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157 小さなお屋敷(2)

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 マーケットの手前でチュチュと分かれると、エマとヴァルは二人、マーケットの一角に辿り着いた。
 町には食料品の店舗が並ぶ一角がマーケットとしていくつも点在していた。
 この中央マーケットはこの町で一番大きなマーケットだ。珍しい食品もここなら大抵のものは手に入る。

「あ、ヴァル!魚があるよ!」

 セラストリア王国の王都は、学園よりもさらに大陸の中にある。より一層海から離れた場所で魚を見ることは珍しかった。
「それもマグロだよ!?」
 そこに氷漬けにされている大きな魚は、確かにマグロだった。
「本当だ。学園でもあんまり食べられないのにな」
「今日はこれにしようかな~」
「マグロ丼か……いいな」
「さっぱりしてていいかも」

 自然と、夕食がマグロ丼になった。

 結局、マグロに、ネギだの醤油だのを買い込んで、屋敷へ戻る。
 マグロは切身で買ったけれど、それでも6人分にしては大きい。

 醤油は、記憶にある日本にあったものと遜色ない。小型の瓶に入っており、パッケージもそれほど違和感はない。
 今まで、ゲームの中に入り込んでると思っていたからこういうものなのかと思っていたけど。
 きっとこれも、学園長が向こうの世界から持ってきて研究して作ったものなんだよね。

 屋敷へ帰ると、双子が掃除をほとんど終わらせていた。
「個人の部屋は掃除してないけど、水回りとリビングは終わらせたよ」
 そう言うメンテは、もうすっかりソファで寛ぎモードだ。
 手際がいいにも程がある。

 屋敷の中は、アンティーク調の家具で揃えられていた。
 木製の戸棚に、布張りの椅子。細かい細工が施されたランプ。
 それでアンティーク感はあるものの、どこの部屋も窓が大きく、部屋は明るい。

 夕食までには全員揃ったので、重厚感のある大きなテーブルに、マグロ丼定食のような食事が並べられる。
 そんな洋風のダイニングで食べる丼も、なかなか悪くないものだ。

「ごめん、エマ、帰るの遅くなっちゃって!片付けはアタシがやるね」
「大丈夫だよ。侯爵様ほっとくわけにはいかないし」
「パパが、みんなによろしくって。お仕事があるから会うのは難しいみたいだけど」

 その瞬間ヴァルが一瞬、嫌そうな顔をした。
 第三騎士団は王城の中に拠点がある。王城はジークが暮らしていた場所だから、複雑な気持ちがあるのかもしれない。

「……!!これおいしい!!」
 チュチュの目がキラキラと光る。

 マグロ丼は確かに美味しかった。
 海から遠く離れているはずなのに、新鮮な魚の味がした。

 屋敷には、大浴場とも言えるような大きなお風呂が付いていた。
 シャワーが3つも付いているところを見ると、やはり大勢で滞在することも多いようだ。
 チュチュとリナリが、湯船の中で、何かぼんやりと話している。
 そんな二人の姿を、エマは眠るように眺めた。
「泳げそう」
 逆側の湯船の端で、エマが呟いた。

 部屋は人数分あるので、それぞれ個室で眠ることにした。
 大きな窓のある部屋。
 ヒラヒラとしたカーテン。
 いつもよりも寝心地のよさそうな、真っ白なシーツの上で、エマはくったりとシーツに身体を横たえた。
 ベッドから腕を下ろした先、床の上に、学園から持ってきたスマホが落ちている。

 エマは、学園長からスマホを受け取ってから、『メモアーレン』を見ることも出来ずにいた。



◇◇◇◇◇



醤油を伝来したのはもちろん学園長です。
醤油工房を持っていますが、経営には携わっていません。
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