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161 好きなわけじゃないけど

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 馬車に乗っている時も、屋敷に着いた時も、誰もが、その大きな木箱の存在を感じていた。

 屋敷のエマの部屋に木箱が入れられ、扉が閉められた時、女子三人は、ごくりと喉を鳴らした。

「こんなのあるんだね……」
 チュチュがいつになく大人しい、それでいて興奮を隠せない声でそう言った。
「すごい……。これは……キャラクターそれぞれのクッション……?」
 リナリも、目がうるうるしてしまっている。

 エマが、木箱から一つずつ、グッズを取り出していく。
 5人勢揃いのポスターやクッションもあれば、キャラクターそれぞれのダイカットクッションやタペストリーなどもある。
 あれから15年以上。
 相変わらず、同人グッズの装いだけれど、その間も新しいグッズを作っていた雰囲気が読み取れた。

 木箱には、攻略対象キャラそれぞれのグッズが入っていたけれど、心なしかジークのグッズが多いように思えた。
 ちょっとした心遣い、だろうか。

 グッズは思った以上に詰め込まれている。
 全て出してしまうと帰る時に大変なので、上の方だけを外に出した。これだけでも充分だ。

 前世で気に入っていたジークのダイカットクッションに手を触れた時、心臓が高鳴るのを感じた。

 また……これを手にすることがあるなんて。

 全部大事にしていた。
 宝物だったし、心の支えだった。

 チュチュとリナリは、声も出さずに、じっと、そのグッズたちを見ていた。凝視していると言ってもよかった。

 まずエマの袖を掴んだのはチュチュだった。
「お願いがあるんだ」
 そう言うチュチュは、すでに上目遣いのおねだりモード。

 こんな顔するなんて珍しい。

「アタシね、」
 言い出したチュチュは、「むふふふふ」と笑いながら言う。
「このひと」
 チュチュが、ひとつのクッションを掴む。
「この人のグッズ、欲しいんだ」

「え…………」

 びっくりしていると、リナリもおずおずと、エマの袖を掴んだ。
「あたし、も」
「リナリも?」
「こ、この人、の」
 そう言うと、リナリが5人が描かれたグッズのある人を指差す。

「え…………?」

 チュチュが、「あっ」という顔をして、手をぶんぶんと振った。
「違うよ!そういう意味じゃなくて!!」
 リナリも、
「すき、とかじゃないんだよ」
 と、なんでもないように笑う。

 え?これって、恋バナ???

 聞いてもいないのに、否定するとか余計怪しい。

 混乱しながらも、
「じゃあ、エリオットさんに会った時、お願いしてみるね」
 エマがそう言って、その話は終わった。

 一人になったあとも、まだエマは混乱していた。

 グッズが欲しいってどういうこと?

 ゲームをやってて、推しができたっていうこと?

 二人に好きな人がいるかどうかなんて、今まで聞いたこともなかった。

 ゲームのキャラが好きってこと?

 じゃあ……、実際は?

「…………」
 むむむ……、と二人の顔を思い出そうとする。

 そして、考えれば考えるほど、なんだか。

 なんだか、片想いしているような顔に思えてしまった。



◇◇◇◇◇



それぞれの想い人は、敢えてまだ言わない方向で。
三人とも幸せになるといいですね!
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