Go to the Frontier(new)

鼓太朗

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第一章 旅の始まり

みなしごマーフィー

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その時、さっきまでの瀕死の重症だったマーブルの子どもが、ふわりとジャンプするとレオンの前に立ちはだかった。(毛玉のボールのようなので立ちはだかったという表現が正しいかはわからないが…)
「?」
レオンは首をかしげた。
キューキューと鳴くマーブルの子ども。
「命の恩人だから連れてって欲しいって。」
ポックが通訳してくれた。
怪我人(今回は人ではないが)を助けて仲間にするという構図ができつつあることにレオンはため息をつく。
まだ傷が塞がっていないから、安静にした方がいい。
ただモンスターの子どもにそれをいっても仕方がないかと諦めた。
ただ、「連れてって」というのは答えに窮した。
捨て犬を拾うように怪我をしているとはいえ、モンスターを保護するのは考えた方がいいだろう。
こんなことが続けばすぐに馬車内は満員になる。
もちろんマーブルがひと群れ丸々乗っても馬車内は広々しているが。
「だめだよ。」
レオンは一通り思案したあと、できるだけ冷たくそう言った。
「僕たちは危険な旅をしてる。君を巻き込むわけにはいかないよ。早く家族のもとに帰りな。」
そう言ってもう一度マーブルの子どもの背中を撫でると立ち上がり、そのまま背を向けて歩き始めた。
ポックも仕方なく後を追った。
レオンは来た道を戻った。
マーブルの子どもの悲しそうな目はできるだけ見ないようにして。
うるうるしている瞳をみたらなんだか気持ちが揺らぎそうになるから。
「かわいそうだったんじゃない?」
しばらく歩いてからポックは少し非難するように言ったが、レオンは聞き流して歩き続けた。
あの子にも親がいるのではないか。
引き離すのはあまりにかわいそうだ。
一時の感情でそんなことを許すわけにはいかない。
レオンはそんなことを考えながらポックを無視して歩き続けた。

マーブルの群れから離れ、しばらく歩く森の中。
なんだかいい匂いがする。
「なんの匂いだろう?」
レオンは立ち止まったが何の気配はない。
そんなことを思いながら再び歩き始めると、目の前に紫色の花が咲いているのが目に入った。
可憐な花だが、行き道にこんなのあったか?
不思議に思いながら不思議と目をそらせないその花を見ていた。
次の瞬間、その花は突然むくむくと動いたのだ。
そして土の中から太ったゴボウのようなモンスターが現れた。
花の匂いと色で動物を誘い、土の中の大きな口で獲物を丸のみにするというマンドラゴラ。
植物系のモンスターだ。
小動物や人間でも子どもなら丸のみにしてしまう食肉の植物だ。
「うわぁ!」
突然のことに驚いたレオンは思わず尻餅をついてしまった。
花をピラピラと動かして虚ろな目でこちらを見るマンドラゴラ。
きれいな花に見えたが根っこの醜い身体と小憎らしい表情を見てそんな気はとっくに消え失せてしまった。
それにしても、レオンはもちろん、ポックすらも全く気づかないほど気配を消していた。
いつから隠れていたのか分からないが、かなり凄腕のハンターだ。
マンドラゴラはヘラヘラと笑うような表情と踊るような足取りで間合いをとる。
踊るような足さばきと甘い香りに気を取られている隙に、マンドラゴラはしゅるしゅると太い根を這わせてきた。
そしてガシッとレオンの右腕をつかんだ。
「しまった!」
と思ったときにはもう遅い。
「くっ、離せ!」
根は強くレオンの腕を締め付ける。
「うわっ!」
根の締め付ける力が強く、腕の血が止まりそうになる。
そして「レオンを離せー!」と威勢よく飛び付いたポックもろともそのままひょいと投げつけた。
何てパワー。
レオンだって18歳の男だ。
それを持ち上げたのだからたいした力だ。
森の木にレオンはしこたま背中を打ち付けた。
一瞬息が止まりそうになる。
頭も打ってボーッとする。
「まずい…」
レオンは傍らのポックを見た。
ポックはというと完全に気を失っている。
こんなときに限って! と、レオンは心の中で舌打ちをする。
そしてレオンがよそ見をしている隙にマンドラゴラは太った身体でのしかかってきた。
メリメリッと音がした気がする。
重い…
そして、今度は両腕をとらえられているのでブーメランまで手が届かない。
このままでは食べられる。
残念ながらこいつの栄養になって死ぬのはごめんだ。
なんとかブーメランに手が届けば…。
どうにかならないか、と思案を巡らせているその時、マンドラゴラの濁った目の上に小石が鋭く回転して当たった。
その隙にレオンに巻き付いた根が一瞬弛んだ。
その隙に左手がスルリと絡まる根から解放された。
今だ!
レオンは左手で右腕に絡まっている方のマンドラゴラの根を無理矢理引きちぎると背中のブーメランを掴んだ。
慌てたマンドラゴラが別の根を振りかざしてきたが時既に遅し。
レオンはブーメランをマンドラゴラに向けて思いっきり投げつけた。
至近距離でブーメランの攻撃を受けたマンドラゴラは身体をくの字にして吹っ飛ばされた。
「もういっちょう!」
返ってきたブーメランを再び繰り出す。
二度目のブーメランは狙い違わずマンドラゴラの紫色の花をちょんぎった。
そこがマンドラゴラの急所なのだろう。
先ほどの勢いはどこへやら。
マンドラゴラはキエーっと気味の悪い声をあげて土に帰っていった。
残ったのは萎れた紫色の花。

ふーっとレオンは息を吐く。
植物系のモンスターは地面からエネルギーを吸い取って再び襲いかかってくることがある。
しばらく緊張した面持ちで様子を見たが、再び現れることはなさそうだ。
フーッと長く息を吐くレオン。
「危なかった。植物は植物らしく土に帰らないとね。」
そう言っ服についた土やマンドラゴラの根の切れはしをはらった。
そして先ほど小石の飛んできた方向を振り返り見る。
「ずっと追いかけてきてたんだね。今のいしつぶて、見事だったよ。」
そこにはさっきのマーブルの子どもがいた。
真剣な目でまっすぐにレオンを見ている。
今回はこの子に助けられた。
危うくマンドラゴラの栄養にされるとこだったのだから。
「仕方がないやんちゃ坊主だなぁ。」
レオンは苦笑する。
レオンはマーブルの子どもに歩み寄った。
マーブルの子どもは緊張した面持ちで、それでもレオンから視線をはずさない。
「今回は君に助けられちゃったね」
レオンもマーブルの子どもから目を離さずに笑顔を送った。
「一緒に行く?」
腰を屈めてレオンは手を伸ばす。
マーブルの子どもは嬉しそうにピョンと跳ねるとレオンの手に飛び乗った。
そして短い手足で肩までよじ登ってきた。
首元でスリスリと身体を擦り付ける。
喜んでいるらしい。
ただ…。
「ふふっ、くすぐったいよ!」
そう言って撫でてやるとスンスンと鼻を動かして潤んだ瞳でレオンを見る。
「かわいいな…お前」
そう言うと近くに転がっているポックも抱き上げた。
そしてレオンはもときた道を再び歩き始めた。
気を失っているポックを起こして二匹を引き合わせる。
帰りの道すがら聞いてみると、彼の名前はマーフィー。
肉食のモンスターに襲われ、親兄弟を失い、自分も怪我をしたこと、そこにレオンがやって来て手当てをしたということ、群れでひとりぼっちなのでつれていってほしいことなど。
のんびりした口調で話してくれた。
茶色と黒の縦縞の入ったマーフィー。
柔らかい毛におおわれていて非常に手触りがいい。
つぶらな瞳が癒し系の新しい仲間。
レオンは肩に乗せたマーフィーを撫でながらダンの待つ馬車に戻った。
後になってから気づいた。
「マーフィーの言うことがいつのまにか分かるようになった?」
初めて会ったときはわからなかったのに…。
不思議なこともあるものだと首をかしげるレオンである。
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