76 / 188
76 乗馬教室
しおりを挟む
その日、昼食の準備の合間に、エマとメンテがパウンドケーキを作った。
メンテに生地を混ぜてもらうと、エマが一人で作ったケーキよりも、美味しく仕上がるようだった。
そんなわけで、その日の午後はパウンドケーキでお茶にした。
ドライフルーツを入れたパウンドケーキだ。
「ヴァル、この後時間ある?」
紅茶を飲みながら、ヴァルに話しかけたのは、メンテだった。
「ああ、いいよ」
リナリが顔を上げたので、メンテがリナリの方に顔を向けた。
「ヴァルに乗馬教えてもらってるんだ。リナリもどう?」
「う、うん。やってみたい」
リナリが、緊張した面持ちで答える。
もうすぐ夏休み。
双子はどうやら、今年の帰省の前に、乗馬を習っておくつもりのようだ。
「それ、私も行っていい?」
エマが言うと、ヴァルが「いいよ」と笑った。
もうあんな失態を見せるわけにはいかない。自分のためにも、馬のためにも!
そしてお茶の後、4人が門の前に集まった。
目の前には、2頭の馬がいる。
学園の2頭の馬も、みんなが認める学園のメンバーだ。
「リナリとエマは初めてだろ?」
「うん」
二人で頷く。
「じゃあ、挨拶してから乗ってみようか」
ということで、エマとリナリが馬に抱きつきにいく。
日々の馬の世話はしているので、馬には慣れたものだ。
ヴァルが馬を一頭一頭示しながら言う。
「こっちがララで、こっちがルルな」
「よろしくね、ララ」
正直、どっちがどっちかわからないくらいそっくりな栗毛の馬に、エマは挨拶をした。
どうやら、リナリにはメンテが、エマにはヴァルが付いてくれるらしかった。
馬を連れて、林のそばまで行く。
少し離れたところで、リナリとメンテが馬に乗る練習を始めたのが目に入った。
今日の馬には、ちゃんと鞍がついている。
ぽんぽん、とヴァルが馬を撫でる。
「馬、あんまり乗ったことがないだろ?まず、乗ってみるか」
「うん」
乗り方を教わり、なんとか乗ってみる。ヴァルが馬を引き、歩く。
高い視線。
ヴァルの頭が下に見え、新鮮だ。
頭を上から覗いたことなんてあったかなぁ。
黒い髪が風になびくのを見守る。
正面から風が吹いて、エマの髪もふわふわとなびいた。
向こうで、リナリが馬に後ろ向きで跨ってしまい、オロオロするのが見える。鞍に掴まったまま、メンテに泣きついているようだ。
風は心地良くて、馬の上は、緊張はするものの、思ったよりも怖くない。
「……気持ちいいね」
そう言うと、ヴァルがこちらに振り返る。
「だろ?」
ヴァルが嬉しそうに顔を綻ばせた。
風に髪が乱れて。
見惚れる。
「…………」
目が合って。
一瞬、沈黙が落ちた。そんな気がした。
見ていたのがバレたのだろうか。
顔が熱くなる。
ゆっくりと目を逸らして、手綱を両手でぎゅっと握りしめた。
◇◇◇◇◇
リナリは運動が苦手です。好きなのは読書。
次回から、みんなで旅行エピソード、始まります!
メンテに生地を混ぜてもらうと、エマが一人で作ったケーキよりも、美味しく仕上がるようだった。
そんなわけで、その日の午後はパウンドケーキでお茶にした。
ドライフルーツを入れたパウンドケーキだ。
「ヴァル、この後時間ある?」
紅茶を飲みながら、ヴァルに話しかけたのは、メンテだった。
「ああ、いいよ」
リナリが顔を上げたので、メンテがリナリの方に顔を向けた。
「ヴァルに乗馬教えてもらってるんだ。リナリもどう?」
「う、うん。やってみたい」
リナリが、緊張した面持ちで答える。
もうすぐ夏休み。
双子はどうやら、今年の帰省の前に、乗馬を習っておくつもりのようだ。
「それ、私も行っていい?」
エマが言うと、ヴァルが「いいよ」と笑った。
もうあんな失態を見せるわけにはいかない。自分のためにも、馬のためにも!
そしてお茶の後、4人が門の前に集まった。
目の前には、2頭の馬がいる。
学園の2頭の馬も、みんなが認める学園のメンバーだ。
「リナリとエマは初めてだろ?」
「うん」
二人で頷く。
「じゃあ、挨拶してから乗ってみようか」
ということで、エマとリナリが馬に抱きつきにいく。
日々の馬の世話はしているので、馬には慣れたものだ。
ヴァルが馬を一頭一頭示しながら言う。
「こっちがララで、こっちがルルな」
「よろしくね、ララ」
正直、どっちがどっちかわからないくらいそっくりな栗毛の馬に、エマは挨拶をした。
どうやら、リナリにはメンテが、エマにはヴァルが付いてくれるらしかった。
馬を連れて、林のそばまで行く。
少し離れたところで、リナリとメンテが馬に乗る練習を始めたのが目に入った。
今日の馬には、ちゃんと鞍がついている。
ぽんぽん、とヴァルが馬を撫でる。
「馬、あんまり乗ったことがないだろ?まず、乗ってみるか」
「うん」
乗り方を教わり、なんとか乗ってみる。ヴァルが馬を引き、歩く。
高い視線。
ヴァルの頭が下に見え、新鮮だ。
頭を上から覗いたことなんてあったかなぁ。
黒い髪が風になびくのを見守る。
正面から風が吹いて、エマの髪もふわふわとなびいた。
向こうで、リナリが馬に後ろ向きで跨ってしまい、オロオロするのが見える。鞍に掴まったまま、メンテに泣きついているようだ。
風は心地良くて、馬の上は、緊張はするものの、思ったよりも怖くない。
「……気持ちいいね」
そう言うと、ヴァルがこちらに振り返る。
「だろ?」
ヴァルが嬉しそうに顔を綻ばせた。
風に髪が乱れて。
見惚れる。
「…………」
目が合って。
一瞬、沈黙が落ちた。そんな気がした。
見ていたのがバレたのだろうか。
顔が熱くなる。
ゆっくりと目を逸らして、手綱を両手でぎゅっと握りしめた。
◇◇◇◇◇
リナリは運動が苦手です。好きなのは読書。
次回から、みんなで旅行エピソード、始まります!
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる