Go to the Frontier(new)

鼓太朗

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第三章 ラプラドル島 前編

同室の武闘家

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いよいよレオンの番が来た。
心臓の音が耳に直接聞こえるくらいバクバクいっているのが分かる。
特に何の取り柄もないと思っているレオンにしてみれば、不安感しかない。
とはいってもこのままでやり過ごすことはできない。
意を決して一歩前に出ると、ライモンダは分け石を手渡す。

ライモンダが分け石を離す瞬間、レオンの手と石の間でパチッと火花が起きたような気がした。
「ん?」
怪訝に思ったが、そのまま石を受けとる。
そして優しく握ってみる。

次の瞬間、今まで見たことのない光景が目の前に広がった。

なんと部屋中が青い光に満たされ広がった。
「なっ!!」
レオンが驚いて分け石を放り出しそうになるのをライモンダが引ったくるように取り上げた。

恐る恐るレオンがライモンダを見ると、ライモンダは今までではじめて見せる驚いた表情を見せて暫し固まったいた。

信じられないものを見るような表情でまじまじとレオンを見る。
しかし我に返って、
「ア…アルカマウラ。」
と呟いた。

まだ平静を装っているように見えるが、やはり動揺しているらしく、目は大きく見開かれたままだ。
それはレオンも同じで、よくわからない状況に頭がついていかない。
今のはいったい…。
明らかにレオンだけ違う色に分け石が光った…よね?
確か…赤か緑に光るはずなんだよね?
「光らない」という選択肢を入れたら三つに一つだよね?
どういうことだ?
混乱するレオンはダンたちの方に振り返るが、ダンたちもあっけにとられて固まっている。

レオンが呆然とする間に組分けは完了した。
蓋を開けると結果的にはアンナ、サラ、レオンがアルカマウラ。
ダンと大柄な男女がスルガトラス。
メルヴィンと後のもう一人のマヌーフ族の少女がクヌートだった。

「これで組分けが完了しました。あなたたちが生活をするのがこの塔、レスタートです。部屋は二人一部屋。部屋までは運命の糸が導いてくれます。」
そう言うとライモンダの手から金色の粉が舞い上がり、糸のようになってレオンの小指に絡み付いた。
糸は二人ずつ結ばれ、アンナと大柄な女性、ダンと大柄な男性が繋がれて入ってきた扉の方に延びている。
サラとレオンは他の人と繋がることはなく、直接扉の方に延びていた。
「あなたたちのパートナーはもうすでに部屋にいます。さぁ、運命の糸をたどり、行きなさい。あなたたちの新しい毎日が始まるのです。」
ライモンダがそう言い終わるのと、背後の扉が両側に大きく開いたのは同時だった。
扉の向こうはさっきまでの赤絨毯の廊下。
ではなく、石造りの階段が姿を表した。
「この建物はいったいどうなってるんだ?」
ダンが呟いたがレオンも全く同じことを考えていた。
だが、もう考えるのはやめにした。
もはやレオンの中の常識では測ることができない不思議なことだらけだったからだ。
「半刻後、ここで新入りのあなたたちを交えた夕食会が催されます。ここに降りてきなさい。それまでは自由時間としますから、部屋でくつろいでいてよろしい」
そう言うとライモンダはまた砂のように消えてしまった。
もうレオンはその光景には驚かなくなっていた。
慣れとは恐ろしい。
暗い石の階段に続く金色の糸だけがそこに残っていた。

*****

レオンたちは金の糸を手繰るようにして階段を上った。
階段は螺旋型で外に向かって扉が等間隔で並んでいる。
これが部屋の入り口のようだ。
一周するごとに螺旋階段の内側には踊り場があり、赤い絨毯が敷き詰められた少し広めのスペースが設置されていた。
踊り場の中央にはテーブルと数脚の椅子、壁には大きな暖炉がある。
2階は広場と渡り廊下の入り口になっていて、左右にはそれぞれ巨大な塔があった。 あれがアルカマウラとスルガトラスか。
そう思いながら登りの階段を登り続けると、3階の踊り場では、数人の男女が天井をボーッと見て突っ立っていた。
誰しも目に生気はなく、息をしているが人形のようだ。
「あいつら、生きて…るよな?」
ダンは確認するが、そう聞きたくなるのも当然だ。
ぞろぞろと人が通ったのに全く我関せずで天井だかなんだかわからない一点を半開きの口と目をしたまま見つめている。

グルグルと螺旋階段を登ると次の4階の踊り場にはやはり若い数人の男女がいた。
先程よりは生気が感じられるがそれでも表情は暗い。
こちらを見てヒソヒソと話し合っていた。
「なんだか感じ悪いわね」
アンナがため息混じりにささやく。
レオンも激しく同意。
あまり関わりたくない。
レオンは足早に歩を進める。
5階にも踊り場では何人かの男女が会話をしていた。
そのうちの一人、サラより少し年上に見える少年がレオンたちに気付き、小さく手を振った。
レオンも手を上げて反応を示す。
階を上がるごとに人間らしくなっていく。
率直なレオンの感想だ。
何か理由わけがあるのだろうか?

5階の踊り場を越えて延々と階段を昇り、そろそろ息が切れてきた。
だが、金の糸はまだまだ上に繋がっている。
そろそろ休憩したい!
そう思った時、6階部分に到達するとようやくレオンたちの部屋なのだろうか?
ゴールが見えてきた。
サラの部屋が一番手前、その隣がレオン、その向こうがアンナの部屋で、アンナの部屋の前が6階の踊り場になっている。
その更に上がダンの部屋だ。(「俺が一番上かよー」とダンはうんざりしていた)
男女別に交互に部屋が続いているようだ。
踊り場には誰もいなかったが、暖炉の火は勢い良く燃えていた。
部屋には金の文字で名前が書いてある。
「Leon」
金文字で書かれた自分の名前を確認してからダンの方をチラッと見る。
「じゃあまた後でな。」
ダンも辺りを見回してそう言うと部屋に入る。
レオンも目の前の扉に向かう。
中には同室のルームメイトがいるのか。
いったいどんな人だろう?
不安がほとんど、ちょっとだけ期待。
レオンはそんな気持ちで軽く3度ノックして、金色の糸の伸びる部屋の扉に手をかけた。

部屋に入ると、思いの外綺麗な内装にレオンは驚いた。
階段や扉の雰囲気から、囚人の入る牢獄のようなものを想像していたからだ。
部屋の天井は高く、部屋の高い位置にある細い鉄格子のはまった大きな窓からは太陽の光がたっぷりと降り注いでいる。
ベッドは天蓋のある大きなベッドで、レオンの家のベッドよりもむしろずっと大きく、フカフカしていそうだ。
恐らくカルバン人サイズなのだろう。
そんな大きなベッドが二つ。
ベッドの横にはそれぞれサイドテーブルと小さな丸椅子が置かれ、部屋の真ん中には大きめのテーブルと椅子が二つ。

その椅子の片方。
レオンに背を向ける形で同居人とおぼしき男の背中があった。
声をかけようとすると、その前になにか読んでいた本をパタンと閉じるとスッと立ち上がり、こちらに振り返った。
「君は、新入生か?」
深く落ち着いた低い声。
歳はレオンより少し上、ダンくらいだろうか。
背はそれほど大きくないが、エンジ色の拳法着からのぞく肩や腕はがっしりとしている。
剃髪と濃い眉は、キリッとした鋭い眼光を更に強めている。
「あの…、はじめまして…。今日からここでお世話になることになりました…レオンと言います…。よ…よろしくお願いします…。」
レオンは目の前の青年の身体中からみなぎる殺気のようなものに気圧されしどろもどろだった。
そんなレオンを見た青年はパッと表情を和らげて笑った。
すると先ほどまでの殺気は跡形もなく消え去った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫。俺はハイデン。スルガトラスで修行中の身だ。君はアルカマウラか?」
ハイデンと名乗る青年はそう言うとレオンに椅子をすすめた。
「はい。さっき分け石によってアルカマウラと言われました。」
そう言ってレオンは椅子に座った。
「ハイデンさんは…」
と言いかけたところで、
「ハイデンでいいよ。俺も君のことはレオンって呼ぶから。」
レオンの言葉を遮ってクシャッとした笑顔でそう言った。
「は…はい…。あの…ハイデンはいつからここに…?」
なんだかぎこちない。
そんなレオンをおかしそうにハイデンは見ると、
「もう半年くらいかな?」
と事も無げに言った。
「俺の故郷は華王朝かおうちょう。レオンは見た感じアラベスク人のようだから華王朝のことは知っているだろう?」
ハイデンの問いにレオンは頷く。
華王朝はアラベスクの東、剣山脈つるぎさんみゃくと呼ばれる険しい山脈の向こうにある国だ。
遥か昔は敵対関係にあったが、今は和睦しているし交易も盛んだ。
レオンも行ったことはないが、広大な領土と潤沢な財力、更に強大な軍事力を誇る国として有名なのでよく知っている。
「俺は軍隊の小隊長だった。半年前、突然黒ずくめの男たちが我々の前に現れた。俺たちも必死で戦ったが、おかしな術をかけられて気がつけばここにいたってわけだ。」
ハイデンはため息をついてそう言った。
ハイデンのような「戦いのプロ」のような人物でも連れてこられるのか、とレオンは思った。
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