上 下
110 / 141

110 夜会にて(2)

しおりを挟む
 廊下を歩く。
 かなり歩いてから、パーティー会場がこちらではないと気付いた。

 ……まさか、自宅で迷子?

 不思議に思いながらも、ゆるゆると付いていくと、着いたのは屋敷の裏庭だった。
 騒ついている屋敷の正面とは丁度反対側で、人の気配はなく、静かだった。
 夕陽が輝いて、眩しいくらいの光の中で、たくさんの薔薇が夏の気配の中で咲き乱れている。

「綺麗……」

 庭はとても綺麗で、ヴァルの姿ともよく合っていた。

 それからしばらく、ヴァルはエマを引き連れて庭を散歩した。
 いろんな話をした。お互いの話を。
「夏は暑いけど、風が気持ちいいよね」だとか、「この間見つけた散歩コースが気に入ったから時々行くようにしてる」だとか、「ここのご飯は美味しいけど、早くヴァルのトンカツが食べたいなぁ」だとか。
 それは雑談ばかりだったけれど、二人は申し合わせたように、二人以外の誰の話もしないで、ただ二人の話だけをした。

「ここは遠くまで草原が広がってるだろ。草原の真ん中に立つと、世界で一人きりになった気がするんだ」
 見上げた横顔は、遠く遠くを見ていた。

 ここにいたんだ。ヴァルは。
 自分のことを話すヴァルは、なんだか珍しかった。

 空は、段々と夕暮れも過ぎて、夜の顔になっていった。
 ヴァルが、エマの正面に立つ。
「そろそろ行くか」
「……うん」
 そして、二人で、屋敷の外を遠回りしながら、ゆっくりと大広間へ向かった。

 伯爵邸の大広間は、とても煌びやかだ。
 屋敷中に高級なアンティークが置いてあるだけはある。
 どこもかしこも金色に輝く。
 金でできた大きなシャンデリアは、エマが初めて見るほどのものだった。
 参加者も本当に多くて、こんなに煌びやかな人達が集まるのを見るのは、初めてじゃないだろうか。
 流石シュバルツ家と言わざるを得ない。
 シュバルツ家は代々、王に仕える名家だ。役職はそれぞれだけれど、王太子の頃から相談役や側近として側にいるのが習わしで、ジークも生まれた頃から王太子の隣にいた。
 シュバルツ家は炎の祝福を受けることが多く、その強力な魔術で魔術師として仕えることも多い。

 ヴァルと共に、伯爵と伯爵夫人の前に立つ。
 改めて、挨拶を交わした。
 ヴァルの親であり、ジークの親……。
 本当に……産んでくれてありがとうございます…………!

 念入りにお辞儀をして、顔を上げると、伯爵がニッと笑う。
 伯爵の外見はエーデルに似ているけれど、雰囲気はヴァルに似ている。きっと、ジークにも。
「エマさんにはお世話になったね」
「ええ、本当に」
 逆に、夫人はエーデルと雰囲気がそっくりだ。
「学友として、当たり前のことをしたまでです」
 にっこり笑うと、伯爵と夫人もにっこりと笑った。
「学友……」
「学友……」
 二人して、ゆったりとヴァルとエマを交互に見た。
 ヴァルが、不貞腐れた顔をする。
 そんな意味深な顔をされても何も出てきませんよ!!



◇◇◇◇◇



ヴァルは、庭を見せたかったわけではないです。エマのドレス姿を見て、もう少し外に居ようと思ったのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

お嬢様は、今日も戦ってます~武闘派ですから狙った獲物は逃がしません~

高瀬 八鳳
恋愛
強い女性が書いてみたくて、初めて連載?的なものに挑戦しています。 お読み頂けると大変嬉しく存じます。宜しくお願いいたします。 他サイトにも重複投稿しております。 この作品にはもしかしたら一部、15歳未満の方に不適切な描写が含まれる、かもしれません。ご注意下さいませ。表紙画のみAIで生成したものを使っています。 【あらすじ】 武闘系アラフォーが、気づくと中世ヨーロッパのような時代の公爵令嬢になっていた。 どうやら、異世界転生というやつらしい。 わがままな悪役令嬢予備軍といわれていても、10歳ならまだまだ未来はこれからだ!!と勉強と武道修行に励んだ令嬢は、過去に例をみない心身共に逞しい頼れる女性へと成長する。 王国、公国内の様々な事件・トラブル解決に尽力していくうちに、いつも傍で助けてくれる従者へ恋心が芽生え……。「憧れのラブラブ生活を体験したい! 絶対ハッピーエンドに持ちこんでみせますわ!」 すいません、恋愛事は後半になりそうです。ビジネスウンチクをちょいちょいはさんでます。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

処理中です...