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鼓太朗

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第二章 アラベスク王国

試練の洞窟 第一層

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クルトの部屋に戻った一同は作戦会議が開いた。
メンバーはレオン、ダン、アンナ、ベス、クルトの5人。
明日行われる「王の試練」。
表向き、クルトも王位継承候補者として参加するわけだが、クルトたちの役目はヘンリーの援護というわけだ。
「まぁヘンリーの補助には国内最強といっても過言じゃない護衛団がつくから俺たちの役目はもっぱらフロローたちの動きを探るのと何かおかしなことをするようならその妨害だがな」
クルトは大きなソファーに揺ったりと座り、のんびりした調子でいった。
「フロローたちもその事はわかっているはずだから俺たちにはそれなりの対応をしてくるだろうけど」
それなりの対応を考えるとレオンは気が重い。
「王の試練」には、次期王候補者と3人の従者がつくことになっている。
クルトにはレオンとダン、そしてアンナがつくことになった。
自分でも何となく頼りないような気がする。
本当に大丈夫なのか?
魔相があると言われてもレオンには魔法を使うスキルはないし、戦闘経験も少ない。
かえって足手まといなのではという気がぬぐえない。
「とりあえず明日は早い。洞窟に入ったら相手の出方をうかがいながら自分達の身の安全を確保することを忘れるな。中のモンスターは結構手強いと聞いてる。」
ダンがそういうことでレオンはなお一層不安になる。

*****

夜明け前、王の広間に集まったのはヘンリー、クリス、クルトとそれぞれの従者たち。
しかしそこにフロローの姿は無かった。
妙な違和感を覚えるレオンだったが、気にしたところでどうしようもないので、気を取り直して周囲を見回して、試練の洞窟に突入する面々を見た。
ヘンリーの従者は剣の達人であるマックス。
レオンやダンを見て小さく口の端を片方だけ上げて合図を送ってきた。
レオンやダンも視線でそれに答える。
マックスの他には魔法戦士で医術師でもあるアラン。伝説のパラディンと誉れ高い純白の騎士、クロン。
みんな筋骨粒々とした屈強な男たちだ。

一方クリスにつく従者は水の大刀を装備した青の戦士カムイ。風の槍を装備した緑の戦士セロ。花の矢を背負った女戦士フラウ。
みな眼光の鋭い凄腕戦士だ。
3人ともレオンたちの方を見向きもしないが、明らかに意識しているのは雰囲気で察することができた。
ビリビリした殺気を感じる。
フロローの息がかかった凄腕の戦士たちなのだから、レオンたちの命を狙っていないという保証はどこにもない。
この部屋から出た瞬間に難癖をつけられて切り殺されるかも…。
レオンはそんな最悪の事態も想定していた。

クラウドは一同を見回すと重々しくうなずくと、話始めた。
「これより『王の試練』をとりおこなう。これからそなたらには城の北東の森の奥にある試練の洞窟へ行ってもらう。中には強力な魔物も潜んでいる。心してかかるように。洞窟の最下層。いにしえの祭壇に置かれた王家の紋章をいち早く持ち帰った者に次期王の権利を与える。」
クラウドがそういうと、傍らの宰相と将軍に目配せをする。
将軍は唐突に目の前に準備された太鼓をうちならした。
続いて宰相が重々しくいい放つ。
「時は満ちた。いざゆかれよ。旅の安全をお祈りしておりまする」
その言葉を合図に、みな王の部屋から退出した。

試練の洞窟までの道は、迷いの森のような石畳が森を縫うように続いている。
しばらく歩くと森が途切れてゴツゴツした岩が転がる山岳地帯に入る。
急な坂道を登ると見晴らしのいい場所に洞窟の入り口はあった。
早い段階で行動を起こすことを警戒していたレオンたちだったが、特に問題なくここまで来ることができた。
取り越し苦労だったようで少し安堵したが、油断はできない。
ヘンリーやクリスの馬車が停まっているので彼らはもう中に入っている。
王位継承権の高い順番に間をあけて洞窟に入るのがこの「試練」のルールだ。
レオンたちも馬車を停めると手近にいた兵士に声をかける。
「これはクルト王子。今しがた兄上方も中にはいられました。くれぐれもお気を付けて。」
うやうやしく頭を下げる兵士に笑顔で答えるとクルトを先頭に洞窟の中へと歩を進めた。

洞窟の中は点々と松明が灯っているが薄暗い。
長い通路の先、下に降りる階段がある。
「いよいよ大冒険の始まりだな。」
クルトがニヤリと笑う。
ここから先はモンスターの巣窟だ。
レオンはゴクリと唾を飲むと、頑丈そうな石の階段を降りた。

*****

第一層。
意外と天井が高く、ドーム型のフロアだ。
天井に所々穴が開いていて、日の光が降り注いでいてさっきの通路よりも明るい。
中央に明らかに人工物のように見える川が流れていた。
地下水の川だろうか。
岸辺は石で丁寧に舗装されている。
川にはやはり立派な石の橋が架かっている。
橋の向こう側に下のフロアに続く階段が見えた。
フロア全体が不気味なほど静かだ。
何の気配も感じない。
レオンだけではなくダンもそのようだ。
突然の事態に備えてみな周囲に最大限の注意を払いながら進む。

「おい!見ろよ!」
橋を渡ろうとした時、ダンが橋の向こうを指差した。
ダンが指差す方向には無数のモンスターのしかばねが転がっていた。
「大剣でまっぷたつにされてるやつもいる!」
ダンが駆け寄る。
よくよく見ると大型のトカゲ、アラベスクオオトカゲの死体がもはや数えることができないほど転がっている。
橋の向こう側、階段までのそれなりに長い距離に10匹どころではないアラベスクオオトカゲが息絶えている。
アラベスクオオトカゲはこのアラベスク地方の固有種で、身体が大きく気性も荒い。
巨体を活かしたパワープレーで相手を倒す武闘派のモンスターだ。
動きも素早い肉食系で、森やこのような洞窟など、薄暗いところを好む。
人を襲うこともあり、このように集団で現れて、しかも不意打ちを食らうと大人数のパーティーも一掃されることだってある危険なモンスターだ。
ただ、見たところ一匹も生き残りがいない。
これほど多くのアラベスクオオトカゲを相手に先を進むヘンリーたちの強さは桁違いのようだ。
一同言葉を失う。
辺りは血の海と化し、かなり凄惨せいさんな現場となっていた。
見ているレオンは少し気分が悪くなる。
先を行くクルトの兄たちの軍団のしたことには間違いなさそうだが、どんな戦闘シーンだったのか。
マックスやクロンら武闘派だけではなく、魔法で黒こげになっているところを見ると、アランやヘンリーの連れているモンスターたちの仕業かもしれない。
ただレオンもそれ以上あまり深く考えるのはやめておいた。
考えるだけでより気分が悪くなる。
そんな生々しい光景からいち早く離脱したのはクルトだった。
「これは俺たちで太刀打ちできるレベルじゃねぇなぁ。この先に行く意味あるのか?俺たち…」
さすがのクルトも唖然とする。
同感。
レオンも激しく同意した。
「とりあえずここにはもうモンスターもいないみたいだ。早いところ奥に進もうぜ!」
さすがのダンも口元と鼻を押さえて足早に進む。
アンナとレオンとクルトはそれを慌てて追いかけた。
広いドームを横切るとまた下のフロアに降りる階段がある。
この下は第二層。
今回はなにもせずにクリアできたが、次はどんなダンジョンが待っているのか…。
「行く…しかないよな…」
クルトはブルリと武者震いか恐怖かわからないような動きをすると意を決して階段に歩を進めた。
レオンも後を追う。
アラベスクオオトカゲの血の匂いがようやくしなくなる頃、レオンたちは第二層に到達した。
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