転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

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114 転生させた誰かが教えてくれなかったこと(1)

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 外を歩いていると、目の前には、東棟が見えた。
 東棟は、ジークが使っていた棟だ。
 ベッドのある私室、執務室、魔術書を集めた小さな図書室、そして小さな応接室。
 今は、どうなっているんだろう。誰か使っているんだろうか。
 使っているにしては、真っ暗で静かなようなので、そちらの方へ行ってみることにした。

 別に、ジークの部屋に行きたいと思ったわけじゃなかった。
 ただ、眠れない夜に、気晴らしになればいいと思っただけだ。
 だから、知っている場所を歩いて、心臓が落ち着けばいいと思った。ただそれだけだった。

 とはいえ、まさか『メモアーレン』の聖地巡礼できる日が来るなんて、ね。

 ジークが歩いた庭。ジークが歩いた廊下。
 歩きながら、『メモアーレン』を思い出す。
 東棟の裏手には、紫色のバラが咲く。
 ここは、ジークの内緒の隠れ場所。

 東棟は、静かだった。
 どこの部屋も廊下も、明かり一つついてはいない。

 今は、使われていないのかもしれない。
 そっと、入ってみる。
 部屋の中まで入るわけじゃないし。
 ちょっと廊下を歩くだけ。

 知っている場所。
 エマは知っている。
 ジークの部屋がどこにあるのかを。ジークの部屋にはどう歩けばいいのかを。

 不思議な感じがした。
 初めて見る場所なのに、エマはここを知っていた。

 ゆるゆると、薄い生地のルームウェアの裾が揺れる。

 1階の廊下。
 そこには、ゲームの背景そのままの場所があった。
 よく響きそうな床をそっと歩く。
 所々にある金色のランプ。窓から見えるバラの庭園。
 ゲームの背景があまりに詳細だったからか、屋敷もイメージ通りのものだ。
 応接室の扉。図書室の扉。
 階段を上がれば、ジークの私室があるはずだ。
 一番、奥の部屋。
 大きな両開きの扉の前に立つ。
 綺麗な金の装飾が施された扉。
 扉に触ろうとした、その時だった。

 部屋の中から、誰かの声が聞こえた。

 わっ……、この部屋、誰か使ってるんだ。

 よく聞こえないけれど、2人で会話している声だった。
 こんな所で、立ち聞きするわけにはいかない。
 そっと立ち去ろうとした。
「そんなこと、理由として認められないよ……!」
 大きな声が聞こえた。
 エーデルの声だ。
 もしかしたらここは、エーデルが使っているのかもしれない。
 エーデルの声は、興奮を隠せない様子で、どんどん大きくなっていった。
 いけない、声が扉に近付いてくる。

「兄さん……!」

 え…………?

 兄さん?
 誰のこと?
 だってこの声はエーデルのもので。エーデルに兄さんは一人しかいなくて。
 それは、もういないジークのことだ。

 足が竦む。
 ここから退かないと。

「この家だって、王の隣に立つのだって、相応しいのは兄さんだよ!」

 バタン!

 エマの目の前で、扉が開いた。



◇◇◇◇◇



さて、ここから物語は後半戦へ。
新展開です!
変わらず、ほのぼのイチャイチャラブコメです。
ここからもまだ先は長いですが、楽しんでくださいね!
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