上 下
40 / 55

40 緊張なんて忘れてしまえ(3)

しおりを挟む
「シューーーーーーーート!」

 2組のシュートが決まる。

 ケントの声に合わせて、わっと勝利を祝う言葉が、観客席を飛び交う。

 なんだ、これ……。

 こんな……高揚感…………。

 そっか。

 みんなを楽しませられなかったらどうしようって、ずっと思ってたけど……そうじゃないな。
 みんなと楽しむんだ。
 俺が。

 礼央と二人、舞台でゲームをしたことを思い出す。

 あれも楽しかった。

 まず自分が楽しまないと、みんなが楽しめない。

 俺は、楽しんでいいんだ。
 そう、普通で。

「2年2組に2ポイントー!これは幸先いいゾロ目ですね」
「そうですね。1組には空気に呑まれず頑張ってほしいところです」

「さて、またボールを取ったのは、1組、パティシエ田中だー!」

 ケントが言うと、その声に合わせて「きゃー」という黄色い声援が上がった。
 田中先輩にはもうファンがついたらしい。

「またもや鋭いパス!的確にパスで繋いでいきますが、ここで!」
「また新田先輩ですね」
「巨体サックス!巨体サックスが来ました!」
「ちょ……っ、ケント、それもう名前入ってない」

 ツッコむと、観客席から笑いが起こった。

「新田先輩だから。俺らシメられる前に名前入れて、名前」
「おう!」
 いい返事だったにも関わらず、
「巨体サックス先輩!巨体サックス先輩が取っ……」
「先輩付ければいいってもんじゃないぞ」

 再度ツッコんで笑いが起こったところで。

「…………っ!」

 ケントが、息を呑む。

「!!」

 目の前で、新田先輩の巨体から、ボールを叩き落とす姿が見えた。

「1組、ボール取ったああああああ!あれは、名塚先輩だ!」
「バド部の名塚先輩です」

 そこからは、まるで時間が止まったみたいだった。

 コートの丁度真ん中の辺り。
 キュッとしゃがみ込んだ名塚先輩は、そのままその場で飛び上がって、ボールを投げた。

 ザンッ!

 まるでそれ以外の軌道なんて無いというように、弧を描いたボールは、ゴールの中へ落ちた。

「きゃああああああああああ」

 周りの歓声でハッとしたケントが、観客と一緒になって叫ぶ。

「すっげえええええええええ!」

 亮太も、解説として実況を取り戻さないとなんて思うこともなく、

「うわああああああああああ」

 すっかり夢中になって叫んでいた。

 二人同時にハッとする。
 最初に声を出したのはケントだった。
「3ポイントシュート決まったぁぁぁぁぁ!」

「今のは驚きましたね!!観客席もすごい歓声でした!!」
「まるで絵画を見ているようでした!世界がすろぉぉぉぉぉもーしょん!!!!」
「バド部の1年達からも一目置かれているという話でした。なんでもシャトルが上からビシィっと降って来るとか」

 そして最後にケントがため息を吐くような声で、

「ほんと、すげぇ……」

 と感嘆の声を上げた。



◇◇◇◇◇



バド部の名塚先輩……イケメンに違いない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

処理中です...