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166 図書館での仕事
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翌日。
「エマとリナリはもういないのか」
授業を受け、昼食後、すぐに二人は屋敷を出たらしい。
「ちょっとバイトにね」
「バイト?どこに……」
ヴァルの質問には答えず、シエロは数枚の書類の束を渡した。
「君もお仕事、よろしくね。王都にいる間に、学園の手続き、進めておかないとね」
言いながら、シエロが、ヴァルに向かって天使のような笑顔を向ける。
ヴァルはそんな胡散臭い笑顔に、心底嫌そうな顔で返した。
屋敷を出て行く途中、後ろから、声がかけられる。
「エマとリナリを見かけたら、帰りの時間聞いておいてくれる?今朝はわからないって言っててさ」
そんな声に、沈黙で返した。
どこで働いているのか知らないことには、声をかけようがない。
そんな風に思いながら、書類に目を通す。
魔術師の塔に2枚、図書館に2枚……。
そして、ふっと思う。
“あのゲーム”の“攻略対象”に、図書館の人間がいた。
ラビラントだ。
まさか、な。
まさか、その男の顔をわざわざ見に行った、とか。
「そんな、バカな」
ヴァルは自分の考えを打ち消すように、口に出してそれを否定した。
書類を運び終えると、ヴァルは図書館の本棚へ足を運んだ。
まさか、と思う。
けれど、自分の目で確認しないことには、落ち着かなかった。
図書館を一周する。
本を選ぶフリをする。
今月発行の魔術論文を見つけ、それを手に取った。
貸出カウンターが見える人の少ない大きなテーブルについた。
「…………」
本を見るともなしに見る。
まさか、な。
この、司書すらも人数が絞られているはずの王室直轄の図書館で。
一体どうやって働くっていうんだ。
ばかばかしい。
そう、思った直後だった。
図書館に、一人の見知った男が入ってきた。
ラビラント。
あの顔を見るのは、前世以来だ。
もともとあまり交流もない奴だった。
ラビラントが、カウンターの奥から出てきた一人に話しかける。
あれ……は…………。
リナリだ。
本当に…………。
視界の端に、見覚えのある月色の髪が目に入った。
見たくない。
もし、高揚した顔をしていたら……。
けれど、見ないわけにはいかなかった。
そして、やはり、エマの視線の先には、ラビラントがいた。
「…………」
ふわっと笑う。
いつもの笑顔。
嬉しい時に見せる笑顔。
どうして。
どうしてよりにもよって、そんな顔をする?
どうすれば、その心を繋ぎ止めておける?
ヴァルは静かに立ち上がって、図書館から出た。
門までの短い距離の中で、ゆっくりと足を運ぶ。
クンッ、とマントが引っ張られる。
「…………!」
「ヴァル」
背中から、小さくエマの声がした。
振り向くと、まだマントは掴まれたままで、マントに巻かれるようになる。
「エマ。仕事中だったんじゃ……」
「うん。そう」
エマが、ヴァルを見上げた。
「……どうした?」
上目遣いで見上げた瞳。
「今日、ちょっと遅くなりそうなんだ。夕食までには帰るけど」
そうだ。それを聞きに来たんだ。
「ああ。じゃあ、シエロに伝えておくよ」
「うん」
そう返事をしたエマは少し困った顔をして、マントから手を離した。
その手を掴む。
「夕食、作っておくよ」
「……うん」
名残惜しい手をそっと離すと、エマが「えへへ」と小さく笑った。
◇◇◇◇◇
攻略対象5人の中で、身だしなみが雑なのがラビラントさんとヴァルです。
シエロくんは外見に無頓着ですが、2人よりはまだマシな方。
「エマとリナリはもういないのか」
授業を受け、昼食後、すぐに二人は屋敷を出たらしい。
「ちょっとバイトにね」
「バイト?どこに……」
ヴァルの質問には答えず、シエロは数枚の書類の束を渡した。
「君もお仕事、よろしくね。王都にいる間に、学園の手続き、進めておかないとね」
言いながら、シエロが、ヴァルに向かって天使のような笑顔を向ける。
ヴァルはそんな胡散臭い笑顔に、心底嫌そうな顔で返した。
屋敷を出て行く途中、後ろから、声がかけられる。
「エマとリナリを見かけたら、帰りの時間聞いておいてくれる?今朝はわからないって言っててさ」
そんな声に、沈黙で返した。
どこで働いているのか知らないことには、声をかけようがない。
そんな風に思いながら、書類に目を通す。
魔術師の塔に2枚、図書館に2枚……。
そして、ふっと思う。
“あのゲーム”の“攻略対象”に、図書館の人間がいた。
ラビラントだ。
まさか、な。
まさか、その男の顔をわざわざ見に行った、とか。
「そんな、バカな」
ヴァルは自分の考えを打ち消すように、口に出してそれを否定した。
書類を運び終えると、ヴァルは図書館の本棚へ足を運んだ。
まさか、と思う。
けれど、自分の目で確認しないことには、落ち着かなかった。
図書館を一周する。
本を選ぶフリをする。
今月発行の魔術論文を見つけ、それを手に取った。
貸出カウンターが見える人の少ない大きなテーブルについた。
「…………」
本を見るともなしに見る。
まさか、な。
この、司書すらも人数が絞られているはずの王室直轄の図書館で。
一体どうやって働くっていうんだ。
ばかばかしい。
そう、思った直後だった。
図書館に、一人の見知った男が入ってきた。
ラビラント。
あの顔を見るのは、前世以来だ。
もともとあまり交流もない奴だった。
ラビラントが、カウンターの奥から出てきた一人に話しかける。
あれ……は…………。
リナリだ。
本当に…………。
視界の端に、見覚えのある月色の髪が目に入った。
見たくない。
もし、高揚した顔をしていたら……。
けれど、見ないわけにはいかなかった。
そして、やはり、エマの視線の先には、ラビラントがいた。
「…………」
ふわっと笑う。
いつもの笑顔。
嬉しい時に見せる笑顔。
どうして。
どうしてよりにもよって、そんな顔をする?
どうすれば、その心を繋ぎ止めておける?
ヴァルは静かに立ち上がって、図書館から出た。
門までの短い距離の中で、ゆっくりと足を運ぶ。
クンッ、とマントが引っ張られる。
「…………!」
「ヴァル」
背中から、小さくエマの声がした。
振り向くと、まだマントは掴まれたままで、マントに巻かれるようになる。
「エマ。仕事中だったんじゃ……」
「うん。そう」
エマが、ヴァルを見上げた。
「……どうした?」
上目遣いで見上げた瞳。
「今日、ちょっと遅くなりそうなんだ。夕食までには帰るけど」
そうだ。それを聞きに来たんだ。
「ああ。じゃあ、シエロに伝えておくよ」
「うん」
そう返事をしたエマは少し困った顔をして、マントから手を離した。
その手を掴む。
「夕食、作っておくよ」
「……うん」
名残惜しい手をそっと離すと、エマが「えへへ」と小さく笑った。
◇◇◇◇◇
攻略対象5人の中で、身だしなみが雑なのがラビラントさんとヴァルです。
シエロくんは外見に無頓着ですが、2人よりはまだマシな方。
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