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117 エマ・クレスト誘拐事件(2)

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「ん~~~~」
 チュチュが唸る。
「そこまで好きなの知っていながら、いつかバレるような事を隠そうとしてたあの男が悪い!」
「あ、でも……、内緒で話してるの聞いちゃったの私だし」
 エマが俯いた。
 チュチュがふんぞり返る。
「隠したままエマと一緒にはいられないよ。逃げよう!そんな男捨てちゃおう!」
「捨てるって……。そういう関係じゃ……」
 チュチュの目は、本気だった。
「そうですよ、お嬢様。ご飯もろくに食べずに引きこもるのはよくないですよ。思考もネガティブになるというものです。身体だけでも元気にしておきましょう」
 チュチュとマリアは、”逃げる“という点で、意見が一致しているようだった。

 馬車はガラガラとなかなかのスピードで走っている。
「……そう言えば、この馬車ってどこに向かってるの?」
「これはねぇ、アタシんち!」
「えっ!?」
 チュチュの家……?
「私、今ヴァルと離れるつもりは……」
「だーいじょうぶ!」
 チュチュが決め顔で言う。
「もう、ヴァル宛で脅迫状出したから!」
「脅迫状……!?」

 その頃、ヴァルはその"脅迫状"を手にしていた。
 脅迫状を渡したエーデルが、申し訳なさそうに言う。
「ごめん、僕のせいだ」

「お前の大事なエマ・クレストは預かった。返してほしくばここまで来ること」
 そして最後に女の子らしい字で「チュチュリエ・コンスタン」とサインがしてあった。

 一瞬戸惑ったが、コンスタンといえばあのいけ好かない騎士団長の名だ。
 その家でこの名ということは、チュチュのことだろう。
 これでは謝りも話し合いもできない。
「シエロは?」
「シエロ様は最初からエマさんの味方だよ。とっくに出ていっちゃったよ」
「あいつ……」
 窓に手を突いて、ため息を落とした。

 過去が誰だったかなんて、それほど大事なことだろうか。
 そんなもので気を引いて好かれても、嬉しいとは思えない。
 過去の栄光に縋って好かれたところで、好かれたのは何もできない今の自分じゃない。
 今の自分で、このままの自分で、向き合いたかっただけなのに。
 とにかくこのままにしてはおけない。
 シエロやコンスタンが関わっていることも気に入らない。
 今、手離すわけにはいかない。
 やっと、捕まえられるかと思ったのに……。

 大事にしたいと、自分のものにしたいと思えば思うほど、うまくいかなくなってしまう。

「お前は?シエロがどこへ向かったか、知らないか?お前に挨拶して出たんだろ?」
 エーデルが目を逸らし、気まずそうな顔をする。
「……僕は、兄さんがそんなに楽しそうにしてるのは初めて見たよ」
「楽しくないが?」
「僕は兄さんの味方になる。エマさんはコンスタンの領地にある北側の小さな屋敷にいるよ」

 ヴァルは、がっとマントを掴むと、部屋から飛び出して行った。



◇◇◇◇◇



マリアさんは、子爵邸のある町の出身です。親が学者で、特技は勉強。
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