14 / 55
14 懐かれるのも悪くない
しおりを挟む
いつもの帰り道。
二人は公園の中を歩く。
同じように公園内を通って帰る学生達が川のように流れて行く。
晴れた日の午後ののんびりとした時間だ。
そこへ離れたところから、「ワンワンワンワン!」と興奮した犬の鳴き声がした。
何処から声がするのかと顔を上げたところで、亮太にでかい犬が飛びかかって来た。
「うわっ」
勢いはいいけれど、それほど大きくはないシバ犬だった。
帰りによく会う犬だ。
近所のおばちゃんが散歩をしているのだけれど、愛想のいい犬で、いつも可愛がってくれる人を見つけては飛び石のように渡り歩いている。
「あらあら、ごめんなさいね」
リードの先で、ニコニコと品のいいおばちゃんが微笑んだ。
「いえいえ。久しぶりだな、ところてん」
「ワフッ」
ひとしきり尻尾を振ると、今度は礼央に飛びかかっていこうとした。
「れおくんも、」
言いかけたところで、
「うわぁっ」
と礼央の声がした。
「え」
くるりと振り向くと、礼央は怖々と犬を見ている。
「れおくん、もしかして犬怖い?」
亮太はところてんを両手ではがいじめにしつつ、尋ねる。
「え!?」
その、あまりにも“突拍子もないことを聞かれた”感のある顔を見て、亮太も、その手に持ち上げられたところてんも目が点になってしまう。
いや、どう見ても怖がってたぞ……?
「いや、怖いっていうか」
困ったような笑顔が返ってきた。
「僕、犬……というか、動物全般と関わり合う事あんまりなくて。かわいいとは思うんだけど」
「なるほどね」
亮太は、すっと、両手で持っていたところてんを差し出す。
ところてんは人慣れしすぎているのか大人しいもので、特にどうということもない顔で手にぶら下げられている。
「じゃあ、触ってみる?」
「え」
礼央が、キョトンとした。
触るなんて、想像もした事が無かったのだろうか。
「えと……」
礼央がじ……っとところてんを見る。
「うん……」
決意の目だった。
そ……っと手を出す。
礼央の指が、そっと、薄茶の短く柔らかな毛で覆われた、小さな手に伸びる。
そっと触れる。
そして、また刺激してはいけないとでも思っているのか、そっと手を離した。
ところてんはピクリともせず、ただハァハァとしながら、終始じっと礼央の顔を見ていた。
ふっと顔を上げた礼央が、あまりにも、満足げな顔だったので、亮太は「ぶふっ」と吹き出す。
触れてよほど嬉しかったらしい。
こいつもこんな顔するんだな。
思えば、礼央はけっこう表情豊かな方だ。
そうだな。
わかりやすいし、いいやつだし。
こういう奴に懐かれるのは悪くない。
◇◇◇◇◇
心太て書いてところてんて読むの、かわいいですよね。
二人は公園の中を歩く。
同じように公園内を通って帰る学生達が川のように流れて行く。
晴れた日の午後ののんびりとした時間だ。
そこへ離れたところから、「ワンワンワンワン!」と興奮した犬の鳴き声がした。
何処から声がするのかと顔を上げたところで、亮太にでかい犬が飛びかかって来た。
「うわっ」
勢いはいいけれど、それほど大きくはないシバ犬だった。
帰りによく会う犬だ。
近所のおばちゃんが散歩をしているのだけれど、愛想のいい犬で、いつも可愛がってくれる人を見つけては飛び石のように渡り歩いている。
「あらあら、ごめんなさいね」
リードの先で、ニコニコと品のいいおばちゃんが微笑んだ。
「いえいえ。久しぶりだな、ところてん」
「ワフッ」
ひとしきり尻尾を振ると、今度は礼央に飛びかかっていこうとした。
「れおくんも、」
言いかけたところで、
「うわぁっ」
と礼央の声がした。
「え」
くるりと振り向くと、礼央は怖々と犬を見ている。
「れおくん、もしかして犬怖い?」
亮太はところてんを両手ではがいじめにしつつ、尋ねる。
「え!?」
その、あまりにも“突拍子もないことを聞かれた”感のある顔を見て、亮太も、その手に持ち上げられたところてんも目が点になってしまう。
いや、どう見ても怖がってたぞ……?
「いや、怖いっていうか」
困ったような笑顔が返ってきた。
「僕、犬……というか、動物全般と関わり合う事あんまりなくて。かわいいとは思うんだけど」
「なるほどね」
亮太は、すっと、両手で持っていたところてんを差し出す。
ところてんは人慣れしすぎているのか大人しいもので、特にどうということもない顔で手にぶら下げられている。
「じゃあ、触ってみる?」
「え」
礼央が、キョトンとした。
触るなんて、想像もした事が無かったのだろうか。
「えと……」
礼央がじ……っとところてんを見る。
「うん……」
決意の目だった。
そ……っと手を出す。
礼央の指が、そっと、薄茶の短く柔らかな毛で覆われた、小さな手に伸びる。
そっと触れる。
そして、また刺激してはいけないとでも思っているのか、そっと手を離した。
ところてんはピクリともせず、ただハァハァとしながら、終始じっと礼央の顔を見ていた。
ふっと顔を上げた礼央が、あまりにも、満足げな顔だったので、亮太は「ぶふっ」と吹き出す。
触れてよほど嬉しかったらしい。
こいつもこんな顔するんだな。
思えば、礼央はけっこう表情豊かな方だ。
そうだな。
わかりやすいし、いいやつだし。
こういう奴に懐かれるのは悪くない。
◇◇◇◇◇
心太て書いてところてんて読むの、かわいいですよね。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる