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140 祭りの終わり

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 広場を出る頃には、エマとチュチュの両手は、花束で埋まっていた。
「思ったより声援もらっちゃったね」
「楽しかったね~」

 みんなでワイワイしながら広場から繋がる通りに入ると、一人、見知った人物が立っていることに気付いた。
 それほど身体は大きくないというのに、威厳がある姿。
 人通りは多いのに、誰もがぶつかる事なく避けていく。

 学園のメンバー全員がその人に気付き、目の前に立った。
「いらっしゃってたんですね、学園長」
 シエロが声をかけると、いかにもなトンガリ帽子をあげ、長いお髭のお爺さんの顔が現れた。
「もちろん。生徒達の晴れ舞台じゃからのう」
 いつもの笑顔。
 優しいくせに、何を考えているのかわからない笑顔。
 そんな顔を見ると、いかにもヴァルとシエロの師匠だなぁ、と思う。二人とも、胡散臭い笑顔が得意だもの。
「さて、」
 学園長はその長い髭を撫でながら言う。
「この近くの店に予約してある。まずは夕食といこうじゃないか」
「はーい!」

 そういえば、今日は早めの昼食以降食事を取っていなかった。
 正直、食事はありがたい。

 予約してある店は、いかにも酒場という店の中の、一番大きなテーブルだった。
「みんな、お疲れ」
 学園長が言い、全員で乾杯した。
 花をテーブルの周りに飾るように置かせてもらったので、店の中でも目立つ集団になった。

「お嬢ちゃん達、さっきの劇の子達じゃないか!よかったよ」
 周りからも声がかけられる。
「ありがとうございます!」
 ジュースやおつまみがいくつも差し入れられ、テーブルの上はてんやわんやだ。

「じゃあ、監督!一言!」
 どこかから声が飛んできて、リナリが立ち上がる。
 注目を浴びることに慣れていないようで、それでも照れながらなんとか声を出す。
「気に入ったお話を、舞台にすることだけでも嬉しいことだったのに、みんなが付いてきてくれて、大勢の人が見てくれて。本当にありがとうございました!」
 ワーッと歓声が上がる。

 店中で食べたり飲んだり、お互い誰だかわからないのに乾杯したり。
 騒ついた中で食事は終わった。

 学園へ戻る頃には、すっかり夜も更けていた。
「足元、気をつけて」
 シエロがみんなに声をかける。
 馬車を降り、学園の階段を上がる。
 エマは、みんなより少し後を歩いていた。
 やっぱり、少し疲れたかな。
 相変わらず、両手には沢山の花束。

「手伝うよ」
 と、手を出してきたのは、ヴァルだった。
「あ、ありがとう」
 ヴァルは花を半分持つと、エマの手を掴んだ。
「…………!?」
 うおおぉ……?
 ヴァルってばどうしたんだろう。……いつもなら、手を差し出してくれるのに。疲れているから気を使ってくれたんだとは、思うけど。
 動揺していると、ヴァルが繋いでいる手に力を込めた。
「…………」
 離す気はないってことか……。
 やっぱり最近、緊張してしまうことに気がついているんだろうか。出来るだけ自然に、離そうとしていることが。

 花束を食堂へ置く。
 食堂は、花束を置くだけなので、少し薄暗い明かりにしてあった。
 すでにそこには誰もおらず、食堂にいるのは、エマとヴァルだけになっていた。

 クッションコーナーの脇に、花束を並べていく。

「今日はお疲れ。かっこよかったよ」
 想像もしていなかったことを言われ、少し驚く。
 精霊役、かっこよかった?
 何よりも嬉しい、その言葉。
「ありがとう……」
 ふわっと笑う。

「頑張ったな」
 いつの間にか、しゃがんで花束を並べていくエマのすぐ横に、ヴァルがしゃがんでいた。
 ヴァルの手が伸びてきて、頬に、頭に、ぐりぐりと撫でられる。
 ……褒め方が犬…………。

 このご褒美はなんだろう。

 これって、ジークとしてなんだろうか。ヴァルとしてなんだろうか。
 ファンサ?ファンサじゃなかったら……何?

 ああ、でももうどちらでもいいや。

 この幸せには抗えない。

 出来るだけ顔には出さないように、心の中でのたうちまわる。
 こんなご褒美が貰えるなら、もうなんだっていいや。



◇◇◇◇◇



というわけで、お祭りエピソード終了です。
次回からまたメインストーリーに入ります。この数話で設定は出し尽くしで、物語の全容が見えるはず、です。
まだまだよろしく~!
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