転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

文字の大きさ
上 下
146 / 239

146 大魔術師のあの日の話(2)

しおりを挟む
『けど……。私は……、ジークの人生があのまま終わってしまうのは嫌です。ジークが居なくなってしまうなんて嫌です。……幸せになってほしい。幸せにする方法はありませんか』

「ああ、そんなに泣くでない」
 大魔術師は、数百年は経っていそうなすっかり色あせボロボロになった紙きれを取り出した。
「ここに、精霊との契約書が3枚ある。……二人を生まれ変わらせることができる」
『…………?』
「ワシは……、お前さんのジークへの愛を知っている」
『確かに、命をかけてもいいくらい大好きですが。いえ、もうその命もありませんが』
「えまさん。お前さんも、生まれ変わってみないか?記憶をそのままに。名前をそのままに。姿をそのままに」
『私が?ジークも……?』
「そうじゃ。ワシは思う。お前さんが居てくれたら、ジークを幸せにすることも、可能なんじゃないかと。先のことはわからないが、賭けてもいい気がしているんだ」
 大魔術師の声が、幾分か明るくなる。
『次の私の人生を、ジークに捧げるってことですね?それで、ジークを幸せにする方法があるなら。メイドでも護衛でもなんでもやります』
 大魔術師は、ふっと笑った。
 人生を捧げて欲しいわけではない。これは、えまに取り返しのつかないことをしてしまった償いでもある。
 それに、大魔術師には予感があった。
 ジークとえまは、相性がとても良いのではないかと、そう思えた。
 この二人なら、笑い合い成長する姿が見られるのではないかと。

『生まれ変わったら、私、必ずジークを探し出して、この人生を捧げます』
「魂でのこの会話は、生まれてしまえば忘れてしまうものだ。ワシがジークと会えるよう、必ずお前さんを迎えに行こう」

『ジークを、幸せにするために』

 まだ涙が滲んだその声は、それでも少しだけ力強さが戻ってきていた。

「『ジークを幸せにする同盟』じゃな」
『はい!必ず』

 大魔術師は、それぞれの魂のために、大事な精霊との契約書を崩し、それで紐のようなものを作った。
 作っている間、えまの魂は、沈黙を守るジークの魂の側に、寄り添うようにじっとしていた。
 その契約書1枚ずつで作った紙紐を、それぞれの魂にリボンのように結びつけてやる。
「これを巻いておけば、記憶をそのままに、名前をそのままに、姿をそのままに、精霊が力を貸してくれる」
 大魔術師は、優しい顔をしていた。
「さあ、お行き。まだ魂宿らぬ、母親の元へ」

『また、会えますよね?大魔術師様にも。ジークにも』
「ああ、必ず会えると約束しよう」

『また、ね……ジーク様』
 えまの魂の最後の言葉には、やはり涙が滲んでいた。
 えまの魂は、ジークの魂にさらに寄り添うように近付き挨拶をすると、窓の外へ、光の粒子のように飛んで行った。



◇◇◇◇◇



身体という記憶媒体がないので、魂は記憶を保持しておくことができません。
名前を受け継げるのは、母親のお腹にいるときに母親に伝わるためで、必ずその名前になるとは限りません。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...