161 / 176
161 好きなわけじゃないけど
しおりを挟む
馬車に乗っている時も、屋敷に着いた時も、誰もが、その大きな木箱の存在を感じていた。
屋敷のエマの部屋に木箱が入れられ、扉が閉められた時、女子三人は、ごくりと喉を鳴らした。
「こんなのあるんだね……」
チュチュがいつになく大人しい、それでいて興奮を隠せない声でそう言った。
「すごい……。これは……キャラクターそれぞれのクッション……?」
リナリも、目がうるうるしてしまっている。
エマが、木箱から一つずつ、グッズを取り出していく。
5人勢揃いのポスターやクッションもあれば、キャラクターそれぞれのダイカットクッションやタペストリーなどもある。
あれから15年以上。
相変わらず、同人グッズの装いだけれど、その間も新しいグッズを作っていた雰囲気が読み取れた。
木箱には、攻略対象キャラそれぞれのグッズが入っていたけれど、心なしかジークのグッズが多いように思えた。
ちょっとした心遣い、だろうか。
グッズは思った以上に詰め込まれている。
全て出してしまうと帰る時に大変なので、上の方だけを外に出した。これだけでも充分だ。
前世で気に入っていたジークのダイカットクッションに手を触れた時、心臓が高鳴るのを感じた。
また……これを手にすることがあるなんて。
全部大事にしていた。
宝物だったし、心の支えだった。
チュチュとリナリは、声も出さずに、じっと、そのグッズたちを見ていた。凝視していると言ってもよかった。
まずエマの袖を掴んだのはチュチュだった。
「お願いがあるんだ」
そう言うチュチュは、すでに上目遣いのおねだりモード。
こんな顔するなんて珍しい。
「アタシね、」
言い出したチュチュは、「むふふふふ」と笑いながら言う。
「このひと」
チュチュが、ひとつのクッションを掴む。
「この人のグッズ、欲しいんだ」
「え…………」
びっくりしていると、リナリもおずおずと、エマの袖を掴んだ。
「あたし、も」
「リナリも?」
「こ、この人、の」
そう言うと、リナリが5人が描かれたグッズのある人を指差す。
「え…………?」
チュチュが、「あっ」という顔をして、手をぶんぶんと振った。
「違うよ!そういう意味じゃなくて!!」
リナリも、
「すき、とかじゃないんだよ」
と、なんでもないように笑う。
え?これって、恋バナ???
聞いてもいないのに、否定するとか余計怪しい。
混乱しながらも、
「じゃあ、エリオットさんに会った時、お願いしてみるね」
エマがそう言って、その話は終わった。
一人になったあとも、まだエマは混乱していた。
グッズが欲しいってどういうこと?
ゲームをやってて、推しができたっていうこと?
二人に好きな人がいるかどうかなんて、今まで聞いたこともなかった。
ゲームのキャラが好きってこと?
じゃあ……、実際は?
「…………」
むむむ……、と二人の顔を思い出そうとする。
そして、考えれば考えるほど、なんだか。
なんだか、片想いしているような顔に思えてしまった。
◇◇◇◇◇
それぞれの想い人は、敢えてまだ言わない方向で。
三人とも幸せになるといいですね!
屋敷のエマの部屋に木箱が入れられ、扉が閉められた時、女子三人は、ごくりと喉を鳴らした。
「こんなのあるんだね……」
チュチュがいつになく大人しい、それでいて興奮を隠せない声でそう言った。
「すごい……。これは……キャラクターそれぞれのクッション……?」
リナリも、目がうるうるしてしまっている。
エマが、木箱から一つずつ、グッズを取り出していく。
5人勢揃いのポスターやクッションもあれば、キャラクターそれぞれのダイカットクッションやタペストリーなどもある。
あれから15年以上。
相変わらず、同人グッズの装いだけれど、その間も新しいグッズを作っていた雰囲気が読み取れた。
木箱には、攻略対象キャラそれぞれのグッズが入っていたけれど、心なしかジークのグッズが多いように思えた。
ちょっとした心遣い、だろうか。
グッズは思った以上に詰め込まれている。
全て出してしまうと帰る時に大変なので、上の方だけを外に出した。これだけでも充分だ。
前世で気に入っていたジークのダイカットクッションに手を触れた時、心臓が高鳴るのを感じた。
また……これを手にすることがあるなんて。
全部大事にしていた。
宝物だったし、心の支えだった。
チュチュとリナリは、声も出さずに、じっと、そのグッズたちを見ていた。凝視していると言ってもよかった。
まずエマの袖を掴んだのはチュチュだった。
「お願いがあるんだ」
そう言うチュチュは、すでに上目遣いのおねだりモード。
こんな顔するなんて珍しい。
「アタシね、」
言い出したチュチュは、「むふふふふ」と笑いながら言う。
「このひと」
チュチュが、ひとつのクッションを掴む。
「この人のグッズ、欲しいんだ」
「え…………」
びっくりしていると、リナリもおずおずと、エマの袖を掴んだ。
「あたし、も」
「リナリも?」
「こ、この人、の」
そう言うと、リナリが5人が描かれたグッズのある人を指差す。
「え…………?」
チュチュが、「あっ」という顔をして、手をぶんぶんと振った。
「違うよ!そういう意味じゃなくて!!」
リナリも、
「すき、とかじゃないんだよ」
と、なんでもないように笑う。
え?これって、恋バナ???
聞いてもいないのに、否定するとか余計怪しい。
混乱しながらも、
「じゃあ、エリオットさんに会った時、お願いしてみるね」
エマがそう言って、その話は終わった。
一人になったあとも、まだエマは混乱していた。
グッズが欲しいってどういうこと?
ゲームをやってて、推しができたっていうこと?
二人に好きな人がいるかどうかなんて、今まで聞いたこともなかった。
ゲームのキャラが好きってこと?
じゃあ……、実際は?
「…………」
むむむ……、と二人の顔を思い出そうとする。
そして、考えれば考えるほど、なんだか。
なんだか、片想いしているような顔に思えてしまった。
◇◇◇◇◇
それぞれの想い人は、敢えてまだ言わない方向で。
三人とも幸せになるといいですね!
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました
魚谷
恋愛
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
8歳の頃に、15歳の夫、伯爵のギュスターブの元に嫁いだ、侯爵家出身のフリーデ。
その結婚生活は悲惨なもの。一度も寝室を同じくしたことがなく、戦争狂と言われる夫は夫婦生活を持とうとせず、戦場を渡り歩いてばかり。
堪忍袋の緒が切れたフリーデはついに離婚を切り出すも、夫は金髪碧眼の美しい少年、ユーリを紹介する。
理解が追いつかず、卒倒するフリーデ。
その瞬間、自分が生きるこの世界が、前世大好きだった『凍月の刃』という物語の世界だということを思い出す。
紹介された少年は隠し子ではなく、物語の主人公。
夫のことはどうでもいいが、ユーリが歩むことになる茨の道を考えれば、見捨てることなんてできない。
フリーデはユーリが成人するまでは彼を育てるために婚姻を継続するが、成人したあかつきには離婚を認めるよう迫り、認めさせることに成功する。
ユーリの悲劇的な未来を、原作知識回避しつつ、離婚後の明るい未来のため、フリーデは邁進する。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる