69 / 85
69 ぽちゃん(3)
しおりを挟む
カレーを食べるれおくんは普通だ。
表情こそ暗かったものの、いつもの穏やかさでパクパクとカレーを口に入れていく。
少し、頬に貼った絆創膏が痛々しいけれど、あれだけ食べられるところを見ると、口の中まではそれほどダメージはなさそうだ。
けれど、ついじっと見てしまう。
電話を切った後の、虚無感ばかりの礼央の顔が、頭から離れなかった。
短い電話だったけれど、よくない電話だったに違いない。
かといって、礼央をこのまま帰すつもりもなかった。
なんだか、危なっかしい気がした。
あんな短い電話で、あんな顔になる場所なんて。
食後、妹にせっつかれるように礼央はゲームを始めた。
妹は状況を知ってか知らずか、今日はよく笑っている。
レースゲームで、二人ともきっと楽しくはしゃげるだろう。
少しでも、気晴らしになればいいけど。
思いながら、様子を見つつ、礼央を部屋にいれられるよう、一人で部屋を軽く片付け始めたところだった。
「亮太」
声がかかる。
母親だ。
あのずぶ濡れになった礼央を見て、何も聞かずに助けてくれた。
いつもは若干めんどくさい母親であるけれど、こういうところは、有り難いと思う。
「母さん……」
布団を一つ持ってきた母親に、言いづらいけれど、相談しなくてはいけなかった。
「れおくんさ……実はさっき……」
話し出して思う。
自分は何もできない子供から、まだちっとも抜け出してはいないのだと。
高校に上がって、世界が少しだけ広がって、色々なものを見られるようにはなったけれど。
ただ、見ることができるようになった、それだけだ。
そこに手を加える事は、まだ許されていない。
ファンタジー世界の物語のように、れおくんの手を取って、何処かへ逃げてしまえれば簡単なのに。
母親の顔が、心配一色になる。
「それはそれは……」
なんて軽く言いながら、珍しく真剣な顔つきを見せる。
「それは少し、話をした方がよさそうね」
それから母は、時間を掛けていくつか連絡を取ったようだった。
とはいえ、最初に連絡を取ったのは、きっとケントの母だろうと察しはついた。
小1で同じクラスになってから、家も比較的近かったのと子供達が仲良くなったことで、二人も連絡を取り合うようになった。
母本人は頼りになるかどうかわからないけれど、ケントの母が一緒なら、もしかしたらどうにかしてくれるかもと期待は持てる。
問題は、礼央がどこまで介入を望むかという事だった。
手を出さないでくれと言われれば、所詮他人の自分など、何も出来ることはないのは分かりきっていた。
今日はここまで来てくれたから良かったけれど。
ふと、あの状態で、何処かを彷徨い野垂れ死ぬ礼央を思い描く。
いやいやいやいや。
亮太は頭をブンブン振った。
どうにもならない憤りを抱え、その感情のままに礼央に後ろから突進していく。
「れおくーん」
「うっわ。えっ。あああああああ」
妹とのゲーム中、突進の勢いでボタンから手を離してしまったらしく、礼央が慌てる。
後ろから抱きつくように顔を出した亮太は、手を離してしまったせいでレースゲームの順位がどんどん落ちていく画面を見て、苦笑した。
最後には、妹の、
「やった!勝った!」
という声が響いた。
表情こそ暗かったものの、いつもの穏やかさでパクパクとカレーを口に入れていく。
少し、頬に貼った絆創膏が痛々しいけれど、あれだけ食べられるところを見ると、口の中まではそれほどダメージはなさそうだ。
けれど、ついじっと見てしまう。
電話を切った後の、虚無感ばかりの礼央の顔が、頭から離れなかった。
短い電話だったけれど、よくない電話だったに違いない。
かといって、礼央をこのまま帰すつもりもなかった。
なんだか、危なっかしい気がした。
あんな短い電話で、あんな顔になる場所なんて。
食後、妹にせっつかれるように礼央はゲームを始めた。
妹は状況を知ってか知らずか、今日はよく笑っている。
レースゲームで、二人ともきっと楽しくはしゃげるだろう。
少しでも、気晴らしになればいいけど。
思いながら、様子を見つつ、礼央を部屋にいれられるよう、一人で部屋を軽く片付け始めたところだった。
「亮太」
声がかかる。
母親だ。
あのずぶ濡れになった礼央を見て、何も聞かずに助けてくれた。
いつもは若干めんどくさい母親であるけれど、こういうところは、有り難いと思う。
「母さん……」
布団を一つ持ってきた母親に、言いづらいけれど、相談しなくてはいけなかった。
「れおくんさ……実はさっき……」
話し出して思う。
自分は何もできない子供から、まだちっとも抜け出してはいないのだと。
高校に上がって、世界が少しだけ広がって、色々なものを見られるようにはなったけれど。
ただ、見ることができるようになった、それだけだ。
そこに手を加える事は、まだ許されていない。
ファンタジー世界の物語のように、れおくんの手を取って、何処かへ逃げてしまえれば簡単なのに。
母親の顔が、心配一色になる。
「それはそれは……」
なんて軽く言いながら、珍しく真剣な顔つきを見せる。
「それは少し、話をした方がよさそうね」
それから母は、時間を掛けていくつか連絡を取ったようだった。
とはいえ、最初に連絡を取ったのは、きっとケントの母だろうと察しはついた。
小1で同じクラスになってから、家も比較的近かったのと子供達が仲良くなったことで、二人も連絡を取り合うようになった。
母本人は頼りになるかどうかわからないけれど、ケントの母が一緒なら、もしかしたらどうにかしてくれるかもと期待は持てる。
問題は、礼央がどこまで介入を望むかという事だった。
手を出さないでくれと言われれば、所詮他人の自分など、何も出来ることはないのは分かりきっていた。
今日はここまで来てくれたから良かったけれど。
ふと、あの状態で、何処かを彷徨い野垂れ死ぬ礼央を思い描く。
いやいやいやいや。
亮太は頭をブンブン振った。
どうにもならない憤りを抱え、その感情のままに礼央に後ろから突進していく。
「れおくーん」
「うっわ。えっ。あああああああ」
妹とのゲーム中、突進の勢いでボタンから手を離してしまったらしく、礼央が慌てる。
後ろから抱きつくように顔を出した亮太は、手を離してしまったせいでレースゲームの順位がどんどん落ちていく画面を見て、苦笑した。
最後には、妹の、
「やった!勝った!」
という声が響いた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々
慎
BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。
※シリーズごとに章で分けています。
※タイトル変えました。
トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。
ファンタジー含みます。
アリスの苦難
浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ)
彼は生徒会の庶務だった。
突然壊れた日常。
全校生徒からの繰り返される”制裁”
それでも彼はその事実を受け入れた。
…自分は受けるべき人間だからと。
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
唇を隠して,それでも君に恋したい。
不破 海美ーふわ うみー
BL
同性で親友の敦に恋をする主人公は,性別だけでなく,生まれながらの特殊な体質にも悩まされ,けれどその恋心はなくならない。
大きな弊害に様々な苦難を強いられながらも,たった1人に恋し続ける男の子のお話。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
眺めるほうが好きなんだ
チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w
顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…!
そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!?
てな感じの巻き込まれくんでーす♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる