転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

文字の大きさ
上 下
104 / 239

104 狙われた命(1)

しおりを挟む
 ゲストルームは、全て屋敷の表側を向いている。
 階段を上がって少し歩いたところで、シエロが部屋に案内されていく。その隣がエマの部屋になった。
 ヴァルがメイドに連れられ、部屋へ案内されて行くのを見送った。

 ゲストルームに入り、一人になる。
 窓の外を覗くと、ちょうど正面玄関が見える。
 その玄関を見た途端、「あ、ここ知ってる」と思った。

 あれは『メモアーレン』の王子様ルート第3章。
 ……そもそも、第3章はこのシュバルツが舞台なのだ。
 王太子がこの屋敷に泊まり、ジークと心を通わせ、お忍びで町へ繰り出し……といった内容だ。
 あの第3章。繰り返しやった第3章の背景で見た屋敷そのものだ。

 くるり、と部屋を見渡すと、調度品も見たことのあるものが多い。
 ……というか、この調度品。昔、ヴァルの部屋で見たものとも似ている。
 なんだか高級そうなアンティークは、この家から送られたものだったんだ。

 気付いてしまえば、ここがどこなのかもわかった。
 妙に丁寧な背景が豊富に設定されているゲームだったので、背景とキャラのセリフを元に、間取りを描いてみたことがあったのだ。
 なので、この伯爵邸なら、どこに何があるのかほぼ知っている。どこが人の少ない場所なのかも。ジークの部屋がどこにあるのかも。
 あまりの心細さに二人を探そうと、部屋から出てみる。
 とはいえ、扉をノックするのは、ちょっと勇気がいるなぁ……。
 と、廊下の絵画を眺めていると、ガラガラと、音が聞こえた。

 ふい、っと見ると、メイドらしき人が、カートを押すのが見えた。
「…………」
 カートに載せられた1杯のコーヒーが湯気を上げている。
「……大丈夫ですか?」
 声を、かけた。
 少し薄暗い廊下でもわかるくらい、そのメイドが青ざめているのがわかった。
「ええ。……奥様にコーヒーをお届けしたら、休ませていただきます」
 顔を上げたメイドとは、目が合わなかった。
 ガラガラと、また、カートが押されていく。

 …………え?

 メイドの背中を見ながら、背筋が凍るのを感じた。
 私は、知っている。
 この先には、ヴァルがいるはずのゲストルームしかない。
 その先は1階へ繋がる階段があって、温室へ繋がっている。

 たった1人分のコーヒー。

 その時、後ろで扉が開く音がした。
 振り向くと、シエロが廊下へ出てきた音だった。
「せんせ……っ!」
 察しのいいシエロが、真面目な顔になる。
「どうした?」
「今……っ、あのメイドさんがコーヒーを運んでたんですけど……っ」
 掴まるようにシエロのそばに駆け寄る。
 シエロが、駆け出す。
「そこのメイドさん」
 捕まえるように、自分よりも大きな杖を出し、足止めをする。
 メイドは、いよいよ真っ青な顔をしていた。
「シエロ様…………!ち、違うんです……っ。何かの間違いです……!違うんです……!」
「じゃあそれは何」
 コーヒーを取り上げようとすると、メイドが慌てて手を出した。
「いけません……!!」
 寸前で手を止める。
「何が」
「触っては……!熱い……。そう、熱い、ので……」
 いいながら、メイドはくずおれ、泣き出した。

 エマが立ち竦む。
 何……これ……?



◇◇◇◇◇



ちっちゃいグループの身長はそれぞれ、メンテが153cm、リナリが149cm、チュチュが148cmくらいです。そして、12歳時のシエロくんが143cmくらい。
みんな成長中です。とはいえ、チュチュはひとつ下の双子にすでに身長抜かされてるくらいにはちっちゃいです。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...