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102 とてもよく似た人(1)
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とうとう、伯爵邸へ行く日になった。
といっても、森自体が領地内にあり近いので、馬車で行っても何時間とかからない。
今回は、箱型の馬車で行くことになった。
3人とも、パーティードレスではなく、貴族らしい日常的な正装だ。
パーティーを2日後に控え、伯爵邸で宿泊する予定になっていた。パーティーが終わってからも、状況によっては数日泊まることになる、とシエロは言う。
エマは、緊張していた。
学園と近いことは知っていたけれど、まさか本当にジークが生まれ育った家に行けるなんて。
そして、そこは、ヴァルの家でもある。……ヴァルを危険な目に合わせる人間も、いるかもしれない。
「エマ」
隣から声をかけられたので、そちらを向く。
あ…………。
ヴァルと目が合って、更に緊張する。
ラフな貴族ファッションは目に毒だ。
どことなくクシャっとした髪。
からかうような夕空色の瞳。
「なんか、緊張してるな」
なんて言いながら、いつもの顔でフフンと笑うヴァルが、そこにいた。
…………なんだろうこれ、イベントスチルかな……。
「大丈夫。久しぶりの令嬢ファッションでちょっと緊張しちゃって」
笑おうとして、なんだか強張った笑顔になる。
そんなエマを見て、正面に座っていたシエロが柔らかく微笑んだ。
窓の外は遠くまで見渡せる広い草原が続く。
次第に、遠くポツンと建つ大きなお屋敷が見えてきた。
エマの実家である子爵邸も大きいと思っていたけれど、おそらくもう一回り大きい。
黒い屋根に白い壁の、シックな建物だった。
近付くと、沢山のバラで囲まれているのがわかった。
「きれい……」
小さく呟く。
うちのほぼ商人のような家とは、雰囲気が違う。
使用人の数も数倍は違うのだろう。
大きな玄関扉の前で、馬車が止まる。
相変わらず、手を差し出してくれたのはヴァルだった。
ヴァルにエスコートされたまま、出迎えてくれた一人の青年と向かい合う。
ビクン……ッとエマに震えが走った。
黒髪が揺れる。
鋭い目つき。
スッとした背中。
あまりにも似過ぎていて、目が離せなくなる。
深い青の瞳。
瞳の色は違う。
わかっている。
あれは、ジークじゃない。
けど。
……けど。
こんなにも心が騒つく。
ジークは、どんな人だっただろう。
どんな顔だっただろう。
考えてしまう。
目の前に立った青年を、エマは、ただじっと見た。
「初めまして。僕は、エーデルシルト・シュバルツと言います。よろしく」
声を聞いて、ヴァルと繋いでる手に力を入れる。ヴァルが、きゅっと手を握り返してきた。
心臓が、潰れそうだ。
エーデルはジークの弟だから、もしかしたら似ているかもしれないとは思った。
けど、ここまでだなんて。
「初めまして。エマ・クレストと申します」
「久しぶり、ヴァル。シエロさんも」
エーデルが微笑むと、ジークもこんな顔だっただろうかと、考えてしまう。
強張った心のまま、エマもなんとか微笑み返す。
ジークのことを考えてしまう。
ジークのことを考えて、胸が苦しくなってしまう。
そして、エマの隣にいるヴァルも、そんなエマの気持ちを思い、ただ、隣に立っていることしかできなかった。
◇◇◇◇◇
99話から続くパーティー話。二人のメインストーリーです。
ちょっと長いですが、お楽しみください!
といっても、森自体が領地内にあり近いので、馬車で行っても何時間とかからない。
今回は、箱型の馬車で行くことになった。
3人とも、パーティードレスではなく、貴族らしい日常的な正装だ。
パーティーを2日後に控え、伯爵邸で宿泊する予定になっていた。パーティーが終わってからも、状況によっては数日泊まることになる、とシエロは言う。
エマは、緊張していた。
学園と近いことは知っていたけれど、まさか本当にジークが生まれ育った家に行けるなんて。
そして、そこは、ヴァルの家でもある。……ヴァルを危険な目に合わせる人間も、いるかもしれない。
「エマ」
隣から声をかけられたので、そちらを向く。
あ…………。
ヴァルと目が合って、更に緊張する。
ラフな貴族ファッションは目に毒だ。
どことなくクシャっとした髪。
からかうような夕空色の瞳。
「なんか、緊張してるな」
なんて言いながら、いつもの顔でフフンと笑うヴァルが、そこにいた。
…………なんだろうこれ、イベントスチルかな……。
「大丈夫。久しぶりの令嬢ファッションでちょっと緊張しちゃって」
笑おうとして、なんだか強張った笑顔になる。
そんなエマを見て、正面に座っていたシエロが柔らかく微笑んだ。
窓の外は遠くまで見渡せる広い草原が続く。
次第に、遠くポツンと建つ大きなお屋敷が見えてきた。
エマの実家である子爵邸も大きいと思っていたけれど、おそらくもう一回り大きい。
黒い屋根に白い壁の、シックな建物だった。
近付くと、沢山のバラで囲まれているのがわかった。
「きれい……」
小さく呟く。
うちのほぼ商人のような家とは、雰囲気が違う。
使用人の数も数倍は違うのだろう。
大きな玄関扉の前で、馬車が止まる。
相変わらず、手を差し出してくれたのはヴァルだった。
ヴァルにエスコートされたまま、出迎えてくれた一人の青年と向かい合う。
ビクン……ッとエマに震えが走った。
黒髪が揺れる。
鋭い目つき。
スッとした背中。
あまりにも似過ぎていて、目が離せなくなる。
深い青の瞳。
瞳の色は違う。
わかっている。
あれは、ジークじゃない。
けど。
……けど。
こんなにも心が騒つく。
ジークは、どんな人だっただろう。
どんな顔だっただろう。
考えてしまう。
目の前に立った青年を、エマは、ただじっと見た。
「初めまして。僕は、エーデルシルト・シュバルツと言います。よろしく」
声を聞いて、ヴァルと繋いでる手に力を入れる。ヴァルが、きゅっと手を握り返してきた。
心臓が、潰れそうだ。
エーデルはジークの弟だから、もしかしたら似ているかもしれないとは思った。
けど、ここまでだなんて。
「初めまして。エマ・クレストと申します」
「久しぶり、ヴァル。シエロさんも」
エーデルが微笑むと、ジークもこんな顔だっただろうかと、考えてしまう。
強張った心のまま、エマもなんとか微笑み返す。
ジークのことを考えてしまう。
ジークのことを考えて、胸が苦しくなってしまう。
そして、エマの隣にいるヴァルも、そんなエマの気持ちを思い、ただ、隣に立っていることしかできなかった。
◇◇◇◇◇
99話から続くパーティー話。二人のメインストーリーです。
ちょっと長いですが、お楽しみください!
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