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173 水面に浮かぶ(4)
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あまりにもじっと見るので、何かを思い出しそうになった。
そうだ。
あれはパーティーの夜だった。
私は、あの日…………。
私はあの日、ヴァルにキスされるんじゃないかと思ったんだ。
あの日のことを思い出す。
実際どうだったかなんて、聞く気もない。
そんなこと聞けない。
実際に、何もなかったんだし。
何かしようとしたかどうかなんて、もう、どうでもいい。
大事なのは……。
大事なのは。
ヴァルの顔を見る。
風が吹いて、なびいた髪をかきあげる、そんな横顔を見る。
大事なのは、私が、そうだったらいいと思ったことだ。
ヴァルがそういうつもりだったのなら嬉しいと思ったことだ。
もし、こっちを見てくれることがあるなら。
嫌じゃないって。
嬉しいって。
そうなりたいって。
「……ここが、ヴァルの好きな場所?」
「そ。ここはさ、すごく静かなんだ。どこよりも」
「ほんとだね。綺麗だし……。ずっとここに居たくなる」
そこでヴァルが、ふっと偉そうな顔で笑った。
あ…………。
いつもの笑顔だ。大好きな笑顔だ。
「…………っ」
だ…………。
だ………………?
だ……………………。
私、今、何言おうとした!?
かあっと顔が火照る。
ダメ。
ダメ。
こんな逃げ場所のないところで勢い余って告白なんて。
帰り道が地獄すぎる。
そんなことをしたら、帰り道は、申し訳ない顔で引っ張るヴァルと、泣きじゃくりながら引っ張られる私とかいうひどい絵面になるはずだ。
うっかり雰囲気に飲み込まれるところだった。
危ない危ない。
そう、告白って言ったら、予め手紙で体育館裏に呼び出して予告めいた雰囲気を醸し出しておくとか、何か前段階が必要なはずだ。わかんないけど。
せめてもうちょっと、好感度上がるようなことしておかないと。
今日戻ったら、『メモアーレン』のジークの好感度がどういう時に上がるか研究しておいたほうがいいだろうか。
好感度ゲージがあるわけじゃないので、これは本当にやりこんだ上での予想でしかないんだけど。
「……どうした?」
挙動不審だったようで、ヴァルが手を伸ばしてくる。
指が、躊躇なく頰に触れた。
「…………」
唇を、噛みしめる。
より一層顔が火照ってしまったので、ヴァルがちょっと驚いた顔をして指を止めた。
「なんでも、ないよ」
なんでもないから!
その指をどけて!!
顔を触ったままの指の方が何より凶悪だよ。
すりすりと頬を撫でた指がそっと離れた。
ふぅ……。
「明日も図書館の仕事行くの?」
「うん。雑用係なんだけど、だんだん何やってるかわかってきて楽しいよ。まだお使いだけで、本も触れないんだけど。このままちょっとずつ仕事を覚えていけば、正式に司書として働けるんだって」
「へぇ……」
ヴァルが、少し黙って、そして口を開いた。
「……そんなにあいつがいい?」
「…………?あいつ?」
「………………ラビラント」
少しだけ、拗ねたような口調だった。
「え?」
どうしてここでラビラントさん?
「あの、ゲームにいただろ」
「……ああ。そう。確かにゲームそのままでかっこいいよね」
「ふーん……」
「…………?」
「司書になりたい?」
「司書に……?」
正面から見たヴァルの顔は、不貞腐れている。
「あ…………。私じゃないよ!?ラビラントさんに会いたいのも、司書になりたいのも」
「へ?」
ヴァルが面食らう。
「私じゃなくて、リナリ……が……」
……あ、でももしかしたら、リナリにとっては内緒の話、だったりするかも。
「…………」
ヴァルと顔を見合わせる。
「えっと……、あんまり言えないんだけど」
誤魔化すように「へへっ」と笑うと、ヴァルも、ふっと笑った。
そうだ。
あれはパーティーの夜だった。
私は、あの日…………。
私はあの日、ヴァルにキスされるんじゃないかと思ったんだ。
あの日のことを思い出す。
実際どうだったかなんて、聞く気もない。
そんなこと聞けない。
実際に、何もなかったんだし。
何かしようとしたかどうかなんて、もう、どうでもいい。
大事なのは……。
大事なのは。
ヴァルの顔を見る。
風が吹いて、なびいた髪をかきあげる、そんな横顔を見る。
大事なのは、私が、そうだったらいいと思ったことだ。
ヴァルがそういうつもりだったのなら嬉しいと思ったことだ。
もし、こっちを見てくれることがあるなら。
嫌じゃないって。
嬉しいって。
そうなりたいって。
「……ここが、ヴァルの好きな場所?」
「そ。ここはさ、すごく静かなんだ。どこよりも」
「ほんとだね。綺麗だし……。ずっとここに居たくなる」
そこでヴァルが、ふっと偉そうな顔で笑った。
あ…………。
いつもの笑顔だ。大好きな笑顔だ。
「…………っ」
だ…………。
だ………………?
だ……………………。
私、今、何言おうとした!?
かあっと顔が火照る。
ダメ。
ダメ。
こんな逃げ場所のないところで勢い余って告白なんて。
帰り道が地獄すぎる。
そんなことをしたら、帰り道は、申し訳ない顔で引っ張るヴァルと、泣きじゃくりながら引っ張られる私とかいうひどい絵面になるはずだ。
うっかり雰囲気に飲み込まれるところだった。
危ない危ない。
そう、告白って言ったら、予め手紙で体育館裏に呼び出して予告めいた雰囲気を醸し出しておくとか、何か前段階が必要なはずだ。わかんないけど。
せめてもうちょっと、好感度上がるようなことしておかないと。
今日戻ったら、『メモアーレン』のジークの好感度がどういう時に上がるか研究しておいたほうがいいだろうか。
好感度ゲージがあるわけじゃないので、これは本当にやりこんだ上での予想でしかないんだけど。
「……どうした?」
挙動不審だったようで、ヴァルが手を伸ばしてくる。
指が、躊躇なく頰に触れた。
「…………」
唇を、噛みしめる。
より一層顔が火照ってしまったので、ヴァルがちょっと驚いた顔をして指を止めた。
「なんでも、ないよ」
なんでもないから!
その指をどけて!!
顔を触ったままの指の方が何より凶悪だよ。
すりすりと頬を撫でた指がそっと離れた。
ふぅ……。
「明日も図書館の仕事行くの?」
「うん。雑用係なんだけど、だんだん何やってるかわかってきて楽しいよ。まだお使いだけで、本も触れないんだけど。このままちょっとずつ仕事を覚えていけば、正式に司書として働けるんだって」
「へぇ……」
ヴァルが、少し黙って、そして口を開いた。
「……そんなにあいつがいい?」
「…………?あいつ?」
「………………ラビラント」
少しだけ、拗ねたような口調だった。
「え?」
どうしてここでラビラントさん?
「あの、ゲームにいただろ」
「……ああ。そう。確かにゲームそのままでかっこいいよね」
「ふーん……」
「…………?」
「司書になりたい?」
「司書に……?」
正面から見たヴァルの顔は、不貞腐れている。
「あ…………。私じゃないよ!?ラビラントさんに会いたいのも、司書になりたいのも」
「へ?」
ヴァルが面食らう。
「私じゃなくて、リナリ……が……」
……あ、でももしかしたら、リナリにとっては内緒の話、だったりするかも。
「…………」
ヴァルと顔を見合わせる。
「えっと……、あんまり言えないんだけど」
誤魔化すように「へへっ」と笑うと、ヴァルも、ふっと笑った。
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