115 / 239
115 転生させた誰かが教えてくれなかったこと(2)
しおりを挟む
扉が開いた勢いで、エマがぺたん、と床に座り込んだ。
扉は開いていて、暗い部屋の中に、2人の人間がいることがわかった。
扉を開けたのは、ヴァルだった。
そのすぐ後ろに、エーデルが立っていた。
「エマ……!」
エマは、もう半分泣き顔になっていた。
ヴァルがエマを助け起こそうと踏み出す。
そのヴァルから逃げるように、エマは転がるように走り出し、階段を降りて行った。
「エマ……」
怒った顔のままで、ヴァルがエマを追いかけようとして、思い直して立ち止まる。
エーデルは、「ごめん……、兄さん……」と小さく呟いた。
ヴァルが、エーデルを一瞥する。
「俺はもう……死んだ人間だよ」
エマは、部屋に戻り、ベッドへ潜った。
今のって…………どういうこと?
どういう意味?
混乱する。
混乱する。
エマは、布団の中に潜り込み、ぼろぼろと涙をこぼした。
もしかしたら、何かの勘違いかもしれない。もしかしたら、あの部屋にはもう一人居たとか。もしかしたら、2人で何か冗談を言っていたとか。
もしかしたら。
そんな“もしかしたら“を考えることが、どれだけ意味のないことか、もうエマには解っていた。
気付いてしまえば、もうエマには理解することしかできない。
エーデルに感じていた違和感を、ヴァルには感じたことがなかった。そんなの当たり前だ。本人だったからだ。
目が同じ色だ。
依り代も同じ物。
名前だってそのままだ。ジークヴァルトの“ヴァル”だったんだ。
顔が似てるんじゃない。そのままジークの顔だ。
好みの顔だなんて思っていた。そうじゃない。あの顔は……、私が世界で一番好きな顔だ。
「うわああああああああああああん」
なんで今まで気が付かなかったの!!!!???
こんなにそばに居たのに…………!!!!!!
そりゃあ目の前に居たら、どうしたって惹かれるに決まってる。
纏う空気も、そのまんま。
こういうのって、転生する時に、女神様だか誰だかが教えてくれるものなんじゃないの!?
「この世界には推しが居ますよ」くらい言っておいてくれたら、こんなことにならなかったのに……。
「ああああああああああん」
だって私…………。
私…………。
本人に向かって“大好き”って何回言った!!??
告白とか、そんなレベルじゃない。
恥ずかし過ぎるでしょ……。
「もうやだああああああああああああああ」
ずっと好きだって言い続けて。まるでストーカー。
こんな風に好かれてるのって、本人には気持ち悪いことかもしれないし。
迷惑だったかもしれないし。
よりにもよって、ジークにそんなことしちゃうなんて。
泣いても泣いても泣き足りなくて。気がつけば太陽は高いところまで登っていた。
途中、メイドが様子を見にきてくれたけれど、布団に潜ったまま、泣きはらした目を覗かせたら、もう何も言われなくなってしまった。
それから、数日間部屋から出ないままでいた。
時々、メイドが軽食を持ってきてくれた。
3日目に軽食と一緒に置いてあったフルーツゼリーは、エマのレシピと同じものだったし、ヴァルが作った料理の味がした。
エマは、陽の当たる場所で、椅子の上で膝を抱えて座っていた。
落ち着いてくると、見えてくるものもある。
ヴァルは……、私と同じ歳だ。
ジークのことでショックを受けて、死んで生まれ変わった私と。
ヴァルがジークなのだとしたら、……やっぱりあの時、ジークは死んでしまったんだ。
「…………」
エマの瞳に、また涙が浮かぶ。
「こんなことで、実感するなんて、思わなかったな」
転生後の世界に推しがいたことを、喜んでいいのか。
やっぱりジークは、あの時死んでしまったんだという事実に、悲しんでいいのか。
本人に向かって「大好き」だなんてことをあんなに必死で言ってしまったことを、恥ずかしがっていいのか。
知らないうちにストーカーまがいになってしまっていて、後悔したらいいのか。
この事実を、どう受け止めていいのか、本当に、わからなかった。
何日そうしていただろう。
引きこもってから1週間ほど経ったある日。
その日のメイドは、少し慌てた様子だった。
「エマ様、お手紙が届いております」
「手紙……?」
「お前の大切なものは預かった。返して欲しくば、正門前の馬車に乗れ」
◇◇◇◇◇
やっとエマちゃんがヴァルの存在に気付きました!
『転生少女は過去の英雄に恋をする』
その恋が、ハッピーエンドに辿り着くのは……まだもうちょっと先になりそうです。
扉は開いていて、暗い部屋の中に、2人の人間がいることがわかった。
扉を開けたのは、ヴァルだった。
そのすぐ後ろに、エーデルが立っていた。
「エマ……!」
エマは、もう半分泣き顔になっていた。
ヴァルがエマを助け起こそうと踏み出す。
そのヴァルから逃げるように、エマは転がるように走り出し、階段を降りて行った。
「エマ……」
怒った顔のままで、ヴァルがエマを追いかけようとして、思い直して立ち止まる。
エーデルは、「ごめん……、兄さん……」と小さく呟いた。
ヴァルが、エーデルを一瞥する。
「俺はもう……死んだ人間だよ」
エマは、部屋に戻り、ベッドへ潜った。
今のって…………どういうこと?
どういう意味?
混乱する。
混乱する。
エマは、布団の中に潜り込み、ぼろぼろと涙をこぼした。
もしかしたら、何かの勘違いかもしれない。もしかしたら、あの部屋にはもう一人居たとか。もしかしたら、2人で何か冗談を言っていたとか。
もしかしたら。
そんな“もしかしたら“を考えることが、どれだけ意味のないことか、もうエマには解っていた。
気付いてしまえば、もうエマには理解することしかできない。
エーデルに感じていた違和感を、ヴァルには感じたことがなかった。そんなの当たり前だ。本人だったからだ。
目が同じ色だ。
依り代も同じ物。
名前だってそのままだ。ジークヴァルトの“ヴァル”だったんだ。
顔が似てるんじゃない。そのままジークの顔だ。
好みの顔だなんて思っていた。そうじゃない。あの顔は……、私が世界で一番好きな顔だ。
「うわああああああああああああん」
なんで今まで気が付かなかったの!!!!???
こんなにそばに居たのに…………!!!!!!
そりゃあ目の前に居たら、どうしたって惹かれるに決まってる。
纏う空気も、そのまんま。
こういうのって、転生する時に、女神様だか誰だかが教えてくれるものなんじゃないの!?
「この世界には推しが居ますよ」くらい言っておいてくれたら、こんなことにならなかったのに……。
「ああああああああああん」
だって私…………。
私…………。
本人に向かって“大好き”って何回言った!!??
告白とか、そんなレベルじゃない。
恥ずかし過ぎるでしょ……。
「もうやだああああああああああああああ」
ずっと好きだって言い続けて。まるでストーカー。
こんな風に好かれてるのって、本人には気持ち悪いことかもしれないし。
迷惑だったかもしれないし。
よりにもよって、ジークにそんなことしちゃうなんて。
泣いても泣いても泣き足りなくて。気がつけば太陽は高いところまで登っていた。
途中、メイドが様子を見にきてくれたけれど、布団に潜ったまま、泣きはらした目を覗かせたら、もう何も言われなくなってしまった。
それから、数日間部屋から出ないままでいた。
時々、メイドが軽食を持ってきてくれた。
3日目に軽食と一緒に置いてあったフルーツゼリーは、エマのレシピと同じものだったし、ヴァルが作った料理の味がした。
エマは、陽の当たる場所で、椅子の上で膝を抱えて座っていた。
落ち着いてくると、見えてくるものもある。
ヴァルは……、私と同じ歳だ。
ジークのことでショックを受けて、死んで生まれ変わった私と。
ヴァルがジークなのだとしたら、……やっぱりあの時、ジークは死んでしまったんだ。
「…………」
エマの瞳に、また涙が浮かぶ。
「こんなことで、実感するなんて、思わなかったな」
転生後の世界に推しがいたことを、喜んでいいのか。
やっぱりジークは、あの時死んでしまったんだという事実に、悲しんでいいのか。
本人に向かって「大好き」だなんてことをあんなに必死で言ってしまったことを、恥ずかしがっていいのか。
知らないうちにストーカーまがいになってしまっていて、後悔したらいいのか。
この事実を、どう受け止めていいのか、本当に、わからなかった。
何日そうしていただろう。
引きこもってから1週間ほど経ったある日。
その日のメイドは、少し慌てた様子だった。
「エマ様、お手紙が届いております」
「手紙……?」
「お前の大切なものは預かった。返して欲しくば、正門前の馬車に乗れ」
◇◇◇◇◇
やっとエマちゃんがヴァルの存在に気付きました!
『転生少女は過去の英雄に恋をする』
その恋が、ハッピーエンドに辿り着くのは……まだもうちょっと先になりそうです。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。
櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。
兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。
ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。
私も脳筋ってこと!?
それはイヤ!!
前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。
ゆるく軽いラブコメ目指しています。
最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。
小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる