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119 囚われのお姫様(2)

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 ヴァルは正門の前に立つ。
「エマ・クレストがここに居ると聞いてきた。返してもらおうか」

 そこへぞろぞろと立ち塞がる者たちがいた。
 チュチュが真ん中でどんと構える。後ろにはシエロとキリアンが控えている。エマはキリアンの隣に居た。
 チュチュが、両手を前に出し、ポーズをつける。
「果たして!エマがヴァルのところに戻りたいなんて言うかな!?」
「どうしてもエマと話がしたい。必ず連れて帰る!」
「ハッハッハ!エマは今日からアタシのものだー!やれるものならやってみろ!!」
 チュチュがドヤ顔で叫ぶ。

「ジュエル」

 チュチュのベルトに付いた石の前に、魔法陣が光り、弾けるように消える。
 チュチュの手に、黒い双剣が握られた。
 それを合図に、シエロとキリアンの目付きが変わった。
「は?本気かよ」
 ヴァルが腰の短剣を抜き、構えた。

 エマは、その光景を静かに見ていた。
 チュチュが奔り、ヴァルに突っ込んで行く。
 目の前の攻防戦に、どうしても心臓が反応してしまう。

 あれが……ジーク……。

 どうみてもヴァルだ。
 どうみてもヴァルなんだけど。でも。
 そんな気持ちとは裏腹に、心臓はバクバクと騒ぐ。

 この心臓の高鳴りがどういう意味なのか、エマにはわからなかった。
 あれがヴァルだからなのか。
 あれがジークだからなのか。

 一挙手一投足に神経を集中させてしまう。

 ヴァルがチュチュの双剣を弾き飛ばすと、チュチュがもう一度「ジュエル」を唱え、新しい双剣を手に、ヴァルに突っ込んで行った。
 チュチュがヴァルの攻撃を避け、攻撃を仕掛けようとした瞬間、ヴァルがチュチュの足を後ろから払う。
 尻もちをついたチュチュが短剣を突きつけられることで、戦意を喪失したのがわかった。

「次は僕だよ」
 ブン、と杖が振り回される。
「魔術師のくせに力技かよ」
 ヴァルがニッと笑う。

「天上への贄」

 シエロが唱えると、シエロの持つ杖の上に魔法陣が輝き、弾けるように消えた。
 地面に水が湧いたかと思うと、バキン、という凄まじい音と共に、空へ向かって尖った氷柱が突き出した。
 それをヴァルが避け、着地する瞬間、シエロがその着地点へもう一度「天上への贄」を唱える。
 ヴァルが氷柱を踏み台にさらに飛び退る。
 そこでシエロが、

「慈悲の女神」

 と唱えた。
 シエロの持つ杖の上に魔法陣が煌めくと、弾けるように消えた。
 シエロの右手に、細長い、剣にしては短く、短剣にしては長い、氷でできた剣が現れた。
 勢いをつけ、逃げ場を失ったヴァルに突き刺しに行く。
「へぇ」

 そこで、ヴァルが見たものは、キリアンがエマを抱き上げるところだった。
「…………は!?」
「人質のお姫様は、安全なところに居ような」

 ヴァルが氷柱の上に足を降ろそうとして滑らせる。
 バランスを崩したまま、両手でなんとかシエロの剣を掴み、シエロを力任せに蹴飛ばした。
 なんとかこらえたシエロを置き去りに、キリアンに突っ込んで行く。

「お前……」
 キリアンが驚いた顔で、大剣でヴァルの短剣を受け止める。
「嘘だろ……」
 面白がるような顔。
 エマが後ろへ下がる。
 ヴァルがしゃがんで大剣を避けたところで、動いたのはシエロだった。

「あまりにも、わかりやすい弱点だね」
 と、シエロがエマを引き寄せる。
「ほら、エマは危ないから、こっちおいで」
 言いながら、シエロはエマを後ろから優しく抱きしめた。

 ヴァルの目に、エマの満更でもない顔が目に入る。
「ふざけんなよ……っ」
 キリアンに足払いをしかけたが、流石に魔術師相手のようにはいかず、びくともしない。
 飛び上がってなんとかキリアンの一撃をさらに避ける。力任せにキリアンの顔に、平手を叩き込んだ。

「転落」

 ヴァルの短剣の前に魔法陣が現れ、弾けるように消える。
 キリアンの顔に、黒いアイマスクのようなものが張り付いた。
 キリアンが、降参の態度を示すために、地面に大剣を突き刺す。

 ヴァルはすかさずシエロとエマの方に走っていった。
 手を振りかざす。
 シエロは抵抗しなかった。
 その代わり、ヴァルの神経を逆撫でする方を選んだ。
 エマを抱き締める手に力を込め、挑発する顔で、ヴァルを見た。
 そのシエロの勝ち誇った目も、エマの真っ赤になって慌てる横顔も気に入らなくて、ヴァルは力任せにシエロの顔に、平手を叩き込んだ。

「転落」

 ヴァルの短剣の前に魔法陣が現れると、弾けるように消えた。
 シエロの顔に、黒いアイマスクのようなものが張り付いた。



◇◇◇◇◇



闇の魔術師に頭上を取られると、なかなか勝てないかもしれませんね。
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