転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

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61 その手に触れるだけで(1)

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 エマが大広間のある3階に降りていった時、ヴァルは階段の前にいた。
 丁度同じ時間に来た感じでもなくて。けれど、大広間の中に入るわけでもなくて。
 まるで、ここで待っていたみたいな。
 ヴァルがエマを少し面食らった顔でじっと見る。
「…………?」
「……ドレスは?」
「え?」
 と言った瞬間、さっきのドレスに思い至り、顔が熱くなる。
 確かにすでに着替えてしまっていて、いつも通りのブラウスにスカートといった格好だ。
 そんなこと誰から聞いたんだろう。
「あ……あの……ちょっと」
 まごまごと視線を動かす。
「恥ずか……しくて……」
 こっそりとヴァルの顔を見ると、「ふ~ん?」とエマの顔を見ていた。
「俺しかいないのに?」
 と、つまらそうに言う。

 大広間の中心まで、二人、並んで歩いていく。
 ヴァルが止まったので、正面に立った。

 もう、同じ高さでは視線は合わない。
 前にダンスをした時は、同じ高さで目が合ったのに。

 ヴァルが左手を出したので、エマは右手を、前に出した。

 触れる。

 指が。

 触れて、心臓が騒ぐ。

 一歩前へ。

 ヴァルの腕に左手を置けば、ヴァルの右手が腰に触れる。

 触れた場所の一つ一つが熱を持って。

 熱くて。

 その熱さで、正気を保てなくなりそうで。

 顔を上げると、その赤い瞳と、目が合って。

 ……赤い?

 そういえばヴァルの瞳は、何色なんだっけ。
 ずっと赤だと思っていたけど、赤にしては思ったより……。

 見入るようにその顔を覗けば、エマの右手は繋いだヴァルの左手に強く引き寄せられる。

 この感覚。
 喉の奥が痛いような。息が止まりそうな、感覚。

 私はもういつの間にか、この男の子から目が離せなくなっていた。
 いつの間にか、背が高くなって。
 いつの間にか、声が低くなって。
 いつの間にか、優しい笑顔でそばに居てくれているこの男の子から。

 目を逸らすことができない。

 その存在が気になってしまってる。
 触れるだけで熱を帯びる。

 もうこの気持ちを見ないことにするなんてできない。

「…………」

 沈黙の中で、視線が合う。
 視線は合ったけれど、ヴァルも何故か言葉を発することがなかった。
 じっと目が合って。
 ヴァルの右手に引き寄せられて。

 そして、ダンスは始まった。
 ゆっくりとした三拍子に乗る。
 壁に据え付けられたランプの明かりが、くるくると視界の中で線を描く。

 どうして。

 どうして、ヴァルは何も言わないんだろう。
 ただ視線だけが合う。
 二人でステップを踏む。
 どうしてそんな、優しい目で見るんだろう。

 そんな顔で見られたら、恥ずかしくて泣いてしまいそうなのに。

 いつものように、へへ、なんて、笑って誤魔化そうとしたけれど、もうどうしても声が出なかった。
 時間まで、二人、言葉もなくただくるくると踊った。



◇◇◇◇◇



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