転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

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168 オープニング(2)

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「エマ……?」
 チュチュに声をかけられ、はっと現実に戻った。
 目の前には、食べ途中の朝食。
 そうだ、朝食の途中だった。
「あ、うん……。大丈夫」
 昨夜の衝撃は大きく、どうしても起きた時からそればかりを考えてしまっていた。

 あのおじいちゃん、どうしてジークの相手に私を選んだんだろう。

 私の気持ちがバレてる?
 それとも……。

 もしかして、ヴァルも、満更でもないとか。

 これって、リアルの方がバッドエンドになっちゃうとかある?
 その場合はゲームの中だけハッピーエンドが作られるの?
 それって辛すぎる……。

 それとも、希望があるから、私が相手なの?

 パンを口に運ぶ度、赤くなったり青くなったりしてしまう。

 それにいくらゲームと言っても、相手が私だってことをヴァルが見たら、私の気持ちがバレてしまうんじゃないだろうか。
 だって、ヴァルだって、スマホを渡されているから。
 もし、ヴァルがあれを、やっていたんだとしたら……。

 そこで、ひょこっと目の前にヴァルの顔が登場したので、
「ひゃあああああああああ」
 とすごい声を上げてしまった。

「ヴァル」

 平静を装ったつもりで、名前を呼んだ。

「お前……。大丈夫か?辛いなら今日の図書館の仕事、代わってやってもいいけど」
 そう言われ、ふとリナリの方を見た。
 あからさまに不安そうな顔をしたので、首を横に振る。
「大丈夫。ちょっと寝不足なだけで元気なんだ。図書館には行けるよ」
「…………図書館には行ける、ね。……ふーん?」
 ヴァルが目の前でジト目になった。
 何か、心配させちゃってるかな……。

 その日は、1日、あまり記憶がない。
 気が付けば昼だったし、気が付けば夜だった。
 確かに授業も受けたし、図書館にも行ったのだけれど、あまり覚えてはいなかった。

 チュチュとリナリに、「明日は図書館お休みだから、気晴らしでもしなよ」と気遣わせてしまった。

 夕食後、自室に帰ると、クラクラする頭でスマホを手に取った。
 電源をつける。と、『メモアーレン』のオープニングが始まる。
 目に入ったのは、紙吹雪だった。

 ……ジークルートを始めたから、オープニングが変わったんだ。

 本編はほとんどしていないけど。
 少しやってみたけれど、出来なかったのだ。あまりにも、自分過ぎて。
 言葉や行動。全てが間違いなく自分だった。
 記憶にない選択肢を選ぶと、バッドエンドに向かってしまうくらいには。

 怖くなって、やめてしまったのだ。

 けど、オープニングは……すごくいいな。

 ずっと好きだったジークが、画面の中で“私”と手を繋ぐ。
 ゲームの中のジークは、伸ばした黒髪を乱雑に纏めている。今よりも背が高く、大人びている。確かに『メモアーレン』のジークだ。
 そして、多少雰囲気は違うけれど、それは間違いなくヴァルだった。

 オープニングを3周して、クッションを眺めた。
 それほど、王子ルートも現実と同じだったのかな。

 ベッドの上でガバッと立ち上がり、エマは部屋を飛び出した。



◇◇◇◇◇



ゲームと現実で多少雰囲気が違うのは、ゲームのモデルになっているジークくんがエマちゃんと出会う前のジークくんだからです。
学園に入り、エマちゃんと出会ったことで、性格が丸く、もしくは面白くなったようですね。
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