63 / 239
63 お散歩しようよ(1)
しおりを挟む
その日、昼食を食べた後のことだった。
エマは2階の玄関ホールにいた。
日差しが窓から入り込む。
ひだまりの中に据えられた長椅子に、ちょこんと座っていた。
窓の方を見ていると、後ろから声がかけられた。
「エマ!」
明るい声にくるりと振り向くと、チュチュが抱きついてきた。
「あっぶないよー」
抱きとめながら言う。
「お待たせ!」
「うん、じゃあ行こっか」
今日の午後は、たまたま2人とも時間が空いたので、チュチュと待ち合わせをしたのだ。
「エマ、馬の練習はしてる?」
「してないよ」
「しようよ!今度、馬乗ろう!」
「いいね。教えてくれる?」
「教えるならヴァルの方が上手だよ。馬はアタシの方がうまいけど」
お散歩がてら、町まで歩いて行くことにした。
学園の近くにあるリッターの町。
「双子もね、そろそろ馬に乗れるようにならないと、帰省しづらくなるって言ってるの」
「じゃあ一緒に習おうかな」
春も真っ盛りで、森の中は色とりどりの花が咲いている。
「もうバラが咲いてるね~」
町まではちょっと遠いけど、馬車で町に行く時もアイススケートの時も、あまり景色を見る余裕はなかったから、こういう散歩はとても楽しい。
森を抜け、緩やかな丘を越えると、町が見える。
「どこ行く?」
「まず服!」
「仕立て屋さんね」
この町は小さい。
店舗の並ぶ通りが2つ。
店自体はいろいろ揃っていて、かわいいデザインで人気の仕立て屋なんてものもある。
店の外から、ショーウィンドウを覗く。もうすぐ暖かくなるので、夏服で飾られている。2人の目当ても夏用の半袖だ。
大きなショーウィンドウの服やリボンを眺めながら、青いストライプの庇をくぐる。
「こんにちは~」
「いらっしゃいませ」
黒髪をきっちりとまとめたにこやかな女性が出迎えてくれる。
「あら、学園のお嬢様方」
「今日は全身お願いしたいんですけど」
と言って、チュチュが、ブラウスに、緑のジャンパースカートを合わせていく。
瞳が萌葱色だからか、緑の生地を合わせていることが多い。
エマは、いろいろな生地を見せてもらった結果、ブラウスに、レースアップのコルセットが付いたワインレッドのスカートを合わせることにした。首元には、赤い宝石のついた金色のリボン。……ジークの瞳の色に合わせたリボンだ。
店を出る頃も興奮冷めやらず。
なんだかんだ、ショッピングは楽しい。
「時間かかったね~」
「休憩して行こう」
と、二人で小さなアイスクリーム屋でアイスクリームを買い、ベンチに座ったところだった。
「きゃああああああ!ひったくりよ!」
の声と共に、目の前をナイフと鞄を持った男が駆け抜けた。
「……ッ!」
突発的に、アイスクリームを放り投げて立ち上がったのはチュチュだった。
「魔術師の前で犯罪起こそうなんてね……!」
エマもそれに続いて、近くにいた小さな子に「あげる!まだ食べてないから!」とアイスクリームを手渡すと、男を追いかけ、走り出す。
腕輪の着いた左手を前に出し、叫ぶ。
「突き刺せ!」
腕輪の前で、魔法陣が光り、弾けるように消える。
男の足元で、バチン、と大きな音と共に閃光が走る。
「痛ってぇぇぇ」
男が転がった拍子に、チュチュの声が響く。
「ジュエル」
チュチュのベルトの石の前に魔法陣が浮かび上がり、弾けるように消えた。
チュチュの手に、黒い双剣が握られる。
その瞬間、チュチュが、
「あ、ダメだ、アタシ!」
と叫んだ。
「アタシ、殺す以外の方法わかんない!」
「ええええええ」
実際、町の中はこんな小悪党すらほぼいない。2人とも、人間を相手にするのは初めてだ。
仕方なく、エマが体術で捕まえようと、倒れている男に飛びかかっていく。
「きゃあっ」
しかし、体勢を立て直した男に、逆に弾かれ、倒れてしまう。
「エマ!!」
男は、エマに向かって腕を振り上げた。
◇◇◇◇◇
この国では、服は基本的に仕立て屋でオーダーして作ります。既製品を売っているお店はあまりありません。
エマは2階の玄関ホールにいた。
日差しが窓から入り込む。
ひだまりの中に据えられた長椅子に、ちょこんと座っていた。
窓の方を見ていると、後ろから声がかけられた。
「エマ!」
明るい声にくるりと振り向くと、チュチュが抱きついてきた。
「あっぶないよー」
抱きとめながら言う。
「お待たせ!」
「うん、じゃあ行こっか」
今日の午後は、たまたま2人とも時間が空いたので、チュチュと待ち合わせをしたのだ。
「エマ、馬の練習はしてる?」
「してないよ」
「しようよ!今度、馬乗ろう!」
「いいね。教えてくれる?」
「教えるならヴァルの方が上手だよ。馬はアタシの方がうまいけど」
お散歩がてら、町まで歩いて行くことにした。
学園の近くにあるリッターの町。
「双子もね、そろそろ馬に乗れるようにならないと、帰省しづらくなるって言ってるの」
「じゃあ一緒に習おうかな」
春も真っ盛りで、森の中は色とりどりの花が咲いている。
「もうバラが咲いてるね~」
町まではちょっと遠いけど、馬車で町に行く時もアイススケートの時も、あまり景色を見る余裕はなかったから、こういう散歩はとても楽しい。
森を抜け、緩やかな丘を越えると、町が見える。
「どこ行く?」
「まず服!」
「仕立て屋さんね」
この町は小さい。
店舗の並ぶ通りが2つ。
店自体はいろいろ揃っていて、かわいいデザインで人気の仕立て屋なんてものもある。
店の外から、ショーウィンドウを覗く。もうすぐ暖かくなるので、夏服で飾られている。2人の目当ても夏用の半袖だ。
大きなショーウィンドウの服やリボンを眺めながら、青いストライプの庇をくぐる。
「こんにちは~」
「いらっしゃいませ」
黒髪をきっちりとまとめたにこやかな女性が出迎えてくれる。
「あら、学園のお嬢様方」
「今日は全身お願いしたいんですけど」
と言って、チュチュが、ブラウスに、緑のジャンパースカートを合わせていく。
瞳が萌葱色だからか、緑の生地を合わせていることが多い。
エマは、いろいろな生地を見せてもらった結果、ブラウスに、レースアップのコルセットが付いたワインレッドのスカートを合わせることにした。首元には、赤い宝石のついた金色のリボン。……ジークの瞳の色に合わせたリボンだ。
店を出る頃も興奮冷めやらず。
なんだかんだ、ショッピングは楽しい。
「時間かかったね~」
「休憩して行こう」
と、二人で小さなアイスクリーム屋でアイスクリームを買い、ベンチに座ったところだった。
「きゃああああああ!ひったくりよ!」
の声と共に、目の前をナイフと鞄を持った男が駆け抜けた。
「……ッ!」
突発的に、アイスクリームを放り投げて立ち上がったのはチュチュだった。
「魔術師の前で犯罪起こそうなんてね……!」
エマもそれに続いて、近くにいた小さな子に「あげる!まだ食べてないから!」とアイスクリームを手渡すと、男を追いかけ、走り出す。
腕輪の着いた左手を前に出し、叫ぶ。
「突き刺せ!」
腕輪の前で、魔法陣が光り、弾けるように消える。
男の足元で、バチン、と大きな音と共に閃光が走る。
「痛ってぇぇぇ」
男が転がった拍子に、チュチュの声が響く。
「ジュエル」
チュチュのベルトの石の前に魔法陣が浮かび上がり、弾けるように消えた。
チュチュの手に、黒い双剣が握られる。
その瞬間、チュチュが、
「あ、ダメだ、アタシ!」
と叫んだ。
「アタシ、殺す以外の方法わかんない!」
「ええええええ」
実際、町の中はこんな小悪党すらほぼいない。2人とも、人間を相手にするのは初めてだ。
仕方なく、エマが体術で捕まえようと、倒れている男に飛びかかっていく。
「きゃあっ」
しかし、体勢を立て直した男に、逆に弾かれ、倒れてしまう。
「エマ!!」
男は、エマに向かって腕を振り上げた。
◇◇◇◇◇
この国では、服は基本的に仕立て屋でオーダーして作ります。既製品を売っているお店はあまりありません。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる