Go to the Frontier(new)

鼓太朗

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第一章 旅の始まり

トクラの賑わい

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眩しい光が窓の隙間から差し込んで、レオンは目を覚ました。
いったいどれくらい眠っていたのだろう。
日の高さからもう朝と呼べる時間ではなさそうなことだけは確かだ。
昨日は夜も遅かった。
旅の疲れで囲炉裏でそのまま眠ってしまった気がする。
酒を飲んだのがまずかった。
旅の疲れもたまっていたし、前の日は野宿だった。
温泉で気持ちよくなってお腹も満たされ、囲炉裏で眠ってしまったようだ。
部屋のベッドに寝かされていたからダンがそっと運んでくれたのだろう。
幼い子どものようでレオンは気恥ずかしかった。

そういえばダンがいない。
となりのベッド(ダンには小さい)は寝ていた形跡があるが。
そう思った時、ダンが部屋に入ってきた。
「おう、やっと起きたのか。」
ダンは布で首もとの汗を拭いながら言った。
「昨日は遅くまで飲んでたからな。俺なんか朝、思いっきり便所で吐いちまった」
豪快に笑う。
「で、ちょっと酔いざましに体を動かして外で水を浴びてきたところだ。」
そんなに昨日は酔っている様子はなかった。
あの後どれだけ飲んだのかは定かではないが。
それでも次の日の朝の鍛練に余念がないのにレオンは素直に尊敬した。
「これ。トクラの名物、ルコって芋だ。さっきそこの屋台で買ってきた。塩味が効いてて美味いぜ。」
ダンが手にしている小さなケペックという植物で編んだバスケット。
中は芋を湯がいたような食べ物がいくつか。
レオンは手に取ると少しかじってみる。
塩味が効いているのと、ほんのりと湯気が出るほどの暖かさで、胃腸が刺激される。
「腹ごしらえが済んだら町に出てみようぜ。」
ダンは俺にも寄越せとすり寄るポックとマーフィーにルコを分けてやりながら自分も一つつまんで口に放り込むとそう言った。
町のざわめきが遠くに聞こえる。
だんだんと頭がシャキッとしてきた。

*****

町はやはり戦場のような賑わいだった。
屋台では巨大な鳥の丸焼きがいい匂いをたてている。
「うぉー!あの鳥の丸焼き、うまそー!そしてでかいな!」
レオンの肩にのったポックが耳元で舌なめずりをする。
「あれはね。ウルファンコスの肉だよ。翼を広げるとダンの二倍以上はある大きな鳥。目玉はポックくらいあるかな。」
レオンもここに来るのははじめてではないので、珍しい食べ物にいちいち反応するポックに丁寧に説明してやった。
昨日食べた土豚、西部原産の寒冷な土地で育つ野菜たち、様々な種類の鳥の肉など。
中には極彩色の果物が山積みにされた店や、得体の知れない生き物の干物が並ぶ店もあった。
「見ろよ!あれ、イエローフォックの薫製だぜ!」
ダンが顎で指して言ったのは豚の薫製だったがポックは目を丸くした。
「ポックもこんがり焼いたら美味そうだなぁ。小骨がカリっと焦げて香ばしくなって。」
そう言ってからかうとポックは、
「や…やめろよー!」
と情けない声をあげた。
ダンはポックの言っていることが分からないのに、表情だけでゲラゲラ笑った。
レオンはポックの言っていることが分かるので十分面白いのだが、ダンも何となくお互い通じあっているのだろうか?
レオンはそう思いながら屋台を回った。

グリズリーの肉、イノシシの肉、クロジャッカルの牙、またそれぞれの毛皮を売り、換金した。
グリズリーの毛皮は驚くほど高値で売れた。
「処理の腕がいいと高値が付く。兄ちゃんやるねー」
毛皮や布を扱う市場の一角でおじさんに誉められた。
照れるレオン。

クロジャッカルの牙は毒があるがやはり薬としても使用できるため、薬草屋で高値で売れた。
薬草屋ではできるだけたくさんの種類の薬草を買い、調合して使えるように小分けの巾着袋に入れてもらった。
おすすめの調合を教えてもらったり、逆に店の主人に安く上がる薬草の配合を教えてあげたりとレオンと店主は意気投合して長話になった。
うんざりしているのはダン。
「あの店、鼻がもげるかと思った」
と辟易としていた。
「えー?いい匂いだったよー」
そう言ったレオンは心底楽しそうだった。
それを見たダンは心底理解に苦しんだ。

さらにはポックがちょっと嫌な顔をした豚の薫製と、干した果物も長持ちする旅の食料として少し買った。
他、旅の食料としては長持ちする固めのパン、スープの素、ルコの酢漬けを買った。
あとは宿の大将がグリズリーの肉をいぶして薫製にしてくれるというので明日の出発前に貰えることになっている。
当分食べ物の心配は無さそうだ。

その後、ダンに連れられて入ったのは町の武器屋だった。
様々な種類の武器が並ぶ武器屋。
「レオンもある程度自分の身は自分で守れた方がいい。ブーメランと併せて使い分けられる武器はないかな?」
ダンはそう言って、レオンを連れて武器屋の中を歩き回った。
ただ、もちろんレオンはどの武器も扱ったことはない。
「これなんかどうだ?」
ダンはレオンの身長ほどもある大刀を片手でひょいと持ち上げてレオンに渡そうとした。
ずっしりとした重みがあってレオンには扱いにくい。
というよりも一人で持てない。
ダン、分かってて渡したな。
レオンが軽くにらむと、ダンは見ないふりをしてまたひょいと大刀を元あった場所に戻した。
他にも、杖、長刀、太刀、ハンマー、ボーガンなど、様々な武器を手に取ってみたが、どれもいまいちしっくりと来ない。
短槍や短刀、戦扇はそれなりに扱えたが、それでも何となく、動きがぎこちない。

「今度はこれなんかどうだ?」
ダンは何だか楽しそうだが、レオンは多少げんなりし始めていた。
薬草屋でのダンの気持ちがちょっとだけ理解できたかもしれない。
そんなときにダンが手渡したのは対になった二本の短刀だ。
「これは双剣といって二本で同時に攻撃ができる。身軽で素早いレオンには合ってるかもな。」
レオンは手に取ってみる。
確かに軽くて扱いやすい。
「あそこでちょっと振ってみようか。」
顎で店の奥の扉を指す。
「あの扉の奥は試し斬りのための場所がある。」
そう言い終わらないうちに、ダンは歩き出した。
レオンも慌てて後を追った。

扉の向こうはちょっとした広場ほどある大きな部屋で地面にはきれいに整地された土が敷き詰められてある。
屈強な男たちが案山子かかしのような藁を編んだロープや布をぐるぐる巻きにした杭に向かって武器を振るっている。
「レオンもやってみな。」
ダンはそう言ってレオンの背中を押す。
やってみなって言われても…。
レオンはそう思いながら杭の前に立った。
双剣の柄をギュッと握った瞬間、何となく指に張り付くような不思議な感覚を指先に感じた。
レオンは手の中で双剣をくるんと回す。
そして強く地面を蹴った。
無意識ではなかったが、はじめからそうすることが分かっていたかのように身体が動いた。
レオン自身それほど高く飛び上がった気はなかったが、地面に着地するまでに左右で一度ずつ練習杭を切り裂き、ふわりと着地した。
「ひゅー、やるじゃねーか!」
ダンだけではなく、周囲の男たちも釘付けになるほど、鮮やかな身のこなしだった。
当の本人はあっけにとられて杭の前で立ち尽くしているが。
「こいつで決まり! 中で精算だな。」
ダンに促され、部屋を出るまで、レオンは夢の中にいるような感覚だった。
店内で初老の店主にお金を差し出す。
「さっきの君の動きはまさに風のようだった。こいつはダガー。一番オーソドックスな双剣だ。よーく研いでおいたから。大切に使ってくれよ。」
白髪の多い店主は、浅黒い顔によく映える白い歯を見せ、顔をクシャッとさせて笑うと背中に背負うタイプの鞘をサービスだと言って持たせてくれた。
皮のベルトを調節してもらうとレオンの背中にしっくりと馴染んだ。

レオンがダガーを装着してもらっている間、肩にパックとマーフィーをのせたダンは店内を物色していた。
ふと目に留まり、手に取ったのは緑色の不思議な縞模様をしたバックルだった。
店主は背中から声をかける。
「それはサファイアキャット。こっちでは緑光石と呼ばれる石を加工して作ったバックルだ。ホビット族が山から掘り出して加工してある手作りでなぁ。一つ一つ微妙に模様が違うだろ。」
そう言われると、無造作に籠に入れてあるバックルは一つ一つ個性的な模様をしている。
ダンは、自分の指にあうサイズで緑と白の鮮やかな縞模様のものを手に取った。
指にはめてみる。
「いいんじゃねーか?」
左右の指を交互に見比べ、ダンはこのバックルを購入した。
それぞれの武器を身に付け、店を出ようとしたとき、町の広場から男性の悲鳴のような声が響いてきた。
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