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171 水面に浮かぶ(2)
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昼はみんなで外食にした。
知見を広める、という理由で、東の端にある広場で、一列になってホットドッグを食べた。
「なるほど……」
神妙な顔をしたチュチュが、手をケチャップだらけにしながらホットドッグにかじりつく。
「そういうところ、お嬢様だよね」
そんな風に言いながら、すかさずハンカチを差し出せるシエロも、十分貴族感溢れている。
午後のエマは、タンスの前で腕組みするところから始まった。
あまり服を持ってきているわけじゃないけど。それなりに持ってきている。
せっかくだし、オシャレするべきだろうか。“せっかく”だし。
「う~~~~~ん」
唸りながら、鏡の前でああでもないこうでもないと服を合わせてみた。
あんまり気合入れてても引かれるよね、きっと。
気の利いたワンピースもそれなりにあるけれど。
向こうがデートだって思ってない可能性のほうが高い。
あれほどあっさりOKしてしまうほどだから。
と、いうことは……。
「う~~~~~……ん」
めいっぱい唸った末、結局いつもの服のまま、居間へ入る。
居間にいたのは、ヴァル1人だった。
「じゃあ行くか」
と、一言だけ言う。
「うん」
「行く場所決まってんの?」
そう言われて、目を逸らす。
用事もないのに、誘ったことがバレてしまうじゃない。
「決まってないよ」
そっけなくそれだけを言うと、二人、屋敷を出た。
屋敷の扉をくぐったところで、チュチュと鉢合わせた。
何処かから帰ってきたところらしい。
「あれ?どこか行くの」
ツインテールが揺れる。
「ああ。散歩」
返事をしたのはヴァルだった。
ヴァルがふっと意味ありげに笑ったので、チュチュが二人の顔をまじまじと見るように視線を動かした。
「そっか、いってらっしゃい」
と普段通りを装って言ったようだったけれど、手はニヤける口を抑え、その瞳の中はキラキラとしていた。
「い、いってきます」
ど、どんな風に見えてるんだろう。
喉の奥が、ドキドキする。
ヴァルは、どうやら行くあてがあるようで、エマはそのままヴァルに付いていった。
「…………」
歩きながら、何を考えているのかとヴァルの顔を覗き込むようにすると、ふいっとヴァルがこちらを向いた。
「こっち」
手が、差し出される。
いいのかな。
きゅっ、と手を握った。
この温かさが久しぶりな気がした。
ちょこちょこと、隣に並ぶ。
木が騒めく。
背の高い城壁が見える。
城壁の中が広いからか、苦しい感じはない。
ただそれは、背景のようにそこにあった。
緩めの歩幅で商店街を通る。
足取りは変わらず、何処かへ向かっているみたい。
こっちの方角なら、魔術師の塔の方だろうか。
歩いて行くと、やはり魔術師の塔が近付いてくる。
けれど、その手前で横へ曲がった。
庭園のような、明るい林のような場所。
土の感触が柔らかく、歩き心地がいい。
……もしかして本当に、デートとして受け取ってくれたんだろうか。
それで……私と、出かけてもいいって……。
「ここ」
と言われ、手が離れる。
顔を上げると、昨日見た湖だった。
◇◇◇◇◇
エマちゃんは悩んでるみたいだけど、ヴァルは正直、一緒に出かけられるならなんでもいいんじゃないかな……。
知見を広める、という理由で、東の端にある広場で、一列になってホットドッグを食べた。
「なるほど……」
神妙な顔をしたチュチュが、手をケチャップだらけにしながらホットドッグにかじりつく。
「そういうところ、お嬢様だよね」
そんな風に言いながら、すかさずハンカチを差し出せるシエロも、十分貴族感溢れている。
午後のエマは、タンスの前で腕組みするところから始まった。
あまり服を持ってきているわけじゃないけど。それなりに持ってきている。
せっかくだし、オシャレするべきだろうか。“せっかく”だし。
「う~~~~~ん」
唸りながら、鏡の前でああでもないこうでもないと服を合わせてみた。
あんまり気合入れてても引かれるよね、きっと。
気の利いたワンピースもそれなりにあるけれど。
向こうがデートだって思ってない可能性のほうが高い。
あれほどあっさりOKしてしまうほどだから。
と、いうことは……。
「う~~~~~……ん」
めいっぱい唸った末、結局いつもの服のまま、居間へ入る。
居間にいたのは、ヴァル1人だった。
「じゃあ行くか」
と、一言だけ言う。
「うん」
「行く場所決まってんの?」
そう言われて、目を逸らす。
用事もないのに、誘ったことがバレてしまうじゃない。
「決まってないよ」
そっけなくそれだけを言うと、二人、屋敷を出た。
屋敷の扉をくぐったところで、チュチュと鉢合わせた。
何処かから帰ってきたところらしい。
「あれ?どこか行くの」
ツインテールが揺れる。
「ああ。散歩」
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ヴァルがふっと意味ありげに笑ったので、チュチュが二人の顔をまじまじと見るように視線を動かした。
「そっか、いってらっしゃい」
と普段通りを装って言ったようだったけれど、手はニヤける口を抑え、その瞳の中はキラキラとしていた。
「い、いってきます」
ど、どんな風に見えてるんだろう。
喉の奥が、ドキドキする。
ヴァルは、どうやら行くあてがあるようで、エマはそのままヴァルに付いていった。
「…………」
歩きながら、何を考えているのかとヴァルの顔を覗き込むようにすると、ふいっとヴァルがこちらを向いた。
「こっち」
手が、差し出される。
いいのかな。
きゅっ、と手を握った。
この温かさが久しぶりな気がした。
ちょこちょこと、隣に並ぶ。
木が騒めく。
背の高い城壁が見える。
城壁の中が広いからか、苦しい感じはない。
ただそれは、背景のようにそこにあった。
緩めの歩幅で商店街を通る。
足取りは変わらず、何処かへ向かっているみたい。
こっちの方角なら、魔術師の塔の方だろうか。
歩いて行くと、やはり魔術師の塔が近付いてくる。
けれど、その手前で横へ曲がった。
庭園のような、明るい林のような場所。
土の感触が柔らかく、歩き心地がいい。
……もしかして本当に、デートとして受け取ってくれたんだろうか。
それで……私と、出かけてもいいって……。
「ここ」
と言われ、手が離れる。
顔を上げると、昨日見た湖だった。
◇◇◇◇◇
エマちゃんは悩んでるみたいだけど、ヴァルは正直、一緒に出かけられるならなんでもいいんじゃないかな……。
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