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169 会いたくなってしまうので
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突然会いたくなって飛び出して来たはいいけど。
エマは、ヴァルの部屋の前でウロウロとしていた。
用もないのに、ノックするわけにもいかない。
部屋の前の窓辺で、なんとはなしに外を眺めていると、
「エマ」
と声をかけられた。
振り向くと、お風呂上がりらしいシエロが、にこっと笑った。
まだ濡れている髪が色っぽい。
「先生」
「どうしたの?こんなところで」
「ヴァルに……会いたくなって……。でも用事がないから」
「ああ」
シエロが優しい顔になった。
「もうすぐ戻ってくると思うよ。さっき見かけたから」
「そっ……か……」
部屋に、いないのか。
エマが黙ると、シエロが、ふっと笑った。
シエロの手が、頬に触れた。
「ヴァルと同じ顔してるね」
「……ヴァルと?」
問いかけると、シエロがちょっと困ったような笑顔になる。
「…………」
シエロが「ヴァルも、さ」と、唇を動かした瞬間。
エマの腕が、後ろへ引かれた。
「わっ」
後ろから覆いかぶさってきたのは、ヴァルだった。
「何してんの?」
不機嫌そうにシエロの顔を見る。
突然ヴァルが現れて、頭が真っ白になる。
なんて言おうか考えてなかったな。
シエロがからかうような笑顔になる。
「寂しそうだったからちょっとね」
ヴァルが聞く耳も持たず、手でシエロを追いやってしまう。
「わかったよ……。じゃあまたね、二人とも」
「せ、せんせ……?おやすみなさい……っ」
シエロくんが手を振ってくれたので、エマも両手で振り返した。
「…………」
くるりと振り向くと、ヴァルがまだ不機嫌そうな顔で、エマの顔をじっと見た。
「どうした?こんなところで」
「ううん。何もないんだけど」
「じゃあ、外行くか」
「え……あ……、うん」
当たり前のように誘われる。
話したそうに見えたのか、離れ難そうに見えたのか。
エマは、自分の髪の先を撫でつけた。
外に出ると、星が見えた。
隣を歩く。
ヴァルとの距離は、20センチほど。
この触れられない20センチほどの距離が、もどかしく思えた。
いつだって近くを歩いているはずなのに。
まだ温かい風が吹く。
静かな方へ歩いていく。
ヴァルはいつもこんなとき、町外れの方へ歩いた。
星がよく見える方へ。
王都のはずれの、湖の近くに二人は立った。
「広い、湖」
エマが、感嘆した声で言う。
目の前に広がるのは、町の中とは思えないほどの大きな湖だった。
『メモアーレン』に出てきた場所は知っているので、王都のことはよく知っている気でいたけれど、王都は思っていたより広いようだ。
「ねえ、ヴァルは……」
振り向くと、ヴァルはエマの方を見ていた。
「…………」
訝しげな顔で、エマの顔を覗いている。
「何かあったら言えよ?」
「え……」
ああそうか。
ヴァルは、朝から私の様子がおかしいから、連れ出してくれたんだ。
その上、シエロくんが寂しそうだったなんて、言ってたし。
「大丈夫だよ」
「…………」
納得してない顔だ。
「あのね」
「うん?」
ヴァルが、少し首を傾げた。
「明日、時間ある?」
「……ああ」
「私明日は、図書館がお休みで。明日、一緒に出掛けない?」
断られたら、どうしよう。
出来るだけ、笑顔を保つ。
断られても、そのまま笑って誤魔化せるように。
ヴァルは少し面食らったような顔をして、
「ああ」
と一言だけ返事をした。
◇◇◇◇◇
シエロくんは外見には無頓着。
とはいえ、攻略対象の中では、3番目くらいに身嗜みは整っています。
エマは、ヴァルの部屋の前でウロウロとしていた。
用もないのに、ノックするわけにもいかない。
部屋の前の窓辺で、なんとはなしに外を眺めていると、
「エマ」
と声をかけられた。
振り向くと、お風呂上がりらしいシエロが、にこっと笑った。
まだ濡れている髪が色っぽい。
「先生」
「どうしたの?こんなところで」
「ヴァルに……会いたくなって……。でも用事がないから」
「ああ」
シエロが優しい顔になった。
「もうすぐ戻ってくると思うよ。さっき見かけたから」
「そっ……か……」
部屋に、いないのか。
エマが黙ると、シエロが、ふっと笑った。
シエロの手が、頬に触れた。
「ヴァルと同じ顔してるね」
「……ヴァルと?」
問いかけると、シエロがちょっと困ったような笑顔になる。
「…………」
シエロが「ヴァルも、さ」と、唇を動かした瞬間。
エマの腕が、後ろへ引かれた。
「わっ」
後ろから覆いかぶさってきたのは、ヴァルだった。
「何してんの?」
不機嫌そうにシエロの顔を見る。
突然ヴァルが現れて、頭が真っ白になる。
なんて言おうか考えてなかったな。
シエロがからかうような笑顔になる。
「寂しそうだったからちょっとね」
ヴァルが聞く耳も持たず、手でシエロを追いやってしまう。
「わかったよ……。じゃあまたね、二人とも」
「せ、せんせ……?おやすみなさい……っ」
シエロくんが手を振ってくれたので、エマも両手で振り返した。
「…………」
くるりと振り向くと、ヴァルがまだ不機嫌そうな顔で、エマの顔をじっと見た。
「どうした?こんなところで」
「ううん。何もないんだけど」
「じゃあ、外行くか」
「え……あ……、うん」
当たり前のように誘われる。
話したそうに見えたのか、離れ難そうに見えたのか。
エマは、自分の髪の先を撫でつけた。
外に出ると、星が見えた。
隣を歩く。
ヴァルとの距離は、20センチほど。
この触れられない20センチほどの距離が、もどかしく思えた。
いつだって近くを歩いているはずなのに。
まだ温かい風が吹く。
静かな方へ歩いていく。
ヴァルはいつもこんなとき、町外れの方へ歩いた。
星がよく見える方へ。
王都のはずれの、湖の近くに二人は立った。
「広い、湖」
エマが、感嘆した声で言う。
目の前に広がるのは、町の中とは思えないほどの大きな湖だった。
『メモアーレン』に出てきた場所は知っているので、王都のことはよく知っている気でいたけれど、王都は思っていたより広いようだ。
「ねえ、ヴァルは……」
振り向くと、ヴァルはエマの方を見ていた。
「…………」
訝しげな顔で、エマの顔を覗いている。
「何かあったら言えよ?」
「え……」
ああそうか。
ヴァルは、朝から私の様子がおかしいから、連れ出してくれたんだ。
その上、シエロくんが寂しそうだったなんて、言ってたし。
「大丈夫だよ」
「…………」
納得してない顔だ。
「あのね」
「うん?」
ヴァルが、少し首を傾げた。
「明日、時間ある?」
「……ああ」
「私明日は、図書館がお休みで。明日、一緒に出掛けない?」
断られたら、どうしよう。
出来るだけ、笑顔を保つ。
断られても、そのまま笑って誤魔化せるように。
ヴァルは少し面食らったような顔をして、
「ああ」
と一言だけ返事をした。
◇◇◇◇◇
シエロくんは外見には無頓着。
とはいえ、攻略対象の中では、3番目くらいに身嗜みは整っています。
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