Go to the Frontier(new)

鼓太朗

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第三章 ラプラドル島 前編

ラプラドル島見学ツアー③

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「アルカマウラに行く前に」
そう言ってポポルはスルガトラスの1階に皆を案内した。
「ここは武器庫。世界中から取り寄せたありとあらゆる武器が保管されています。」
そう言って大きく重そうな鉄の扉をポポルは身体全体を使って押し開けた。

中は本当に様々な武器が整然と並んでいる。
どうやって持てばいいのか分からないような巨大な大刀や金槌から手のひらに収まりそうな小さな双剣、大小様々な弓矢にオーソドックスな剣もある。
一口に「剣」といっても形態や大きさは様々。
アラベスクやカルバンとはまた違った異国の武器らしきものもたくさんあった。
ビックリするくらい細身の「かたな」と呼ばれる武器。
少し反っていて切れるのは外側だけ。
一般的な「剣」とは明らかに違う。
青白い光を放つ刀は芸術品のようだ。

様々な武器のなかには魔法の効果のあるものもあるらしい。
水の双剣は刃が鮮やかなブルーをしていたし、オレンジ色の淡い光を放つ火の槍は触るとほんのり温かかった。

「週に一度の安息日にはこれらの武器の整備もします」
そういえばハイデンもそんなことを言っていたっけ。
レオンはそう思いながら武器庫を回る。
ハンマー、槍、弓矢など、剣以外にも様々な武器が並んでいるのを口をポカーンと開けて見て回る姿はなんとも間抜けで滑稽だが、それほどのバリエーションだった。
普段たいして武器に興味を持たないレオンもこのときばかりはくぎ付けになった。

「次はアルカマウラですー。」
そう言って武器庫を出たポポルは
農園のある2階を通り過ぎてもうひとつの塔の前まで来た。

スルガトラスは濃い赤茶色のレンガだったが、こちらは真っ黒なレンガ造り。
先の尖った帽子のような塔だった。
2階から中に入る。

2階はスルガトラスと同じように広い土の床の運動場のような部屋だった。
真ん中ではライモンダ先生が20人程の生徒に授業をしている。
「ライモンダ先生は魔法のスペシャリストですが、徳に攻撃魔法がご専門です。見てください。すごいですよ」
ポポルがそう言うのと運動場に巨大な氷の柱がとんでもない音をたてて反り立ったのはほぼ同時だった。
「おー!!」
一同、思わず感嘆の声をあげる。
自分もいずれはあんな魔法が使えるようになるのだろうか。
レオンは思わずうっとりと輝く氷の柱を見つめた。
次の瞬間、その氷の柱は粉々に砕け散った。
そして空間を青く染めながらキラキラと輝き渦巻き始めたのだ。
「あれはスノーフレイク。強烈な冷気が空間にまで作用する魔法です。綺麗ですが、あの中心は体を切り裂く程の超低温地帯です。近づかないようにね」
ポポルは事も無げに言う。
まぁさすがにあそこには近づけはしなさそうだが、あんなに綺麗なのに何とも猟奇的な魔法だ。
ライモンダはというと…。
「笑ってるね…」
最も猟奇的なのはライモンダ先生かもしれない。

「さぁ、上の階に行きましょう」
ポポルは笑顔でライモンダ先生に挨拶をすると階段を上って上のフロアに。
レオンたちも軽く会釈をしてポポルの後に続いた。

3階、4階もスルガトラスのように教室が二つずつ。
ただここはスルガトラスとは違って、特殊な教室のようだ。
「3階は調理室と、工芸用の工房です。」
これらは兵隊の食料と食器を作る部隊のために開設されている授業だとポポルは説明をする。
なるほど。
兵隊と一口にいってもいろんな仕事があるんだなぁとレオンは感心した。
中では少人数だか何人かの生徒たちが料理をしている。
何かをいぶしているような匂いがする。
「あれは干し肉の薫製を作っていますね。長持ちして味も悪くない。長旅にはもってこいです」
ポポルはペロリと舌なめずりをする。
確かに長距離の移動に食物は欠かせない。
薫製は実に理にかなった食材と言える。
「やはり腹が減っては戦はできませんから♪」
そう言ったポポルはお腹が減ったのか、少し名残惜しそうにその場を離れた。
反対側の工芸室ではこれまた少数だが轆轤 ろくろを回しながら何かを作っている。
「固くて丈夫な食器を作っています。あの焼き物は本当に固くて、落としても割れませんし、何ならハンマーで叩いてもちょっと欠ける程度です。それでいて紙のように軽い。構造は言えませんが、カルバンの誇る伝統芸能のひとつです」
「どうだ!」とばかりになぜか自慢げなポポラが可愛らしくて思わずレオンは笑ってしまう。

「4階は音楽室と美術室。5階は魔法原理等の座学で魔法を学ぶための教室です」
ポポルはそろそろ飽きてきた皆の心を読んでか足早に階段を上がっていく。
4階の音楽室には様々な楽器が所狭しと並んでいる。
「戦いの合図を知らせるラッパはあれ。一応きちんとした指導を受けないと鳴らすのは難しいです」
ポポルが指差す金色に輝くラッパ。
「戦いのラッパ」と呼ばれる特別なラッパが教室の前方に鎮座している。
日が高くなって窓の外から差し込む光が指紋ひとつないピカピカの楽器に降り注ぐ。
キャンバスが並んだ美術室や5階の教室を覗いて、レオンたちは6階に到達した。

6階はなんだか不思議な空間だった。
なんだか薬品のような匂いが充満する部屋。
「ここは薬学の座学で使用する実験室です。あそこにいるのがオセロ先生。薬学のスペシャリストです」
そういったポポルの先を見たが誰もいない…ように見えた。
そこに、山積みされた本の隙間から仔猫ほどの小さな人間がこちらを見ていた。
「リリパットのオセロ先生。弓矢の腕もピカ一」
ポポルに言われてようやく気づいた。
オセロ先生はにっこり笑うとお辞儀をしたのでレオンたちも返礼する。
「薬のことなら何でも聞けば良いですよ」
ポポルはやはり楽しそうに言った。
レオンは薬学の教室を見回した。
教室の真ん中には巨大な壺がクツクツと音をたてて煮たっている。
不思議な匂いはここから来ているようだ。
「これはね。ブカンという柑橘系の実とカルバンユリの花びら、ルコルの実で新しい睡眠薬を作っているのさ。ルコルの実だけの睡眠薬よりももっと強烈でありながら、身体への害が少ない。普通のルコルの絞り汁だけじゃぁ頭がくらくらするからねぇ」
オセロ先生は身体は小さいし分厚いターバンを巻いているのでよくわからないが声や口ぶりから年配の女性のようだ。
尖った鼻とギョロッとした大きな目。
背中からは蜻蛉かげろうのような透明な羽がはえている。
小さな身体で器用に鍋のなかを木の杓子でかき混ぜながらそう言った。
レオンもここに来た時にルコルの絞り汁で眠らされた。
起きたときの頭痛は記憶に新しい。
こういう研究もするのか。
レオンのような被害者がこれからも出るのかと思うと少し気持ちが曇った。

薬学の部屋を出てさらに階段を登るレオンたち。
7階は何体もの魔物の頭の剥製はくせいが壁からニュッと出た気味の悪い部屋だった。
ポポルも先程までの元気がなく、尻尾を丸くお尻の下に引っ込めている。
緊張とも不安ともつかない表情で教室の中に進んだ。
「ここは魔物学の教室です」
薄暗い部屋には遮光カーテンがかけられ、完全に閉めれば真っ暗になりそうだ。
壁から飛び出すモンスターの頭も、前に行くほど巨大になっていく。
1つ目の巨人、サイクロプスの頭部。
固そうな鱗でおおわれたドラゴンの頭部。
巨大な鷲の頭があるがこれはグリフィンだろうか。
角の生えた人間(特大サイズ)のシャレコウベ。
クリスタルの骨格標本。
この部屋で何を勉強するのだろう?
レオンは魔物学をとっていたがここに来るのはちょっと気が引けた。
とらなきゃよかったかな?
レオンは心の中で呟いた。
「今は課外授業中みたいですね。さぁさぁ次に行きましょう!」
ポポルはさっさとここを出たいのだろう。
足早に部屋を出た。

8階は屋根裏のような部屋だった。
アラベラのレオンの部屋も屋根裏だったが、ここはレオンの部屋の拡大バージョン、といったところだろうか。
ただ、レオンの部屋と明らかに違うもの。
天井が星空になっている。
すべての窓には遮光カーテンがかけられ、真っ暗なのはこの星空を観察するためなのだろうか。
「ここは占星術の部屋。どんなに明るくても、雨が降っていても、この部屋の真上に見える星がこうして見えるように魔法がかかっています」
ポポルが説明してくれる。
ということはこれが今現在この上に広がる星空と言うことか。
レオンたちは美しい星空にうっとりと見入った。
「昔から人間は星の動きで吉凶を占ってきました。しかし雨が降るとそれが叶いません。そこでこのような魔法の部屋を作り、兵の動きにアドバイスを送るわけです。これもとても重要な役割です」
占いで兵の生き死にを占うのか?
何とも不思議な感覚だが、目の前の星空にうっとりとしたレオンはそのまま部屋を出た。
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