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57 アイススケートのあとは
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学園に帰りついた時には、すでにみんな授業を終えて食堂に集まっていた。
「た……ただいま……」
過酷なアイススケートですっかりへろへろ。長い階段が一人で上りきれず、シエロのマントを掴んでなんとか上りきった。
そのまま、食堂までもシエロのマントを引っ掴んだままだったので、申し訳ないことにマントがクシャクシャだ。
「おかえりー!大丈夫だった?」
チュチュが駆け寄って来てくれて、スケート靴を見ると何かを察した。
さすが、同じ師を持つもの同士、伝わるものがある。
ヴァルは無言。目線の先は掴まれ続けているマント。
双子は、お弁当とお土産を受け取ってくれる。すかさず食事の準備を始めた。
「エマ、ご飯にする?先にお風呂にする?」
なんて、リナリがどこかの新妻のような台詞を言ってくれる。
そうなのだ。
帰りにズルズルと氷の上を服のまま滑ってしまったため、服がびしょびしょだ。
「そだよ!けっこう冷えてるじゃん!お風呂であったまっておいでよ」
と言って、チュチュがエマを食堂から押し出す。
マントを掴まれたままのシエロも、当たり前のようにエマを先導して食堂を出ていった。
「あっ……おい……!」
ヴァルがシエロを止めようとしたけれど、時すでに遅し、だ。
「どこまで付いてくんだよ……」
大きな紅茶のポットを持ってきたメンテが、そんなヴァルの姿を見て「フフッ」と笑った。
「…………」
6階から9階まで。
ここまで階段しかないと、もうこの建物の構造自体も、シエロの陰謀なんじゃないかと思えてくる。
なんとか自分の部屋まで辿り着く。
「うぅ……」
呻きながらなんとか床に転がった。
見下ろしてくるシエロの顔の、なんと嬉しそうなことか……。
「せんせ……」
床に仰向け状態でシエロを見上げると、しゃがんで、
「よくできました」
と言ってくれる。シエロの笑顔は澄んだ青空のようで。この笑顔があると頑張れるといえばそうなんだけど。なんとも怖い笑顔だ。
「じゃあ、僕はこれで。チュチュ、あとはよろしくね」
「はーい」
エマが床に転がっている間に、チュチュがお風呂の準備をしてくれた。
「ごゆっくり~」
ザバァ……ン。
浴槽からお湯が溢れる。
「うにゅ……う……」
温かいお湯のなかにいると、癒されるようだった。
ホントに今日は疲れたぁ……。
お風呂のあとで、また階段を下りる気にもなれず、ベッドに座っていると、
コンコン、と扉を叩く音がする。
「はーい」
またチュチュがお世話しに来てくれたのかと、何気なく扉を開けると、そこにいたのは、お盆を持ったヴァルだった。
お盆の上には、今日の昼食のお弁当と、一人分の小さなポットが載っている。
「あ……」
途端に、部屋着でいるのが少し恥ずかしくなった。
部屋着で食堂にいくこともあるから、そんなに困る格好でもないけれど。
袖で顔を隠しながら、なんとか、「ありがとう……」とだけ言った。
「テーブルでいいよな」
と言いながら、ヴァルが普通に入って来ようとする。
「あ!?えっ……、いいよ!もらうから……!」
エマはそう言ったけれど、ヴァルがフフン、という顔をして。
アワアワしている間に、テーブルに置かれてしまった。
「あ……ありがとう……」
小さな声で呟く。
「じゃ、また後で」
「うん」
パタン、と扉がしまると、テーブルの前に座った。
女子会をすることも多いので、ラグの上に小さなテーブルを置いてあるのだ。
なぜか恥ずかしくなり、顔を押さえてみる。
赤くなっていないといいけど……。
目の前には、美味しそうなオムライスのお弁当。それと、紅茶のポットにカップ。
「美味しそう……」
一人、呟くと、エマはもくもくとご飯を食べ始めた。
◇◇◇◇◇
9階より上の階も存在します。乱雑な倉庫と化しており、あまり使われていません。
「た……ただいま……」
過酷なアイススケートですっかりへろへろ。長い階段が一人で上りきれず、シエロのマントを掴んでなんとか上りきった。
そのまま、食堂までもシエロのマントを引っ掴んだままだったので、申し訳ないことにマントがクシャクシャだ。
「おかえりー!大丈夫だった?」
チュチュが駆け寄って来てくれて、スケート靴を見ると何かを察した。
さすが、同じ師を持つもの同士、伝わるものがある。
ヴァルは無言。目線の先は掴まれ続けているマント。
双子は、お弁当とお土産を受け取ってくれる。すかさず食事の準備を始めた。
「エマ、ご飯にする?先にお風呂にする?」
なんて、リナリがどこかの新妻のような台詞を言ってくれる。
そうなのだ。
帰りにズルズルと氷の上を服のまま滑ってしまったため、服がびしょびしょだ。
「そだよ!けっこう冷えてるじゃん!お風呂であったまっておいでよ」
と言って、チュチュがエマを食堂から押し出す。
マントを掴まれたままのシエロも、当たり前のようにエマを先導して食堂を出ていった。
「あっ……おい……!」
ヴァルがシエロを止めようとしたけれど、時すでに遅し、だ。
「どこまで付いてくんだよ……」
大きな紅茶のポットを持ってきたメンテが、そんなヴァルの姿を見て「フフッ」と笑った。
「…………」
6階から9階まで。
ここまで階段しかないと、もうこの建物の構造自体も、シエロの陰謀なんじゃないかと思えてくる。
なんとか自分の部屋まで辿り着く。
「うぅ……」
呻きながらなんとか床に転がった。
見下ろしてくるシエロの顔の、なんと嬉しそうなことか……。
「せんせ……」
床に仰向け状態でシエロを見上げると、しゃがんで、
「よくできました」
と言ってくれる。シエロの笑顔は澄んだ青空のようで。この笑顔があると頑張れるといえばそうなんだけど。なんとも怖い笑顔だ。
「じゃあ、僕はこれで。チュチュ、あとはよろしくね」
「はーい」
エマが床に転がっている間に、チュチュがお風呂の準備をしてくれた。
「ごゆっくり~」
ザバァ……ン。
浴槽からお湯が溢れる。
「うにゅ……う……」
温かいお湯のなかにいると、癒されるようだった。
ホントに今日は疲れたぁ……。
お風呂のあとで、また階段を下りる気にもなれず、ベッドに座っていると、
コンコン、と扉を叩く音がする。
「はーい」
またチュチュがお世話しに来てくれたのかと、何気なく扉を開けると、そこにいたのは、お盆を持ったヴァルだった。
お盆の上には、今日の昼食のお弁当と、一人分の小さなポットが載っている。
「あ……」
途端に、部屋着でいるのが少し恥ずかしくなった。
部屋着で食堂にいくこともあるから、そんなに困る格好でもないけれど。
袖で顔を隠しながら、なんとか、「ありがとう……」とだけ言った。
「テーブルでいいよな」
と言いながら、ヴァルが普通に入って来ようとする。
「あ!?えっ……、いいよ!もらうから……!」
エマはそう言ったけれど、ヴァルがフフン、という顔をして。
アワアワしている間に、テーブルに置かれてしまった。
「あ……ありがとう……」
小さな声で呟く。
「じゃ、また後で」
「うん」
パタン、と扉がしまると、テーブルの前に座った。
女子会をすることも多いので、ラグの上に小さなテーブルを置いてあるのだ。
なぜか恥ずかしくなり、顔を押さえてみる。
赤くなっていないといいけど……。
目の前には、美味しそうなオムライスのお弁当。それと、紅茶のポットにカップ。
「美味しそう……」
一人、呟くと、エマはもくもくとご飯を食べ始めた。
◇◇◇◇◇
9階より上の階も存在します。乱雑な倉庫と化しており、あまり使われていません。
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