転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

文字の大きさ
上 下
100 / 239

100 内緒話

しおりを挟む
 夜。
 エマは部屋着のまま、寝ることもせず、ベッドに座っていた。

 窓の外を見る。もう遅い時間だけれど。
 ……いつでもいいっていうことは、今でもいいんだよね。

 そっと、音も立てずに部屋から出ると、出来るだけ足音を立てないようにして、裸足のままシエロの部屋の前へ行く。
 扉をノックしようか迷っていると、スッと扉が開いた。

 中では、シエロが、待っていた。

「…………」

 いつものマントを外しただけの格好だったけれど、どこかしら力が抜けていて、正直色っぽい。
 ……なんて攻撃力…………!!!!

 扉がぴったり閉まっているのを確認すると、シエロはベッドに腰掛けた。
 ポンポン、と隣を示す。
 部屋には2人座れるほどの椅子はない。
 エマは、ちょこん、とベッドに腰掛けた。

「……それで、お話って……」
 言いかけると、シエロの指がエマの唇を塞いだ。
 シエロはそのまま指を自分の口元に持っていく。
 どうやら、ヴァルには聞かせられない話のようだった。

「……大丈夫だとは思うけど、伯爵邸で気をつけてほしいことがあるんだ」
 声を落として、静かにシエロは言った。
「この話をエマにしたのがバレると、ヴァルに怒られちゃうかもしれないから、静かにね」
 そう言って、シエロは一拍、息をついた。
「ヴァルは、殺されかけたことがあるんだ」

「…………え?」

 エマは、シエロの顔をまじまじと眺める。
「それって、どういう……」
 シエロのように静かに聞くと、心配そうにシエロの顔を覗き込む。
「ヴァルが4歳の時だ。犯人はわかってるんだ。伯父のクリーク」
 シエロの視線が、どこか遠くを見つめた。悲しい色をしていた。
「……ジークが死んで、家を継ぐのが弟のエーデルシルトだけになった時、その伯父がエーデルに貢ぎ始めたんだ。借金までして。嫁候補だのなんだのまで連れてきて」
 エマは、シエロの話を、静かに聞いていた。
「けど、ヴァルが生まれて4歳になった時、エーデルはヴァルに家を継いでほしいと言い出したんだ」
「…………え?」
「その頃のヴァルは、人前にも出ず、表に出てこれない暴れん坊だなんて言われてて。伯父は慌てたんだよ。そんな人間より御しやすそうなエーデルが家を継いでくれないと困る、ってね」
「そんなことで……」
 エマの顔が、どんどん曇っていく。
「シュバルツ家の使用人を脅して、寝首をかこうとしたのさ」
 シエロが、呆れたような顔をした。
「最終的に寝ている間に毒を飲まされて、死にかけたんだ」
「え……」
 ヴァルが……、死にかけた?

「……犯人は明らかなのに、証拠がないんだ。捕まってもいない。伯父は今でも元気に伯爵邸を闊歩している」
「そんな……」
「そこで、大魔術師と僕は4歳のヴァルを連れて、この森に引き篭もったんだ。この学園はね、ヴァルを守るために作ったシェルターなんだよ」
「学園長が……?」
 わざわざ……?

 シエロの顔をじっと見たけれど、何も掴めるものはない。

「もう、今のヴァルなら誰かに襲われても困らないけどね」
 と、ちょっとだけ笑う。

「そして、君達を集めたんだ」
「私達……?」
「そう。信頼のおける騎士団長の娘。木の精霊の子供と、それを守るトーラリス族の族長の子供達」

 じゃあみんな……、志望して来たわけじゃないってこと……?

 そして、シエロはエマの方を向いた。
「そして、君」
「私……?」
 きょとん、とする。
「大魔術師と同盟を結んだ、君だ」

 …………?



◇◇◇◇◇




なんと100話です!ここまでお読みいただきありがとうございます!!
まだまだ続くよ~!
恋愛をどーんと進める展開で突き進みます!これからもどうぞよろしく!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】女嫌いの公爵様は、お飾りの妻を最初から溺愛している

miniko
恋愛
「君を愛する事は無い」 女嫌いの公爵様は、お見合いの席で、私にそう言った。 普通ならばドン引きする場面だが、絶対に叶う事の無い初恋に囚われたままの私にとって、それは逆に好都合だったのだ。 ・・・・・・その時点では。 だけど、彼は何故か意外なほどに優しくて・・・・・・。 好きだからこそ、すれ違ってしまう。 恋愛偏差値低めな二人のじれじれラブコメディ。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...