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第二章 アラベスク王国
カールとマックス隊長
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「はっ!!」
キンッ!
「やっ!!」
カンッ!
槍がぶつかり合い、気合いがぶつかり合って漏れる声。
まだ日も登る前の薄暗い時間。
城の中庭では幾人もの男達が朝の鍛練をしていた。
時間はようやく西の空が鮮やかなすみれ色に染まる頃。
ダンは他の兵士たちとともにこの中庭で身体を動かしていた。
滴る汗。
身体中の筋肉が目を覚ます感覚。
「気持ち良い!!!」
ダンは心の中で何度も叫んだ。
昨日は本当に緊張した!
貴族と言うのは本当に肩が凝る。
何だ?あの緊張。
こうして身体を動かしている方がよっぽど楽だ。
ダンはそう思いながら自分の身長よりも長い槍を振るった。
ヒャンッ!と気持ち良い音をさせる細身の槍。
あまり扱ったことの無い武器にはじめは戸惑ったが、軽くて素早い動きができるので気に入った。
新しい武器に挑戦してみるのも楽しいかもしれない。
ダンは密かにそう思った。
朝の空気はヒンヤリとして火照った身体を冷ましてくれる。
朝の風が中庭を吹き抜けて気持ちが良い。
次第に日が差し込んできた。
一日が始まる。
*****
昨日、アンナの家から帰ってきたレオンとダンは、ひとまず部屋に引っ込んだ。
それは慌ててすっ飛んできた執事にクルトが引きずられるように連れられていったからだ。
その後クルトが、「連れてきたばかりの従者を連れて外出とは何事だぁー!!!」と城中に響き渡る勢いの怒号をクラウド国王を浴びせられることになるとは、レオンもダンも知らない。
慌ただしく出ていったクルトたちと入れ替りで入ってきたのは、カールと名乗る青年だった。
名前の通り、栗色の髪の毛はクルクルとカールしている。
スッと通った鼻筋と色白の顔。
頬にはそばかすがたくさん。
見た目よりかなり若く見えるが、カールはレオンと同じ18歳。
10歳からここで働いているらしく、若い使用人の中ではベテランな方なのだそうだ。
ひょろ長い顔立ちと体型に、つぶらなタレ目も相まって一見頼り無さげだが、仕事はてきぱきとしている。
一見素っ気ない印象もなくはないが、受け答えは明瞭で的確。
かなりできる使用人らしい。
その事はレオンがカールとほんの少しの会話しただけで分かった。
またカールは動きに無駄がなく、隙がない。
必要最低限の動きで最大のパフォーマンスをして見せる、正に使用人の鏡のような青年だった。
なぜここで働いているのかを聞くと、カールはクルトの乳母子で、幼い頃二人は一緒に育てられたのだそうだ。
また、カールの母親が同じくこの城の使用人として働いているらしく、母親はクルトの母であるイライザ王妃付きのメイドらしい。
カールはそんな話も織り混ぜながら、丁寧に城内を案内してくれた。
王子・王女の部屋、王の部屋、王妃たちの部屋、それぞれの寝室、それぞれの衣装部屋、それぞれの浴室など、主要人物の部屋。
王族たちが食事をする大広間や、大臣たちの部屋もきっちり紹介された。
王子王女の部屋は13部屋あり、どこが誰の部屋かもカールは完全に把握している。
まぁ8年もいれば当たり前かとも思ったが、王子の部屋の前を通り、それぞれの王子や王妃のパーソナルな情報を挟んでくる辺り、この人は本当にプロだとレオンは思った。
大広間や浴室など、王子が使用しているところに同席しなければならない場所は特に詳しく分かりやすく使い方などの説明をしてくれた。
*****
次にやって来たのは武器庫と兵士たちの鍛練場だった。
ここで兵士達は鍛練を積んでいるのか。
ダンは浮き足だった。
ダンは確実に頭より身体を使う方が向いている。
レオンは受け答えも上品で、お茶の話をしている時も他の使用人たちにうまく馴染んでいた。
でも、ダンは無理だ。
言葉はいらない!
拳があれば良い!
というタイプだから、ダンは貴族や王族の使用人として働くのは向いていない気がした。
だから、兵士達の訓練場を見た時には心ときめいた。
その時も兵士達がそれぞれグループに分けられて鍛練をしていた。
ダンはウズウズする。
「あの中に入りたい!!」
心の声がもしかしたら漏れてしまったかも…と、ダンはレオンを見たが、レオンは激しく模造刀を打ち合う兵士達に釘付けだった。
その時、突然背後から重々しい男性の声がした。
「カール、彼らは?」
声にレオンもダンもハッと我に返り、声のした方を見た。
「マックス隊長!」
声の主をカールはそう呼んだ。
マックス隊長は、マクベスの有力貴族の子息で27歳。
クラウド国王の長男ヘンリー王子の幼馴染みで、現在はヘンリー王子の近衛隊長。
次期将軍候補の一人とされる国内でも指折りの武人だ。
あらゆる武器を使いこなし、武術も堪能。
いつもひとつ括りにしているブロンドの髪と濃い緑色の目、疎らにはえた無精髭と丸太のような腕。
貴族の出とは思えない粗野な印象もあるが、忠誠心は強く、腕力と勇気は人一倍。
性格も基本的に無口だが、さっぱりしていて裏表もない。
他の兵士達のリーダー的な存在だ。
「新しくクルト王子の従者になったレオンとダンです。今、城の中を案内して回っていまして…」
カールはマックスに説明する。
マックスはチラッとレオンとダンを見て「そうか…」とだけ言って小さくレオンやダンに頷きかけると、兵士達の方に歩いていこうとした。
だが、何か思い直したのかダンの方を見る。
「君、良い体つきをしてるな。ちょっと付き合いたまえ」
そう言うと、ダンを訓練場の広場まで誘った。
ダンはついていくし、仕方がないのでカールとレオンも後を追う。
この後、今まで一度も見たことの無い、ダンの本気を見ることになるとは、この時レオンは想像もしていなかった。
*****
「色々な武器があるが、これなんかどうだ」
マックスがダンに投げて寄越したのは樫の木でできた固い木の棒だった。
放り投げられた棒を受け取り、ダンは手触りなどを確認すると、マックスを見て頷いた。
「よし、勝負だ」
マックスは真っ直ぐにダンを見ると棒を構える。
ダンも白いシャツを脱いだ。
そして真剣な表情で棒を構える。
この国でも有数の武人と手合わせができる!
ダンは身体中の血が興奮で沸騰するような感覚になった。
「いくぞ!」
マックスの腹の底に響くような声から、模擬戦は始まった。
はじめは目にも止まらぬ打ち合い。
カンッ!
カンッ!
と、乾いた音が鍛練場に響き渡った。
木の棒ではあるが、固い樫の木なので当たると痛い。
レオンは太刀筋を追うのがやっとだった。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
激しく打ち合う二人。
次第に周囲の兵士達もそちらに注目し始める。
それほどの見事な打ち合い。
まさかそこまでするとはマックスも思ってもみなかっただろう。
だが、長い打ち合い、息もつかせぬ緊張感の中、一発だけマックスの棒がダンの太ももの辺りを打ち据えた。
「痛っ!」
思わず呟いたのはダン、ではなくレオン。
ダン本人は、と言うと「クッ!」と小さく声を漏らし、少しだけ眉をひそめただけだった。
しかしそこに隙が出たのだろう、マックスは下からダンの棒を掬い上げた。
「あっ!」
またしても声をあげてしまったのはレオン。
ダンは棒を落としてしまった。
拾おうとしたダンの鼻先にシュッと突き出された棒。
一瞬、全ての空気が止まった。
レオンもカールもいつの間にかすごい数になってしまっている野次馬の兵士達も…。
みんながみんな息をするのも忘れた。
勝負ありか?!
みながそう思った時、ダンはフッと笑ったように見えた。
次の瞬間。
突き出された棒をダンは横に祓うと、落とした棒を器用に蹴上た。
砂を巻き上げ、頭上へ舞い上がり、クルクル回る棒を高いジャンプでキャッチすると、ダンはそのままマックスに切りかかった。
第2幕だ!
マックスも一瞬目を見開いていたが、すぐに対応する。
カンッ!
とぶつかり合う乾いた木の音。
空中から全体重をかけて放ったダンの攻撃をマックスは受け止めると、そのままはね飛ばした。
何という腕力!
レオンはもう驚き疲れてしまった。
マックスは棒を激しく回転させると、今までに見たことの無い動きでダンの複数の攻撃を全て弾き返した。
ダンは素早く動きながら攻撃の手を緩めないが、決め手にかけることに対する焦りと、体力の限界が近づいていることを気にしていた。
こんなに激しく動いたのはいつ振りだろう。
毎朝鍛練は欠かさずしていたつもりだったがまだまだ甘かったと自ら反省した。
長くなるほど不利だと察したダンは最後の一手に出た。
棒をさっきよりも高く蹴上げ、ダンもさらに高くジャンプする。
そして次の瞬間、ダンは身体を縦に回転させると、棒の端を足で蹴った。
棒は狙いたがわずマックスへ。
「突き刺さる!」
レオンがそう思った時、マックスはわずかに身体を左にずらし、棒をつかんだ!
回りの人間は全く見えない動きに唖然とした。
大量の汗をかき、肩で息をするダン。
マックスも額に汗が一筋流れた。
「良い動きだ。近衛兵に今すぐにでも欲しいくらいだ」
しばらくの静寂の後、マックスはそう言った。
ダンはまだ激しい息をしていて何も答えられない。
本当は大の字になってその場に倒れたい衝動を必死に堪えている。
「毎朝、日の出の前に鍛練を積んでいる兵士たちがいる。この国の兵士の中でも特に意識の高い連中だ。よければそこに来い。俺は歓迎する」
そう言ってマックスははじめて少し笑うと、人垣を掻き分けると去っていった。
言われたことが一瞬分からず、呆然とするダンだったが、我に返ると、大きな声で「ありがとうございました!!」と叫んだ。
あまりに大きな声でレオンは飛び上がりそうになったが、マックスは振り替えることなく右手をちょっとあげただけだった。
キンッ!
「やっ!!」
カンッ!
槍がぶつかり合い、気合いがぶつかり合って漏れる声。
まだ日も登る前の薄暗い時間。
城の中庭では幾人もの男達が朝の鍛練をしていた。
時間はようやく西の空が鮮やかなすみれ色に染まる頃。
ダンは他の兵士たちとともにこの中庭で身体を動かしていた。
滴る汗。
身体中の筋肉が目を覚ます感覚。
「気持ち良い!!!」
ダンは心の中で何度も叫んだ。
昨日は本当に緊張した!
貴族と言うのは本当に肩が凝る。
何だ?あの緊張。
こうして身体を動かしている方がよっぽど楽だ。
ダンはそう思いながら自分の身長よりも長い槍を振るった。
ヒャンッ!と気持ち良い音をさせる細身の槍。
あまり扱ったことの無い武器にはじめは戸惑ったが、軽くて素早い動きができるので気に入った。
新しい武器に挑戦してみるのも楽しいかもしれない。
ダンは密かにそう思った。
朝の空気はヒンヤリとして火照った身体を冷ましてくれる。
朝の風が中庭を吹き抜けて気持ちが良い。
次第に日が差し込んできた。
一日が始まる。
*****
昨日、アンナの家から帰ってきたレオンとダンは、ひとまず部屋に引っ込んだ。
それは慌ててすっ飛んできた執事にクルトが引きずられるように連れられていったからだ。
その後クルトが、「連れてきたばかりの従者を連れて外出とは何事だぁー!!!」と城中に響き渡る勢いの怒号をクラウド国王を浴びせられることになるとは、レオンもダンも知らない。
慌ただしく出ていったクルトたちと入れ替りで入ってきたのは、カールと名乗る青年だった。
名前の通り、栗色の髪の毛はクルクルとカールしている。
スッと通った鼻筋と色白の顔。
頬にはそばかすがたくさん。
見た目よりかなり若く見えるが、カールはレオンと同じ18歳。
10歳からここで働いているらしく、若い使用人の中ではベテランな方なのだそうだ。
ひょろ長い顔立ちと体型に、つぶらなタレ目も相まって一見頼り無さげだが、仕事はてきぱきとしている。
一見素っ気ない印象もなくはないが、受け答えは明瞭で的確。
かなりできる使用人らしい。
その事はレオンがカールとほんの少しの会話しただけで分かった。
またカールは動きに無駄がなく、隙がない。
必要最低限の動きで最大のパフォーマンスをして見せる、正に使用人の鏡のような青年だった。
なぜここで働いているのかを聞くと、カールはクルトの乳母子で、幼い頃二人は一緒に育てられたのだそうだ。
また、カールの母親が同じくこの城の使用人として働いているらしく、母親はクルトの母であるイライザ王妃付きのメイドらしい。
カールはそんな話も織り混ぜながら、丁寧に城内を案内してくれた。
王子・王女の部屋、王の部屋、王妃たちの部屋、それぞれの寝室、それぞれの衣装部屋、それぞれの浴室など、主要人物の部屋。
王族たちが食事をする大広間や、大臣たちの部屋もきっちり紹介された。
王子王女の部屋は13部屋あり、どこが誰の部屋かもカールは完全に把握している。
まぁ8年もいれば当たり前かとも思ったが、王子の部屋の前を通り、それぞれの王子や王妃のパーソナルな情報を挟んでくる辺り、この人は本当にプロだとレオンは思った。
大広間や浴室など、王子が使用しているところに同席しなければならない場所は特に詳しく分かりやすく使い方などの説明をしてくれた。
*****
次にやって来たのは武器庫と兵士たちの鍛練場だった。
ここで兵士達は鍛練を積んでいるのか。
ダンは浮き足だった。
ダンは確実に頭より身体を使う方が向いている。
レオンは受け答えも上品で、お茶の話をしている時も他の使用人たちにうまく馴染んでいた。
でも、ダンは無理だ。
言葉はいらない!
拳があれば良い!
というタイプだから、ダンは貴族や王族の使用人として働くのは向いていない気がした。
だから、兵士達の訓練場を見た時には心ときめいた。
その時も兵士達がそれぞれグループに分けられて鍛練をしていた。
ダンはウズウズする。
「あの中に入りたい!!」
心の声がもしかしたら漏れてしまったかも…と、ダンはレオンを見たが、レオンは激しく模造刀を打ち合う兵士達に釘付けだった。
その時、突然背後から重々しい男性の声がした。
「カール、彼らは?」
声にレオンもダンもハッと我に返り、声のした方を見た。
「マックス隊長!」
声の主をカールはそう呼んだ。
マックス隊長は、マクベスの有力貴族の子息で27歳。
クラウド国王の長男ヘンリー王子の幼馴染みで、現在はヘンリー王子の近衛隊長。
次期将軍候補の一人とされる国内でも指折りの武人だ。
あらゆる武器を使いこなし、武術も堪能。
いつもひとつ括りにしているブロンドの髪と濃い緑色の目、疎らにはえた無精髭と丸太のような腕。
貴族の出とは思えない粗野な印象もあるが、忠誠心は強く、腕力と勇気は人一倍。
性格も基本的に無口だが、さっぱりしていて裏表もない。
他の兵士達のリーダー的な存在だ。
「新しくクルト王子の従者になったレオンとダンです。今、城の中を案内して回っていまして…」
カールはマックスに説明する。
マックスはチラッとレオンとダンを見て「そうか…」とだけ言って小さくレオンやダンに頷きかけると、兵士達の方に歩いていこうとした。
だが、何か思い直したのかダンの方を見る。
「君、良い体つきをしてるな。ちょっと付き合いたまえ」
そう言うと、ダンを訓練場の広場まで誘った。
ダンはついていくし、仕方がないのでカールとレオンも後を追う。
この後、今まで一度も見たことの無い、ダンの本気を見ることになるとは、この時レオンは想像もしていなかった。
*****
「色々な武器があるが、これなんかどうだ」
マックスがダンに投げて寄越したのは樫の木でできた固い木の棒だった。
放り投げられた棒を受け取り、ダンは手触りなどを確認すると、マックスを見て頷いた。
「よし、勝負だ」
マックスは真っ直ぐにダンを見ると棒を構える。
ダンも白いシャツを脱いだ。
そして真剣な表情で棒を構える。
この国でも有数の武人と手合わせができる!
ダンは身体中の血が興奮で沸騰するような感覚になった。
「いくぞ!」
マックスの腹の底に響くような声から、模擬戦は始まった。
はじめは目にも止まらぬ打ち合い。
カンッ!
カンッ!
と、乾いた音が鍛練場に響き渡った。
木の棒ではあるが、固い樫の木なので当たると痛い。
レオンは太刀筋を追うのがやっとだった。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
激しく打ち合う二人。
次第に周囲の兵士達もそちらに注目し始める。
それほどの見事な打ち合い。
まさかそこまでするとはマックスも思ってもみなかっただろう。
だが、長い打ち合い、息もつかせぬ緊張感の中、一発だけマックスの棒がダンの太ももの辺りを打ち据えた。
「痛っ!」
思わず呟いたのはダン、ではなくレオン。
ダン本人は、と言うと「クッ!」と小さく声を漏らし、少しだけ眉をひそめただけだった。
しかしそこに隙が出たのだろう、マックスは下からダンの棒を掬い上げた。
「あっ!」
またしても声をあげてしまったのはレオン。
ダンは棒を落としてしまった。
拾おうとしたダンの鼻先にシュッと突き出された棒。
一瞬、全ての空気が止まった。
レオンもカールもいつの間にかすごい数になってしまっている野次馬の兵士達も…。
みんながみんな息をするのも忘れた。
勝負ありか?!
みながそう思った時、ダンはフッと笑ったように見えた。
次の瞬間。
突き出された棒をダンは横に祓うと、落とした棒を器用に蹴上た。
砂を巻き上げ、頭上へ舞い上がり、クルクル回る棒を高いジャンプでキャッチすると、ダンはそのままマックスに切りかかった。
第2幕だ!
マックスも一瞬目を見開いていたが、すぐに対応する。
カンッ!
とぶつかり合う乾いた木の音。
空中から全体重をかけて放ったダンの攻撃をマックスは受け止めると、そのままはね飛ばした。
何という腕力!
レオンはもう驚き疲れてしまった。
マックスは棒を激しく回転させると、今までに見たことの無い動きでダンの複数の攻撃を全て弾き返した。
ダンは素早く動きながら攻撃の手を緩めないが、決め手にかけることに対する焦りと、体力の限界が近づいていることを気にしていた。
こんなに激しく動いたのはいつ振りだろう。
毎朝鍛練は欠かさずしていたつもりだったがまだまだ甘かったと自ら反省した。
長くなるほど不利だと察したダンは最後の一手に出た。
棒をさっきよりも高く蹴上げ、ダンもさらに高くジャンプする。
そして次の瞬間、ダンは身体を縦に回転させると、棒の端を足で蹴った。
棒は狙いたがわずマックスへ。
「突き刺さる!」
レオンがそう思った時、マックスはわずかに身体を左にずらし、棒をつかんだ!
回りの人間は全く見えない動きに唖然とした。
大量の汗をかき、肩で息をするダン。
マックスも額に汗が一筋流れた。
「良い動きだ。近衛兵に今すぐにでも欲しいくらいだ」
しばらくの静寂の後、マックスはそう言った。
ダンはまだ激しい息をしていて何も答えられない。
本当は大の字になってその場に倒れたい衝動を必死に堪えている。
「毎朝、日の出の前に鍛練を積んでいる兵士たちがいる。この国の兵士の中でも特に意識の高い連中だ。よければそこに来い。俺は歓迎する」
そう言ってマックスははじめて少し笑うと、人垣を掻き分けると去っていった。
言われたことが一瞬分からず、呆然とするダンだったが、我に返ると、大きな声で「ありがとうございました!!」と叫んだ。
あまりに大きな声でレオンは飛び上がりそうになったが、マックスは振り替えることなく右手をちょっとあげただけだった。
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この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
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