君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル

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4 ありえないから

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 その日の夜は、散々だった。

 宿題を淡々とこなして、『あー勘違いだったかもしんないなぁ』とか『過剰に反応しちゃったなぁ』とか、そんなことを思った。

 思ったけど、どうしてもふとした時に、思い出しては「あ~~~」なんて言ってしまう。

 そう、俺に足りないのは落ち着く為のコーヒーかも。
 なんて思って、マグカップを持って廊下を歩きながらも。

 思い出す。

 赤くなった頬を隠そうとするあの表情。あの、瞬間。

「……うわぁっ」

 つい、廊下で声を出してしまうと、妹の部屋から、
「うひゃあ!」
 と声がした。
 しまった。
 驚かせた。

 どうやら、通話をしながら宿題でもしていた妹が、部屋から飛び出してきた。
「お兄!え、何かあった!?」
 どうにも心配させてしまったらしかった。

「なんでもない」

 冷静を装おうとした声は、我ながらおかしな声だった。

 けど、本当に、何かあったわけじゃない。

 ないないないないない。



 その夜は、コーヒーを飲んで、なかなか寝付けないのを、コーヒーのせいにした。

 ミルクを入れなかったせいで、苦い心地がした。

 目を開けると、真っ暗にした部屋の中で、カーテンの隙間から漏れる薄い明かりが天井を照らしていた。

 一晩寝たらきっといつも通りだ。



 翌日は、予想通り、少しだけスッキリしていた。
 だって、あり得ないことなんだから。
 ただ、ほら、少女漫画みたいなよくあるシチュエーションで、ケント達が言った変な言葉で、何かおかしな勘違いをしてしまっただけなんだから。

 実際、何事もなく、1日は穏やかに進んだ。
 幸いなことに、礼央の姿は亮太の席からは見えなかった。

 休み時間、立ち上がった時だけ、あの黒いクリクリの頭が見えた。
 見える度に、『……居る』って思ってしまうのは、つまり、今までそこに居たかどうか意識したことが無かったからだ。
 そう。
 “れおくん”が本当にいつもそこに居たことを、今、知ったからで。
 深い意味はない。

 そんなわけで何度か、黒いクリクリの頭が見えたけれど、それでも目が合うことはなかった。

 ほらな。やっぱり。

 あの時振り返った時目が合ったのなんて、偶然だったんだって。

 ぐーぜん。たまたま。

 そりゃそうだよ。
 俺の方が前の方の席に居るんだし。
 あいつの英語のノート、俺が持ってたんだし。

 ノート、見えてたんだって。



 俺が変に意識してるんじゃないかって。

 それがすごい変なことなんじゃないかって。

 そう思って、頭の中で言い訳ばかりを繰り返した。

 あの時のあいつの顔だって、きっと何かの見間違いだ。



「うっし、体育体育!」
 ケントが気合を入れるのにピョンピョンした。
 ”賢人“なんていう、その名前に似合わず、頭をすっからかんにすることが好きなやつなのだ。

 その隣で柔軟がてらのピョンピョンをしているのはサクだ。
 こいつは普通に体育会系。

 体育館に、室内用スニーカーのキュッキュッとした音がそこここに響く。

「二人とも元気だな」

 一人、気合が入らないのが亮太だ。
 上下青色のジャージの、なんと重いこと。

「お前は相変わらずやる気ねーなぁ」
 ケントの呆れ顔。

「お前らがやる気出し過ぎなの」

 なんでそんなやる気ないやつの友人がこんな体育大好きっ子ばっかなんだろうな……。

 そこで、ケントが明るい声を出した。
「お、れおくんじゃん」

 ん、あ。

 礼央と、目が合った。



◇◇◇◇◇



亮太くん、礼央くん、賢人くん、作くんの4人組です。
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