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69 ぽちゃん(3)

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 カレーを食べるれおくんは普通だ。

 表情こそ暗かったものの、いつもの穏やかさでパクパクとカレーを口に入れていく。
 少し、頬に貼った絆創膏が痛々しいけれど、あれだけ食べられるところを見ると、口の中まではそれほどダメージはなさそうだ。

 けれど、ついじっと見てしまう。
 電話を切った後の、虚無感ばかりの礼央の顔が、頭から離れなかった。

 短い電話だったけれど、よくない電話だったに違いない。

 かといって、礼央をこのまま帰すつもりもなかった。
 なんだか、危なっかしい気がした。
 あんな短い電話で、あんな顔になる場所なんて。



 食後、妹にせっつかれるように礼央はゲームを始めた。
 妹は状況を知ってか知らずか、今日はよく笑っている。
 レースゲームで、二人ともきっと楽しくはしゃげるだろう。

 少しでも、気晴らしになればいいけど。

 思いながら、様子を見つつ、礼央を部屋にいれられるよう、一人で部屋を軽く片付け始めたところだった。

「亮太」
 声がかかる。
 母親だ。

 あのずぶ濡れになった礼央を見て、何も聞かずに助けてくれた。
 いつもは若干めんどくさい母親であるけれど、こういうところは、有り難いと思う。

「母さん……」

 布団を一つ持ってきた母親に、言いづらいけれど、相談しなくてはいけなかった。

「れおくんさ……実はさっき……」

 話し出して思う。
 自分は何もできない子供から、まだちっとも抜け出してはいないのだと。
 高校に上がって、世界が少しだけ広がって、色々なものを見られるようにはなったけれど。
 ただ、見ることができるようになった、それだけだ。
 そこに手を加える事は、まだ許されていない。

 ファンタジー世界の物語のように、れおくんの手を取って、何処かへ逃げてしまえれば簡単なのに。

 母親の顔が、心配一色になる。
「それはそれは……」
 なんて軽く言いながら、珍しく真剣な顔つきを見せる。
「それは少し、話をした方がよさそうね」



 それから母は、時間を掛けていくつか連絡を取ったようだった。

 とはいえ、最初に連絡を取ったのは、きっとケントの母だろうと察しはついた。
 小1で同じクラスになってから、家も比較的近かったのと子供達が仲良くなったことで、二人も連絡を取り合うようになった。
 母本人は頼りになるかどうかわからないけれど、ケントの母が一緒なら、もしかしたらどうにかしてくれるかもと期待は持てる。

 問題は、礼央がどこまで介入を望むかという事だった。

 手を出さないでくれと言われれば、所詮他人の自分など、何も出来ることはないのは分かりきっていた。

 今日はここまで来てくれたから良かったけれど。

 ふと、あの状態で、何処かを彷徨い野垂れ死ぬ礼央を思い描く。

 いやいやいやいや。

 亮太は頭をブンブン振った。

 どうにもならない憤りを抱え、その感情のままに礼央に後ろから突進していく。

「れおくーん」

「うっわ。えっ。あああああああ」
 妹とのゲーム中、突進の勢いでボタンから手を離してしまったらしく、礼央が慌てる。

 後ろから抱きつくように顔を出した亮太は、手を離してしまったせいでレースゲームの順位がどんどん落ちていく画面を見て、苦笑した。

 最後には、妹の、
「やった!勝った!」
 という声が響いた。
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