157 / 176
157 小さなお屋敷(2)
しおりを挟む
マーケットの手前でチュチュと分かれると、エマとヴァルは二人、マーケットの一角に辿り着いた。
町には食料品の店舗が並ぶ一角がマーケットとしていくつも点在していた。
この中央マーケットはこの町で一番大きなマーケットだ。珍しい食品もここなら大抵のものは手に入る。
「あ、ヴァル!魚があるよ!」
セラストリア王国の王都は、学園よりもさらに大陸の中にある。より一層海から離れた場所で魚を見ることは珍しかった。
「それもマグロだよ!?」
そこに氷漬けにされている大きな魚は、確かにマグロだった。
「本当だ。学園でもあんまり食べられないのにな」
「今日はこれにしようかな~」
「マグロ丼か……いいな」
「さっぱりしてていいかも」
自然と、夕食がマグロ丼になった。
結局、マグロに、ネギだの醤油だのを買い込んで、屋敷へ戻る。
マグロは切身で買ったけれど、それでも6人分にしては大きい。
醤油は、記憶にある日本にあったものと遜色ない。小型の瓶に入っており、パッケージもそれほど違和感はない。
今まで、ゲームの中に入り込んでると思っていたからこういうものなのかと思っていたけど。
きっとこれも、学園長が向こうの世界から持ってきて研究して作ったものなんだよね。
屋敷へ帰ると、双子が掃除をほとんど終わらせていた。
「個人の部屋は掃除してないけど、水回りとリビングは終わらせたよ」
そう言うメンテは、もうすっかりソファで寛ぎモードだ。
手際がいいにも程がある。
屋敷の中は、アンティーク調の家具で揃えられていた。
木製の戸棚に、布張りの椅子。細かい細工が施されたランプ。
それでアンティーク感はあるものの、どこの部屋も窓が大きく、部屋は明るい。
夕食までには全員揃ったので、重厚感のある大きなテーブルに、マグロ丼定食のような食事が並べられる。
そんな洋風のダイニングで食べる丼も、なかなか悪くないものだ。
「ごめん、エマ、帰るの遅くなっちゃって!片付けはアタシがやるね」
「大丈夫だよ。侯爵様ほっとくわけにはいかないし」
「パパが、みんなによろしくって。お仕事があるから会うのは難しいみたいだけど」
その瞬間ヴァルが一瞬、嫌そうな顔をした。
第三騎士団は王城の中に拠点がある。王城はジークが暮らしていた場所だから、複雑な気持ちがあるのかもしれない。
「……!!これおいしい!!」
チュチュの目がキラキラと光る。
マグロ丼は確かに美味しかった。
海から遠く離れているはずなのに、新鮮な魚の味がした。
屋敷には、大浴場とも言えるような大きなお風呂が付いていた。
シャワーが3つも付いているところを見ると、やはり大勢で滞在することも多いようだ。
チュチュとリナリが、湯船の中で、何かぼんやりと話している。
そんな二人の姿を、エマは眠るように眺めた。
「泳げそう」
逆側の湯船の端で、エマが呟いた。
部屋は人数分あるので、それぞれ個室で眠ることにした。
大きな窓のある部屋。
ヒラヒラとしたカーテン。
いつもよりも寝心地のよさそうな、真っ白なシーツの上で、エマはくったりとシーツに身体を横たえた。
ベッドから腕を下ろした先、床の上に、学園から持ってきたスマホが落ちている。
エマは、学園長からスマホを受け取ってから、『メモアーレン』を見ることも出来ずにいた。
◇◇◇◇◇
醤油を伝来したのはもちろん学園長です。
醤油工房を持っていますが、経営には携わっていません。
町には食料品の店舗が並ぶ一角がマーケットとしていくつも点在していた。
この中央マーケットはこの町で一番大きなマーケットだ。珍しい食品もここなら大抵のものは手に入る。
「あ、ヴァル!魚があるよ!」
セラストリア王国の王都は、学園よりもさらに大陸の中にある。より一層海から離れた場所で魚を見ることは珍しかった。
「それもマグロだよ!?」
そこに氷漬けにされている大きな魚は、確かにマグロだった。
「本当だ。学園でもあんまり食べられないのにな」
「今日はこれにしようかな~」
「マグロ丼か……いいな」
「さっぱりしてていいかも」
自然と、夕食がマグロ丼になった。
結局、マグロに、ネギだの醤油だのを買い込んで、屋敷へ戻る。
マグロは切身で買ったけれど、それでも6人分にしては大きい。
醤油は、記憶にある日本にあったものと遜色ない。小型の瓶に入っており、パッケージもそれほど違和感はない。
今まで、ゲームの中に入り込んでると思っていたからこういうものなのかと思っていたけど。
きっとこれも、学園長が向こうの世界から持ってきて研究して作ったものなんだよね。
屋敷へ帰ると、双子が掃除をほとんど終わらせていた。
「個人の部屋は掃除してないけど、水回りとリビングは終わらせたよ」
そう言うメンテは、もうすっかりソファで寛ぎモードだ。
手際がいいにも程がある。
屋敷の中は、アンティーク調の家具で揃えられていた。
木製の戸棚に、布張りの椅子。細かい細工が施されたランプ。
それでアンティーク感はあるものの、どこの部屋も窓が大きく、部屋は明るい。
夕食までには全員揃ったので、重厚感のある大きなテーブルに、マグロ丼定食のような食事が並べられる。
そんな洋風のダイニングで食べる丼も、なかなか悪くないものだ。
「ごめん、エマ、帰るの遅くなっちゃって!片付けはアタシがやるね」
「大丈夫だよ。侯爵様ほっとくわけにはいかないし」
「パパが、みんなによろしくって。お仕事があるから会うのは難しいみたいだけど」
その瞬間ヴァルが一瞬、嫌そうな顔をした。
第三騎士団は王城の中に拠点がある。王城はジークが暮らしていた場所だから、複雑な気持ちがあるのかもしれない。
「……!!これおいしい!!」
チュチュの目がキラキラと光る。
マグロ丼は確かに美味しかった。
海から遠く離れているはずなのに、新鮮な魚の味がした。
屋敷には、大浴場とも言えるような大きなお風呂が付いていた。
シャワーが3つも付いているところを見ると、やはり大勢で滞在することも多いようだ。
チュチュとリナリが、湯船の中で、何かぼんやりと話している。
そんな二人の姿を、エマは眠るように眺めた。
「泳げそう」
逆側の湯船の端で、エマが呟いた。
部屋は人数分あるので、それぞれ個室で眠ることにした。
大きな窓のある部屋。
ヒラヒラとしたカーテン。
いつもよりも寝心地のよさそうな、真っ白なシーツの上で、エマはくったりとシーツに身体を横たえた。
ベッドから腕を下ろした先、床の上に、学園から持ってきたスマホが落ちている。
エマは、学園長からスマホを受け取ってから、『メモアーレン』を見ることも出来ずにいた。
◇◇◇◇◇
醤油を伝来したのはもちろん学園長です。
醤油工房を持っていますが、経営には携わっていません。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました
魚谷
恋愛
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
8歳の頃に、15歳の夫、伯爵のギュスターブの元に嫁いだ、侯爵家出身のフリーデ。
その結婚生活は悲惨なもの。一度も寝室を同じくしたことがなく、戦争狂と言われる夫は夫婦生活を持とうとせず、戦場を渡り歩いてばかり。
堪忍袋の緒が切れたフリーデはついに離婚を切り出すも、夫は金髪碧眼の美しい少年、ユーリを紹介する。
理解が追いつかず、卒倒するフリーデ。
その瞬間、自分が生きるこの世界が、前世大好きだった『凍月の刃』という物語の世界だということを思い出す。
紹介された少年は隠し子ではなく、物語の主人公。
夫のことはどうでもいいが、ユーリが歩むことになる茨の道を考えれば、見捨てることなんてできない。
フリーデはユーリが成人するまでは彼を育てるために婚姻を継続するが、成人したあかつきには離婚を認めるよう迫り、認めさせることに成功する。
ユーリの悲劇的な未来を、原作知識回避しつつ、離婚後の明るい未来のため、フリーデは邁進する。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる