転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

文字の大きさ
上 下
143 / 239

143 大魔術師の落とし物(3)

しおりを挟む
 ブン…………。

 と、耳慣れていたはずの音がする。
 電気の明かりが目に入る。
 本棚に、見知った文字の本がズラリと並べられている。

 震えながら、エマが一歩、その部屋へ入ると、そこはまるで、前世で居た場所のようだった。

 これは……、パソコンのモーター音……。
 大きなデスクには、大きなパソコン画面が広がっている。
 画面には、大量の文字列が見える。
 明かりは、この世界の明かりとは違う、白い色をしている。
 本棚には、『プログラミング入門』などといった、日本語の本が並べられていた。

 もう、言葉を発することもできなかった。

 これって……何?

 小さな、恐怖が生まれる。

 自分の居場所とは違う。違和感。

「怖がることはない」
 学園長が言う。
 ヴァルがエマの様子がおかしいことに気付き、先に立ち、部屋へ入った。
 それに続いて部屋へ入っていく。
 まるで異世界へ入ったみたいだった。

 座る場所もないので、三人揃って床に座った。
 左から、ヴァル、エマ、シエロの順で。

 ヴァルが側にあった大きなクッションを、エマに渡してくれた。

「何から、話したものか……」
 学園長が、デスクの椅子に座り、う~む、と腕組みをする。
「……じいさん、どう話しても怒られる以外の方法はないと思うぞ」
 ヴァルの目が凄んでいる。
「う~む」
 学園長が、三人の顔を順番に見た。
「その機械は……異世界のものだ。スマートフォンという」
 学園長が、話し始める。
「そして、そこに映っているのは、ワシが作ったゲームじゃ」
「異世界……?」
 シエロが呟いた。
 これを作ったのが、学園長……?
 エマが、スマホの画面をつける。
「…………」
 見知った画面が出てきて、涙を堪える。
「ゲームって……これが、か?イラストにはなってるけど、これはどう見ても……」
 ヴァルが、そこで顔をしかめた。
「……俺たちだろ」
 シエロも、スマホに映る自分のイラストを見ている。
「……僕に至っては子供の姿なんだけど」
 シエロが、呆れた顔をした。
「ワシも大魔術師となってしばらく経つからなぁ。歴史を書き記しておかなければならなくてなぁ」
「……は?」
 ヴァルの視線が冷たくなる。

「じゃあまさか……歴史書のつもりでこれを作ったってことか……」
「え……?」
 どういう、こと?
 じゃあ、私は、乙女ゲームの中に入ったわけでもなくて……。

 三人でまじまじと『メモアーレン』のオープニング画面を見た。

 攻略対象の5人が、揃って笑顔を向けている。

 ハッとする。
 パソコンに、プログラミングの本……。
 つまり……。

「私……は…………、『メモアーレン』を作った人がいる所に、来たってこと……?」
 エマが、思い付いたまま言葉にすると、ヴァルとシエロがエマの顔を見た。
 学園長が、優しくエマに微笑む。
「…………」

「その昔、ワシは精霊の秘術を使って、異界との門を開いた。たまたま繋がったのが“日本”という国だ」
 大魔術師は語り出し、三人は、大人しく話を聞くことにした。
「ワシは、随分とその国が気に入ってなぁ。色々なものを学んだし、色々なものを持ってきた。食事や文化なんかをな」
 ……思い当たるところがある。なぜか、日本と変わらない食事風景。唐揚げもあれば、和菓子もある。温泉だって、学園長が言う文化なのかもしれない。
「そして、ワシは、それだけでは飽き足らなくなり、その国の文化で歴史書を書いてみようと思ったのじゃ。それが……、『メモアーレン』。恋愛シミュレーションゲームじゃ」

「………………」

 全員が沈黙した。
 学園長は、厳かな顔をしている。

 三人は、青ざめた顔のまま、その小さな画面をじっと見ていた。

「そして、日本でリリースした」

「………………」

「恋愛…………?」

 ヴァルが、怒りで震える声で、小さくそう言った。

「そう、この5人それぞれと、恋愛できるゲームじゃ」

 学園長、ドヤ顔やめてぇ…………。

「じじい……、日記は紙に書け」

 低く、凄んだヴァルの声。

「で?」

 ヴァルが、怒りを堪えるように声を出した。

「エマは……、どう関係があるんだ?」

「それはなぁ……」
 学園長が、促すようにエマに視線を投げた。

 私の話……、か。

 攻略対象に左右を挟まれて。
 それも、左側にいるのは、人生で唯一の推しで。

 これって……、なんて公開処刑ですか。



◇◇◇◇◇



大魔術師マルーは、若い頃世界中をまわって、いくつかの精霊と契約を交わしました。それによって手に入れたのが日本への扉。
その人生の集大成が恋愛シミュレーションゲーム『メモアーレン』です。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...