこの気持ちはどうすればいいんだよっ!」
一人が声を挙げる。他の者も口にこそ出さないものの「出来ることなら今すぐにでも覗きにいきたい」と顔に出ている。
「いいか、よく聞け」
今の俺は研修生たちを教え導く講師。
情熱を上手く、正しい道へと誘導しなければならない。
「明日になれば――――シエラさんが合流する」
「「「「「「「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」
初日は都合がつかずに来れなかったシエラさんだが、明日から合流する予定となっている。すなわち、今日よりも明日の方が色々と豪華なのだ。そう、色々と。豪華、なのだ。
俺の言葉の意味することがわかったのか、心の奥底で情熱を燃やすことすれ、暴走する者は誰もいなかった。
「ふっ、わかってくれたようだな。安心しろ、完璧な作戦を考えておく……が、明日の研修で不甲斐ない態度を少しでも見せたらこの話は無しだ」
「そういう訳だから今からどうすればわかるよな?」と問いかけると全員が一糸乱れぬ行動を取り、ベッドへと潜り込んでいった。
明日の研修も激しいものになる。体力の回復は大事だということを理解してくれているようだ。
「………………イトーのアニキ、マジパないっすね」
そして翌日の研修は何も知らない女性陣との成績差が二倍近く開くほどの熱意を見せ。
――いよいよ決行の時がやってきた。
「まずは打ち合わせだ。これを見て欲しい」
宿舎の部屋。むさ苦しい男共が一箇所に集まり、俺が作成した作戦図を覗き込む。
「すげえ……」
「こんな高精度な地図一体どこで……」
「書き込みもすごいッスねこれ。ありとあらゆるルートを試した跡が見えるッス……」
地図はとあるルートで入手したものだが、ルートや裏道は昨夜のうちに下見をしておいた。全てはこの研修を成功へと導くためだ。
「目的地はここだ。ここから覗くことになる」
地図を指差すと同時に戸惑いのようなざわめきが起こる。
それもそうだろう。俺が指を向けたのは森の中。この合宿場唯一の入浴施設である露天風呂があるのは宿舎のすぐ隣。それなのに俺が示した場所に行くにはわざわざ森に入ってまでぐるりと遠回りをしていく必要がある。無駄な行動だと思われてしまうのも無理はない。
「みんなが言いたいことはわかる。だがこれは見張りを避けた結果なんだ」
見張りさえいなければ堂々と正面から乗り込めばいいのだが、露天風呂の入口前には不届きな輩から肌色成分を守るための見張りが立っている。故に俺はこうして森の中――つまり見張りのいない森側からこっそり覗く道を選んだ。立地や見張りの関係上、覗くのであればここしかない。
「見張りなんかイトーさんがぶっ飛ばしてくれれば……」
「それはしない。怪我人を出すわけにもいかないからな」
というのは建前。
俺に頼り切るような計画では困難が生まれず、こいつらの間に絆が生まれなくなってしまう。
俺がぴしゃりと言い切ったからか、この話に異を唱える人はいなかった。
「では作戦を説明する」
大人数で行動すれば嫌でも目立つ。そこで俺は5人ずつの部隊にわけることにした。男の研修生は全員で19名。そこに俺を加えての総勢20名。つまり4部隊。部隊毎に出発する時間を分けることで大人数での行動を避ける。
ちなみに俺が所属するのは先発隊の役目を担うことになる第一部隊。後続部隊の為にルートの確保をしておく必要があることと、トラブルに遭遇する可能性も一番高く、状況に応じて臨機応変に動くことが必要とされる部隊なのでここには研修生の中では最高戦力であろうカマセイ君も配置している。何かあったとしても一番機転が効くのもきっとカマセイ君だろう。
ただ何事にも例外、想定外というものが存在する。そういった場合の伝令役や方法、当初のルートが使えなくなってしまった場合の第二、第三のルートについて等の説明をしていく。
そして。
「いいかみんなよく聞け。お前達は運命共同体だ。仲間は見捨てるな。共に困難を乗り越えてみせろ」
この言葉を最後に告げ、作戦は開始されたのだった。
「あ、アニキ! ってどうしたんスかその身体……」
「まぁちょっと色々あってな」
カマセイ君が俺の姿を見るなり慌てて駆け寄ってきた。まぁこんな色々とボロボロな身体じゃ驚かれるのは無理もないか。
「で、みんな何してるんだ?」
今はもう深夜と言ってもいい時間帯。俺がリースとの訓練に出る前から既に研修生達は死屍累々といった感じだったので、てっきり就寝しているかと思いきや、何故か一箇所に固まってなにか話し合いでもしているような様子だ。
「こ、こっちも色々あるんスよねー……ははは……」
乾いた笑い。何かを誤魔化す、あるいは隠そうとしている様子が見え見えではあるが……知られたくなさそうなので気にしないでおこう。
「ところでアニキをそんなにボロボロに出来る人って……もしかして……」
「ああ、リースにちょっとばかり稽古をつけて貰っていた」
ちょっと、という表現は正しくないかもしれないけど……と思っていると。
「な、なにぃっ!? リースちゃんだと!?」
「リースさんが来ているんですかっ!?」
「うおおおおっ! リースちゃーん!」
固まって何か話し合いをしていた男共が突然凄い勢いでこちらへと押し寄せてきた。
「ちょ、ちょっとみんな落ち着くッスよ! アニキは怪我人なんスから!」
いや別に怪我はもう回復魔術で治して貰ってるんだけど……ってこの場を収める為には否定しない方がいいのか。
そしてカマセイ君の言葉が効いたのか押し寄せてきた男共のムサイ群れが少しだけ引いてくれた。
「す、すみません。リースちゃんが来てるって聞いてつい……」
「ん? リースはこの研修の現責任者だろ?」
本来ギルドマスターのシエラさんが責任者になるのが普通だが今日だけはどうしても都合がつかなかったらしい。とはいえ責任者不在という訳にもいかないので丁度手が空いていてギルド内の地位も高いリースを暫定的に責任者としている。
それなのにリースがいることを同じギルドのメンバーが知らないのはおかしい。
「リースの姉御は気まぐれなトコあるッスからねぇ……」
「しょっちゅう仕事サボってるからなぁ」
……なるほど、納得した。
メインの研修をずっと俺が進めていたせいもあり、リースの出番がなかったので今回もサボりだと思われていたのだろう。
「いやぁリースちゃんが来てるって知ったら依然やる気が出てきたぜ」
「ああ、やってやろうぜっ!」
腰が痛いだのと嘆いていた研修生たちはどこへやら。なぜかは知らないが燃えている。誰もがやる気に満ちた表情だ。
「そういうことならやっぱイトーさんにも協力して貰った方がいいんじゃないか?」
「そうだな……俺達だけじゃもしもの時、確実に全滅だ」
「よしカマセイ。先輩命令だ。イトーさんに協力をお願いしろ」
「ええっ!? お、オレがッスか!? ……まぁ命令なら仕方ないスけど」
ホワイト企業のロイヤルブラッドとはいえ、どうやら先輩後輩の上下関係は体育会系のようだ。ルミエナを勧誘する時にシエラさんにかましたハッタリもあながち間違いではなかった……ということにしておこう。
「イトーのアニキ。アニキを男と見込んで頼みがあるッス」
真剣な表情でカマセイ君が俺を見る。相変わらず整った顔立ちのイケメンだ。
ともあれ改まった頼み方をされれば俺も適当に答える訳にもいかない。どんな頼みがこようとしっかりと考えた上で返答を述べよう。
「女風呂の覗きに協力して欲しいッス」
…………。
……。
「はぁっ!?」
しっかりと考える前に驚きが出てしまった。
「予想通りの反応ッスねぇ……」
「いやそりゃそうなる……本気で言っているのか?」
聞き返すとカマセイ君は苦笑いを浮かべながら小さく頷いた。
そうかぁ……だからリースが来てるって聞いてこんなにはしゃいでいたのか。
「お願いしますイトーさん!」
「最悪の場合リースさんを止められるのはイトーさんしかいないんです!」
最悪の場合って見つかった時か……。
確かにDランク以下の人たちだけではこの間のように一瞬で蹴散らされるのは目に見えている。
「「「「「「「お願いしますっ!」」」」」」」
ともあれこれだけの熱意を無碍にするのは忍びない。
なにより困難に立ち向かい、協力し合うことで絆は生まれる。仲間の為に頑張りたい、仲間を放っておけないという気持ちを芽生えさせることが出来るかもしれない。
となれば、これも研修の一環に含まれると考えられる。つまり講師として招かれた俺が取るべき行動は。
「――わかった。協力しよう」
「うおおおお! やったぜええええ!!」
「イトーさんが来てくれるなら安心だ! じゃあ早速――」
随分と盛り上がっていて、中には先走ろうとする奴もいるようだが――。
「待て。今行くのなら俺は協力しないぞ」
「な、なぜっ!? 今ならリースちゃんがいる確率が高いじゃないですか!」
そうだそうだ。今行かないならいつ行くのか? というような声が起こる。
確かに俺との研修もとい訓練でかいた汗や汚れを流しに風呂へ入っている確率は高いだろう。
けれど、けれどもだ。
「考えなしに突撃するのは下策だ。下見、行動ルート、人数、タイミング、その他諸々入念に打ち合わせ、準備を整え――少しでも成功率を高める」
仕事に限らず何事において計画を立てるのはとても大切だ。無計画に事を起こしその場その場をアドリブで切り抜けられる奴なんて一握りの天才だけ。その場凌ぎを何度か繰り返した辺りで限界がきて詰みを迎えてしまうのが普通だ。
特に今回の場合攻め入る場所と目的が決まっており参加者全員のモチベーションも高い。これだけの好条件が揃っているなら計画を立て、確実性を高めるべきだということを、今回のことを通じて皆にも知ってほしい。
そんな俺の考えに賛同してくれたのか「おぉ……」と感嘆の声が起こる。
「で、でもよっ。昂ぶったこの気持ちはどうすればいいんだよっ!」
一人が声を挙げる。他の者も口にこそ出さないものの「出来ることなら今すぐにでも覗きにいきたい」と顔に出ている。
「いいか、よく聞け」
今の俺は研修生たちを教え導く講師。
情熱を上手く、正しい道へと誘導しなければならない。
「明日になれば――――シエラさんが合流する」
「「「「「「「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」
初日は都合がつかずに来れなかったシエラさんだが、明日から合流する予定となっている。すなわち、今日よりも明日の方が色々と豪華なのだ。そう、色々と。豪華、なのだ。
俺の言葉の意味することがわかったのか、心の奥底で情熱を燃やすことすれ、暴走する者は誰もいなかった。
「ふっ、わかってくれたようだな。安心しろ、完璧な作戦を考えておく……が、明日の研修で不甲斐ない態度を少しでも見せたらこの話は無しだ」
「そういう訳だから今からどうすればわかるよな?」と問いかけると全員が一糸乱れぬ行動を取り、ベッドへと潜り込んでいった。
明日の研修も激しいものになる。体力の回復は大事だということを理解してくれているようだ。
「………………イトーのアニキ、マジパないっすね」
そして翌日の研修は何も知らない女性陣との成績差が二倍近く開くほどの熱意を見せ。
――いよいよ決行の時がやってきた。
「まずは打ち合わせだ。これを見て欲しい」
宿舎の部屋。むさ苦しい男共が一箇所に集まり、俺が作成した作戦図を覗き込む。
「すげえ……」
「こんな高精度な地図一体どこで……」
「書き込みもすごいッスねこれ。ありとあらゆるルートを試した跡が見えるッス……」
地図はとあるルートで入手したものだが、ルートや裏道は昨夜のうちに下見をしておいた。全てはこの研修を成功へと導くためだ。
「目的地はここだ。ここから覗くことになる」
地図を指差すと同時に戸惑いのようなざわめきが起こる。
それもそうだろう。俺が指を向けたのは森の中。この合宿場唯一の入浴施設である露天風呂があるのは宿舎のすぐ隣。それなのに俺が示した場所に行くにはわざわざ森に入ってまでぐるりと遠回りをしていく必要がある。無駄な行動だと思われてしまうのも無理はない。
「みんなが言いたいことはわかる。だがこれは見張りを避けた結果なんだ」
見張りさえいなければ堂々と正面から乗り込めばいいのだが、露天風呂の入口前には不届きな輩から肌色成分を守るための見張りが立っている。故に俺はこうして森の中――つまり見張りのいない森側からこっそり覗く道を選んだ。立地や見張りの関係上、覗くのであればここしかない。
「見張りなんかイトーさんがぶっ飛ばしてくれれば……」
「それはしない。怪我人を出すわけにもいかないからな」
というのは建前。
俺に頼り切るような計画では困難が生まれず、こいつらの間に絆が生まれなくなってしまう。
俺がぴしゃりと言い切ったからか、この話に異を唱える人はいなかった。
「では作戦を説明する」
大人数で行動すれば嫌でも目立つ。そこで俺は5人ずつの部隊にわけることにした。男の研修生は全員で19名。そこに俺を加えての総勢20名。つまり4部隊。部隊毎に出発する時間を分けることで大人数での行動を避ける。
ちなみに俺が所属するのは先発隊の役目を担うことになる第一部隊。後続部隊の為にルートの確保をしておく必要があることと、トラブルに遭遇する可能性も一番高く、状況に応じて臨機応変に動くことが必要とされる部隊なのでここには研修生の中では最高戦力であろうカマセイ君も配置している。何かあったとしても一番機転が効くのもきっとカマセイ君だろう。
ただ何事にも例外、想定外というものが存在する。そういった場合の伝令役や方法、当初のルートが使えなくなってしまった場合の第二、第三のルートについて等の説明をしていく。
そして。
「いいかみんなよく聞け。お前達は運命共同体だ。仲間は見捨てるな。共に困難を乗り越えてみせろ」
この言葉を最後に告げ、作戦は開始されたのだった。
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