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75 来なかったくせに
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カーテンの隙間から入る朝日で目が覚める。
目を開けると、ベッドの横に敷いた布団に、礼央の寝顔が見えた。
「…………」
数時間前には、髪に触れた手。
近付いて来た唇。
つい、じっと見てしまう。
呑気に寝ちゃって、まあ。
あのまま、唇が触れていたら、どんな風だったんだろう。
どんな感触で。
れおくんはどんな顔をするんだろう。
例えば……。
今、れおくんにキスしたら、どんな顔で…………。
どんな……。
ビコンビコンビコンビコン……。
その瞬間、スマホのアラームが鳴った。
「ぅ…………」
そうだった。れおくんが居るから、いつもより早く鳴らしたんだった。
慌てて止める。
顔を上げると、ちょうど礼央もむにゃむにゃと目を覚ましたところだった。
手探りで眼鏡を掛け、こちらに視線を向けて、目が合ったところで眼鏡がずり落ちて、また掛け直す。
礼央は、あからさまに照れた顔をしていた。
……そんな、寝てる間に手出したみたいな顔すんなよ。
結局、来なかったくせに。
「おはよ」
「おはよ、みかみくん」
朝食は、とても標準的なものだった。
パン、サラダ、オムレツ、それにベーコンの入ったあったかいスープ。
標準的、と言っても、いつもより全体的に丁寧に作られた朝食だ。
そんな特別じゃない朝食なのに、礼央が少し泣きそうになったのを、見逃す事は出来なかった。
「れおくん、ジャム、いちご派?もも派?」
「あ……」
礼央が顔を上げる。
「もも、かな」
「ほら」
「あ、ありがとう」
ももジャムの大きな瓶を、礼央の手に乗せてやった。
本当に帰っちゃうのかなんて、分かりきった事を、聞きたくて仕方なかった。
その日の朝は、二人で一緒に家を出た。
同じ電車に乗る。
けれど、礼央は学校の駅を通り越して、自分の家に帰って行く。
制服も持っていない、鞄も持っていない状況で、学校に行くなんて、やっぱり無理なわけで。
「行けそうなら、後で学校行くよ」
「うん。待ってる」
礼央は、電車から降りなかった。
振り返り、礼央と視線を合わせる。
「何かあったら、絶対俺んとこ来て」
その手を握った。
礼央は少し照れて、それに少し泣きそうな顔で、
「絶対行く」
と、それだけを言った。
発車ベルが鳴って、手を離す。後ろに一歩下がる。
大丈夫だよな。
それは、自分に言い聞かせる言葉だった。
大丈夫だと思いたかった。
俺はどうしたら、あいつを守れるんだろうな。
その日はどうしても、授業を受けていても、気が気ではなかった。
いつ礼央が来るんじゃないかと思って、教室のドアばかりを見ていた。
そのドアが開いたのは、3時間目が終わった時の事だ。
「れおくんじゃん」
「どうしたの?やっぱ体調悪い?」
クラスメイトが口々に声を掛ける。
いつものほんわかとした顔を見て、正直かなりホッとした。
手を上げて挨拶すると、礼央が手を振った。
◇◇◇◇◇
そんな朝の風景なのでした。れおくん編はもう少しだけ続きます。
目を開けると、ベッドの横に敷いた布団に、礼央の寝顔が見えた。
「…………」
数時間前には、髪に触れた手。
近付いて来た唇。
つい、じっと見てしまう。
呑気に寝ちゃって、まあ。
あのまま、唇が触れていたら、どんな風だったんだろう。
どんな感触で。
れおくんはどんな顔をするんだろう。
例えば……。
今、れおくんにキスしたら、どんな顔で…………。
どんな……。
ビコンビコンビコンビコン……。
その瞬間、スマホのアラームが鳴った。
「ぅ…………」
そうだった。れおくんが居るから、いつもより早く鳴らしたんだった。
慌てて止める。
顔を上げると、ちょうど礼央もむにゃむにゃと目を覚ましたところだった。
手探りで眼鏡を掛け、こちらに視線を向けて、目が合ったところで眼鏡がずり落ちて、また掛け直す。
礼央は、あからさまに照れた顔をしていた。
……そんな、寝てる間に手出したみたいな顔すんなよ。
結局、来なかったくせに。
「おはよ」
「おはよ、みかみくん」
朝食は、とても標準的なものだった。
パン、サラダ、オムレツ、それにベーコンの入ったあったかいスープ。
標準的、と言っても、いつもより全体的に丁寧に作られた朝食だ。
そんな特別じゃない朝食なのに、礼央が少し泣きそうになったのを、見逃す事は出来なかった。
「れおくん、ジャム、いちご派?もも派?」
「あ……」
礼央が顔を上げる。
「もも、かな」
「ほら」
「あ、ありがとう」
ももジャムの大きな瓶を、礼央の手に乗せてやった。
本当に帰っちゃうのかなんて、分かりきった事を、聞きたくて仕方なかった。
その日の朝は、二人で一緒に家を出た。
同じ電車に乗る。
けれど、礼央は学校の駅を通り越して、自分の家に帰って行く。
制服も持っていない、鞄も持っていない状況で、学校に行くなんて、やっぱり無理なわけで。
「行けそうなら、後で学校行くよ」
「うん。待ってる」
礼央は、電車から降りなかった。
振り返り、礼央と視線を合わせる。
「何かあったら、絶対俺んとこ来て」
その手を握った。
礼央は少し照れて、それに少し泣きそうな顔で、
「絶対行く」
と、それだけを言った。
発車ベルが鳴って、手を離す。後ろに一歩下がる。
大丈夫だよな。
それは、自分に言い聞かせる言葉だった。
大丈夫だと思いたかった。
俺はどうしたら、あいつを守れるんだろうな。
その日はどうしても、授業を受けていても、気が気ではなかった。
いつ礼央が来るんじゃないかと思って、教室のドアばかりを見ていた。
そのドアが開いたのは、3時間目が終わった時の事だ。
「れおくんじゃん」
「どうしたの?やっぱ体調悪い?」
クラスメイトが口々に声を掛ける。
いつものほんわかとした顔を見て、正直かなりホッとした。
手を上げて挨拶すると、礼央が手を振った。
◇◇◇◇◇
そんな朝の風景なのでした。れおくん編はもう少しだけ続きます。
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