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78 馬車に揺られて
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馬車は大きいとはいえ、後ろで5人もの人間が寛ぐには少し狭い。
そんなわけで、御者台には2人座ることにしていた。
次に手綱を握るのはエマの番だった。
隣にシエロが座ろうとして寄ってきたところで、御者台に手がつかれる。
「シエロ、お前は後ろで休んでれば?」
と、若干見上げる形で言ったのは、ヴァルだった。
シエロがにっこりと笑顔を返す。
「ありがとう、でもまだ大丈夫だよ。次に代わってもらおうかな」
「…………へー……」
と、ヴァルが大人しく後ろへ下がっていく。
晴れた空の下を行く。
シエロとは、
「エマ、相手が人間の時、僕と君で戦うときはどう戦う?」
なんていう話題だった。
やっぱりそういう話!
「……殺さないんですよね?」
「そうだね」
「そうだなぁ……。先生の氷の檻で閉じ込めてから私がとどめ?」
「死んじゃいそうだね」
シエロが笑いながらエマの方を向いた。
「私がパシって転ばせるので、先生が氷漬けに!」
「死んじゃいそうだね」
なんて言いつつ、シエロも楽しそうに笑っている。
「じゃあこういうのはどうですか?」
笑いながらいろいろな作戦を練っていく。
後ろでは、意味ありげに笑うメンテが、御者台に視線をやりながら、
「楽しそうだね」
とヴァルに向かって呟く。
「…………そだな」
と呟いたヴァルが、黙って外を眺めた。
街道沿いに大きな食堂を見つけたので、そこで6人で昼食を食べた。
この6人で外食というのは初めてのこと。
それぞれが違うものを食べ、騒がしくしながら、なんとか昼食を食べ終えたのだ。
「次、ぼくの番だね」
と、メンテが御者台に座る。
「次、代わってくれるんだよね」
と、シエロがにこやかにヴァルを捕まえた。
「…………そうだったかな」
ヴァルが苦笑いをした。
仕方なく、ドサッとメンテの隣に座った。
「ふふ、優しいね」
手をヒラヒラとさせて、シエロが馬車へ乗り込んだ。
午後の静かな時間。
外から草の匂いが流れ込む。
御者台をじっと見ていたエマに、チュチュが話しかけた。
「何見てるのかな」
「え?」
くるりと振り向いたエマの目に、チュチュの笑うようなからかうような目が映る。
その瞳に、「へへっ」と笑って見せた。
正直な話、確かにヴァルを見ていた。この距離が居心地いいのだ。
近すぎるとあまりじっと見られないし。
この距離になって初めて気付く。
私の中での、その存在の強さ。
風になびく黒い髪も。
すっとした輪郭も。
つんとした鼻も。
あの、肩も手も全部。
……やっぱりかっこいいよなぁ。
クッションを抱え、頬杖をついて、こっそりと眺める。
気付かれないように。
チュチュとシエロが、何かコソコソと話す声が聞こえる。ゆったりとしたBGMみたいに。
持っていた模様付きの赤いクッションに顔をうずめた。
ヴァルのことをつい考えてしまって。なんだか変な顔をしていそうで、心配になった。
◇◇◇◇◇
特に申し合わせているわけではありませんが、チーム分けする時、戦力や保護者的な観点から、シエロとヴァルは違うチームに入ることにしています。
そんなわけで、御者台には2人座ることにしていた。
次に手綱を握るのはエマの番だった。
隣にシエロが座ろうとして寄ってきたところで、御者台に手がつかれる。
「シエロ、お前は後ろで休んでれば?」
と、若干見上げる形で言ったのは、ヴァルだった。
シエロがにっこりと笑顔を返す。
「ありがとう、でもまだ大丈夫だよ。次に代わってもらおうかな」
「…………へー……」
と、ヴァルが大人しく後ろへ下がっていく。
晴れた空の下を行く。
シエロとは、
「エマ、相手が人間の時、僕と君で戦うときはどう戦う?」
なんていう話題だった。
やっぱりそういう話!
「……殺さないんですよね?」
「そうだね」
「そうだなぁ……。先生の氷の檻で閉じ込めてから私がとどめ?」
「死んじゃいそうだね」
シエロが笑いながらエマの方を向いた。
「私がパシって転ばせるので、先生が氷漬けに!」
「死んじゃいそうだね」
なんて言いつつ、シエロも楽しそうに笑っている。
「じゃあこういうのはどうですか?」
笑いながらいろいろな作戦を練っていく。
後ろでは、意味ありげに笑うメンテが、御者台に視線をやりながら、
「楽しそうだね」
とヴァルに向かって呟く。
「…………そだな」
と呟いたヴァルが、黙って外を眺めた。
街道沿いに大きな食堂を見つけたので、そこで6人で昼食を食べた。
この6人で外食というのは初めてのこと。
それぞれが違うものを食べ、騒がしくしながら、なんとか昼食を食べ終えたのだ。
「次、ぼくの番だね」
と、メンテが御者台に座る。
「次、代わってくれるんだよね」
と、シエロがにこやかにヴァルを捕まえた。
「…………そうだったかな」
ヴァルが苦笑いをした。
仕方なく、ドサッとメンテの隣に座った。
「ふふ、優しいね」
手をヒラヒラとさせて、シエロが馬車へ乗り込んだ。
午後の静かな時間。
外から草の匂いが流れ込む。
御者台をじっと見ていたエマに、チュチュが話しかけた。
「何見てるのかな」
「え?」
くるりと振り向いたエマの目に、チュチュの笑うようなからかうような目が映る。
その瞳に、「へへっ」と笑って見せた。
正直な話、確かにヴァルを見ていた。この距離が居心地いいのだ。
近すぎるとあまりじっと見られないし。
この距離になって初めて気付く。
私の中での、その存在の強さ。
風になびく黒い髪も。
すっとした輪郭も。
つんとした鼻も。
あの、肩も手も全部。
……やっぱりかっこいいよなぁ。
クッションを抱え、頬杖をついて、こっそりと眺める。
気付かれないように。
チュチュとシエロが、何かコソコソと話す声が聞こえる。ゆったりとしたBGMみたいに。
持っていた模様付きの赤いクッションに顔をうずめた。
ヴァルのことをつい考えてしまって。なんだか変な顔をしていそうで、心配になった。
◇◇◇◇◇
特に申し合わせているわけではありませんが、チーム分けする時、戦力や保護者的な観点から、シエロとヴァルは違うチームに入ることにしています。
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