84 / 177
84 気球の旅
しおりを挟む
馬車は、山を下り、とにかく広い草原に着いた。
見渡せど見渡せどただただ広い。
目の前には、2機の大きな気球が、気球の操縦士と一緒に待ち構えていた。
気球はそれぞれ、大人4人までだ。
気球の停留所に馬車を預け、それぞれが荷物を持って気球の前に並ぶ。
全員が学園のマントを身につけていた。普段はみんなあまりマントを使っていないので、全員がマントを羽織っているのは初めてだ。
「じゃあ、チーム分けしようか」
シエロの笑顔がみんなの方を向いた。
「メンテとリナリは、道も知っているだろうから、それぞれに乗ってもらおう。僕はリナリの補助をするから、ヴァルはメンテの補助を」
そして、シエロは悩むポーズをする。仄かな憂いの空気が似合う人だ。
「じゃあ、チュチュはヴァルと、エマは僕と行ってもらおうかな」
「えーと……それはなんで?」
ちょっと不機嫌そうな口調で口を挟んだのはヴァルだった。
「リナリと組ませるなら、チュチュよりもエマの方が最適だからね」
シエロはにっこりと笑顔を作る。
これは魔術的な相性の話だ。
確かに一理あるの話なので、ヴァルはそれ以上は何も言わなかった。
リナリとエマとシエロが、3人連れ立って片方の気球に近付いて行く。
メンテとチュチュがひょいひょいと気球のバスケットに飛び乗ってから、ヴァルがバスケットの縁に手をかけ、飛び乗る。
ヴァルがシエロの方を見ると、バスケットをよじ登ろうとするリナリに、シエロが手を貸すところだった。
よりにもよって、リナリの腰を掴み、持ち上げて、バスケットの中に降ろす。まるで、小さい子供を持ち上げるみたいに。
リナリがびっくりした表情でバスケットの中に収まった。
まさか……。
シエロはそのままその手をエマの腰の方へ持っていく。
おおおおおおい。
エマは笑って、一人でバスケットに乗り込んだけれど。
「あいつ…………」
呟くと、後ろでメンテの苦笑が聞こえた。
「魔術師の師弟関係に勝てる関係なんてないでしょ」
「…………」
そう。魔術師になったからには、師を一番に信頼するものだ。
師匠本人と、学友の一人では、どちらを重んじるかなんて誰もが知っている。
ヴァルは、重いため息を吐いた。
操縦士が高らかに声を上げる。
「ジェントル・ウィンド」
帽子に付いているバッジの前で魔法陣が光り、弾けるように消える。
すると、ふわりと風が巻き起こり、気球が空へと浮き上がった。
気球の操縦士は全て風の魔術師なのだ。
風の操縦士が起こした風で進む気球は、操縦士の思いのままの方向へと飛んでいく。
そんなわけで、風の魔術師達が立ち上げた気球運輸事業は、軌道に乗っていると言って間違いなかった。
「ヴァーーーールーーーーー!」
離れた場所に浮かぶ気球からエマが両手で手を振っている。
ヴァルもエマに手を振り返した。
青い空の中、思った以上の速さで、気球は進んでいく。
◇◇◇◇◇
チュチュは接近戦専門なので、遠距離攻撃ができるエマの方がリナリとは相性がいいのです。
見渡せど見渡せどただただ広い。
目の前には、2機の大きな気球が、気球の操縦士と一緒に待ち構えていた。
気球はそれぞれ、大人4人までだ。
気球の停留所に馬車を預け、それぞれが荷物を持って気球の前に並ぶ。
全員が学園のマントを身につけていた。普段はみんなあまりマントを使っていないので、全員がマントを羽織っているのは初めてだ。
「じゃあ、チーム分けしようか」
シエロの笑顔がみんなの方を向いた。
「メンテとリナリは、道も知っているだろうから、それぞれに乗ってもらおう。僕はリナリの補助をするから、ヴァルはメンテの補助を」
そして、シエロは悩むポーズをする。仄かな憂いの空気が似合う人だ。
「じゃあ、チュチュはヴァルと、エマは僕と行ってもらおうかな」
「えーと……それはなんで?」
ちょっと不機嫌そうな口調で口を挟んだのはヴァルだった。
「リナリと組ませるなら、チュチュよりもエマの方が最適だからね」
シエロはにっこりと笑顔を作る。
これは魔術的な相性の話だ。
確かに一理あるの話なので、ヴァルはそれ以上は何も言わなかった。
リナリとエマとシエロが、3人連れ立って片方の気球に近付いて行く。
メンテとチュチュがひょいひょいと気球のバスケットに飛び乗ってから、ヴァルがバスケットの縁に手をかけ、飛び乗る。
ヴァルがシエロの方を見ると、バスケットをよじ登ろうとするリナリに、シエロが手を貸すところだった。
よりにもよって、リナリの腰を掴み、持ち上げて、バスケットの中に降ろす。まるで、小さい子供を持ち上げるみたいに。
リナリがびっくりした表情でバスケットの中に収まった。
まさか……。
シエロはそのままその手をエマの腰の方へ持っていく。
おおおおおおい。
エマは笑って、一人でバスケットに乗り込んだけれど。
「あいつ…………」
呟くと、後ろでメンテの苦笑が聞こえた。
「魔術師の師弟関係に勝てる関係なんてないでしょ」
「…………」
そう。魔術師になったからには、師を一番に信頼するものだ。
師匠本人と、学友の一人では、どちらを重んじるかなんて誰もが知っている。
ヴァルは、重いため息を吐いた。
操縦士が高らかに声を上げる。
「ジェントル・ウィンド」
帽子に付いているバッジの前で魔法陣が光り、弾けるように消える。
すると、ふわりと風が巻き起こり、気球が空へと浮き上がった。
気球の操縦士は全て風の魔術師なのだ。
風の操縦士が起こした風で進む気球は、操縦士の思いのままの方向へと飛んでいく。
そんなわけで、風の魔術師達が立ち上げた気球運輸事業は、軌道に乗っていると言って間違いなかった。
「ヴァーーーールーーーーー!」
離れた場所に浮かぶ気球からエマが両手で手を振っている。
ヴァルもエマに手を振り返した。
青い空の中、思った以上の速さで、気球は進んでいく。
◇◇◇◇◇
チュチュは接近戦専門なので、遠距離攻撃ができるエマの方がリナリとは相性がいいのです。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました
魚谷
恋愛
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
8歳の頃に、15歳の夫、伯爵のギュスターブの元に嫁いだ、侯爵家出身のフリーデ。
その結婚生活は悲惨なもの。一度も寝室を同じくしたことがなく、戦争狂と言われる夫は夫婦生活を持とうとせず、戦場を渡り歩いてばかり。
堪忍袋の緒が切れたフリーデはついに離婚を切り出すも、夫は金髪碧眼の美しい少年、ユーリを紹介する。
理解が追いつかず、卒倒するフリーデ。
その瞬間、自分が生きるこの世界が、前世大好きだった『凍月の刃』という物語の世界だということを思い出す。
紹介された少年は隠し子ではなく、物語の主人公。
夫のことはどうでもいいが、ユーリが歩むことになる茨の道を考えれば、見捨てることなんてできない。
フリーデはユーリが成人するまでは彼を育てるために婚姻を継続するが、成人したあかつきには離婚を認めるよう迫り、認めさせることに成功する。
ユーリの悲劇的な未来を、原作知識回避しつつ、離婚後の明るい未来のため、フリーデは邁進する。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる