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128 本物なんだ(2)
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午後の実習室。
エマは、ダンスでも出来そうなほどツルツルとした床の上に、足を投げ出して座った。
そばに、図書室から持ってきた参考書が数冊積んである。
ガチャ、と音がしたので振り返ると、シエロが部屋に入ってきたところだった。
「ねえ、先生」
「うん?」
床に座り込んだまま見上げる。
「ヴァルがジークだってこと、双子には言っていいのかな」
「いいよ」
予想外なことに、返事はあっさりしていた。
「もう、伯父もいないし。双子以外が知っているのに、隠し通すのも不自然だからね。もう本人からも許可はもらっていて、僕から話す予定なんだ」
そうだったんだ……。
シエロの、優しく包むような笑顔。
……相変わらず、天使みたいだ。
「何より、エマが不自然過ぎるしね」
天使のような顔のままで、ククッと笑う。
やっぱり、おかしく見えるんだ。
「……いつも通りにしたいんだけど。うまくいかなくて」
エマが、しゅんと首を垂れた。
シエロが、エマが持ってきた参考書を一つずつ確認しながら、にっこりと笑った。
エマは、床のツルツル加減を確かめながら、その姿を見ていた。
「……本当に、ヴァルはジークなんだね」
シエロが、優しくエマの方を見た。
「そうだね。小さい頃から。どこからどう見ても、ジークでしかなかったよ」
シエロの青い瞳が、何かを思い出すように遠くを見た。
「初めて会話した時、もう信じるしかなかった。それまでのジークと、全く同じだった」
授業の準備で黒板に何か書き始めたシエロをじっと見た。
今日は、ほとんど座学になる予定だった。
机の準備をしながら、ぼんやりとする。ひとつひとつ、参考書を机に積んでいく。
ずっと、ジークと一緒にいて、ジークのことを見てきた人がそう言うんだからそうなんだ。
そうなんだ……。
その夜。
エマ、チュチュ、リナリの3人はエマの部屋にいた。
それぞれお風呂上がりのルームウェア姿だ。
まだ夏の雰囲気を纏った3人は、薄手のワンピースにハーフパンツを合わせている。
ローテーブルの上には、チョコレート菓子。
「リナリはあの話、聞いた?」
「あ、うん。ジークヴァルトの」
「そう!ヴァルは実は、生まれ変わりなの!!」
チュチュがドヤ顔で言う。
リナリがきょとん、とする。
「あれ?驚かない?」
リナリが困った笑顔を見せた。
「英雄としては興味あるけど。生まれる前の人だし。ピンとこない、かな」
そっか。その程度か。
そうだよね。
「じゃあこれは!?そのことで、エマが、相談があるみたいなんだけど!!」
チュチュにそう言われ、リナリの瞳がこちらを向いた。
そんなに注目されるとちょっと恥ずかしいんだけど。
「えーと、あのね。実は……」
部屋に飾ってある、リナリに手伝ってもらって作った人形をチラリと見た。
「実は、私、前からずっと……好きな人がいてね。あの、人形のモデルの人なんだけど」
リナリも、人形を見る。
「あれが、ジークヴァルト・シュバルツ、なんだ」
エマが、恥ずかしさのあまり、言いながら下を向いた。
リナリの反応がなかったので、顔を上げると、リナリが両手で口を押さえ、こちらを見ていた。目がキラキラと輝いている。
「それって……、”運命の二人“ってこと……?」
予想外……!
もっとクールな子かと思っていたけど、そういうこと、考える子だったんだなぁ。
「そ、そういうんじゃないんだけど」
エマは、えへへ、と誤魔化すように笑った。
◇◇◇◇◇
水の魔術の温度変化を得意とするシエロくんにとっては、光の魔術の光量変化も得意分野のようです。
エマは、ダンスでも出来そうなほどツルツルとした床の上に、足を投げ出して座った。
そばに、図書室から持ってきた参考書が数冊積んである。
ガチャ、と音がしたので振り返ると、シエロが部屋に入ってきたところだった。
「ねえ、先生」
「うん?」
床に座り込んだまま見上げる。
「ヴァルがジークだってこと、双子には言っていいのかな」
「いいよ」
予想外なことに、返事はあっさりしていた。
「もう、伯父もいないし。双子以外が知っているのに、隠し通すのも不自然だからね。もう本人からも許可はもらっていて、僕から話す予定なんだ」
そうだったんだ……。
シエロの、優しく包むような笑顔。
……相変わらず、天使みたいだ。
「何より、エマが不自然過ぎるしね」
天使のような顔のままで、ククッと笑う。
やっぱり、おかしく見えるんだ。
「……いつも通りにしたいんだけど。うまくいかなくて」
エマが、しゅんと首を垂れた。
シエロが、エマが持ってきた参考書を一つずつ確認しながら、にっこりと笑った。
エマは、床のツルツル加減を確かめながら、その姿を見ていた。
「……本当に、ヴァルはジークなんだね」
シエロが、優しくエマの方を見た。
「そうだね。小さい頃から。どこからどう見ても、ジークでしかなかったよ」
シエロの青い瞳が、何かを思い出すように遠くを見た。
「初めて会話した時、もう信じるしかなかった。それまでのジークと、全く同じだった」
授業の準備で黒板に何か書き始めたシエロをじっと見た。
今日は、ほとんど座学になる予定だった。
机の準備をしながら、ぼんやりとする。ひとつひとつ、参考書を机に積んでいく。
ずっと、ジークと一緒にいて、ジークのことを見てきた人がそう言うんだからそうなんだ。
そうなんだ……。
その夜。
エマ、チュチュ、リナリの3人はエマの部屋にいた。
それぞれお風呂上がりのルームウェア姿だ。
まだ夏の雰囲気を纏った3人は、薄手のワンピースにハーフパンツを合わせている。
ローテーブルの上には、チョコレート菓子。
「リナリはあの話、聞いた?」
「あ、うん。ジークヴァルトの」
「そう!ヴァルは実は、生まれ変わりなの!!」
チュチュがドヤ顔で言う。
リナリがきょとん、とする。
「あれ?驚かない?」
リナリが困った笑顔を見せた。
「英雄としては興味あるけど。生まれる前の人だし。ピンとこない、かな」
そっか。その程度か。
そうだよね。
「じゃあこれは!?そのことで、エマが、相談があるみたいなんだけど!!」
チュチュにそう言われ、リナリの瞳がこちらを向いた。
そんなに注目されるとちょっと恥ずかしいんだけど。
「えーと、あのね。実は……」
部屋に飾ってある、リナリに手伝ってもらって作った人形をチラリと見た。
「実は、私、前からずっと……好きな人がいてね。あの、人形のモデルの人なんだけど」
リナリも、人形を見る。
「あれが、ジークヴァルト・シュバルツ、なんだ」
エマが、恥ずかしさのあまり、言いながら下を向いた。
リナリの反応がなかったので、顔を上げると、リナリが両手で口を押さえ、こちらを見ていた。目がキラキラと輝いている。
「それって……、”運命の二人“ってこと……?」
予想外……!
もっとクールな子かと思っていたけど、そういうこと、考える子だったんだなぁ。
「そ、そういうんじゃないんだけど」
エマは、えへへ、と誤魔化すように笑った。
◇◇◇◇◇
水の魔術の温度変化を得意とするシエロくんにとっては、光の魔術の光量変化も得意分野のようです。
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