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76 乗馬教室

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 その日、昼食の準備の合間に、エマとメンテがパウンドケーキを作った。
 メンテに生地を混ぜてもらうと、エマが一人で作ったケーキよりも、美味しく仕上がるようだった。

 そんなわけで、その日の午後はパウンドケーキでお茶にした。
 ドライフルーツを入れたパウンドケーキだ。
「ヴァル、この後時間ある?」
 紅茶を飲みながら、ヴァルに話しかけたのは、メンテだった。
「ああ、いいよ」
 リナリが顔を上げたので、メンテがリナリの方に顔を向けた。
「ヴァルに乗馬教えてもらってるんだ。リナリもどう?」
「う、うん。やってみたい」
 リナリが、緊張した面持ちで答える。

 もうすぐ夏休み。
 双子はどうやら、今年の帰省の前に、乗馬を習っておくつもりのようだ。
「それ、私も行っていい?」
 エマが言うと、ヴァルが「いいよ」と笑った。

 もうあんな失態を見せるわけにはいかない。自分のためにも、馬のためにも!

 そしてお茶の後、4人が門の前に集まった。
 目の前には、2頭の馬がいる。
 学園の2頭の馬も、みんなが認める学園のメンバーだ。

「リナリとエマは初めてだろ?」
「うん」
 二人で頷く。
「じゃあ、挨拶してから乗ってみようか」
 ということで、エマとリナリが馬に抱きつきにいく。
 日々の馬の世話はしているので、馬には慣れたものだ。
 ヴァルが馬を一頭一頭示しながら言う。
「こっちがララで、こっちがルルな」
「よろしくね、ララ」
 正直、どっちがどっちかわからないくらいそっくりな栗毛の馬に、エマは挨拶をした。

 どうやら、リナリにはメンテが、エマにはヴァルが付いてくれるらしかった。
 馬を連れて、林のそばまで行く。
 少し離れたところで、リナリとメンテが馬に乗る練習を始めたのが目に入った。
 今日の馬には、ちゃんと鞍がついている。

 ぽんぽん、とヴァルが馬を撫でる。
「馬、あんまり乗ったことがないだろ?まず、乗ってみるか」
「うん」
 乗り方を教わり、なんとか乗ってみる。ヴァルが馬を引き、歩く。
 高い視線。
 ヴァルの頭が下に見え、新鮮だ。
 頭を上から覗いたことなんてあったかなぁ。

 黒い髪が風になびくのを見守る。
 正面から風が吹いて、エマの髪もふわふわとなびいた。
 向こうで、リナリが馬に後ろ向きで跨ってしまい、オロオロするのが見える。鞍に掴まったまま、メンテに泣きついているようだ。

 風は心地良くて、馬の上は、緊張はするものの、思ったよりも怖くない。

「……気持ちいいね」

 そう言うと、ヴァルがこちらに振り返る。
「だろ?」
 ヴァルが嬉しそうに顔を綻ばせた。
 風に髪が乱れて。
 見惚れる。

「…………」

 目が合って。

 一瞬、沈黙が落ちた。そんな気がした。

 見ていたのがバレたのだろうか。
 顔が熱くなる。
 ゆっくりと目を逸らして、手綱を両手でぎゅっと握りしめた。



◇◇◇◇◇



リナリは運動が苦手です。好きなのは読書。
次回から、みんなで旅行エピソード、始まります!
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