転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

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74 黒のアミュレット

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 次の日の朝食時。
 食堂で見かけたヴァルの腰に、一緒に買ったアミュレットがぶら下がっているのが目について、嬉しくなる。
 それと同時に、エマは、お土産をまだみんなに渡していないことに気がついた。

 その日、お茶の時間は、食堂からもらった籠の中にあったお菓子を並べた。
 籠の中には、想像以上のお菓子の山が入っていたのだ。
 目の前に並ぶのは、赤や黄色のグミやチョコチップクッキーなど、様々。
 お土産をみんなに渡す。
「ヴァルと二人で選んだんだ」
 一つ一つ渡していった。
 チュチュには、赤いリボンを2つ。中心にパールがついている華やかなものだ。
「ありがとう!」
 リナリには、紺色の大きなリボン。
「エマ、ヴァル、ありがとう」
 相変わらずほわっとした笑顔を向けてくれる。
 メンテには、深青のリボンタイを。
「ありがとう」
 メンテも珍しく優しい笑顔だ。

「エマのはそれ?」
 と、チュチュがエマの頭を覗きながら言う。
 頭の後ろについている、シンプルな茜色のリボン。
「うん、そうだよ」
 えへへっと笑うと、チュチュが「へぇ~」と言いながらにま~っと笑った。

 あと、手の中に残ったのは、黒いアミュレット。シエロのために買ったものだ。
「先生探して渡してくるね」
 ヴァルにそう言うと、少しの沈黙の後、「…………ああ」と一言だけ返ってきた。

 教室や実習室、大広間も覗いてみても、シエロはどこにもいなかった。

「シエロく~ん。シエロく~ん。どこにいるの~」
 小声で歌いながら階段を上がる。
『メモアーレン』を思い出す。
 あのシエロくんを探してるなんて、まるでゲームの中に入ったみたいだ。
 ううん、“まるで”なんてものじゃない。
 本当に、私はここにいる。

 見ることのなかったシエロくんルートはどんなものだったんだろう。
 王子様ルートでは、師匠が同じ人なだけあって、シエロくんもよく出てきていた。
 全員集合のイラストでは、自分の背より大きな杖を抱えて、今と同じように白いマントで左側に陣取っていた。

 男子部屋の階まで上って行き、シエロの部屋の前に立つ。

 コンコン。
 小気味良い音がする。
「はい」
 と、中から声がして、扉が開いた。
 ひょっこりと顔を出したのは、エマが知っている生意気さとあどけなさを残した、金髪の、天使のような人。
「こんにちは、先生」

 今では、私の先生だ。

「エマ、どうしたの?」
「昨日、みんなにお土産を買ってきたんです」
 手の中の黒いアミュレットを見せる。
「ヴァルと一緒に選びました。よかったら、貰ってください」
「ああ、わざわざありがとう」

 チャリン、と音がして、シエロの手の中にアミュレットが収まる。

「アミュレットだね。嬉しいよ」
「悪夢除けだそうです」
 見上げると、シエロがふわりと笑みを見せた。

『ジーク、僕は君を追い抜かせるよ』
 ふと、『メモアーレン』の中のシエロの言葉を思い出す。
 ジークのそばで、ジークを見上げた人。

「ふふ。ありがとう」
 シエロがそう言うと、金色の睫毛が、ふわりと瞬きをした。



◇◇◇◇◇



シエロくんの過去エピソードもそのうちできるでしょうか。
せめて今はシエロくんが悪夢を見なくて済むように。
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