56 / 239
56 アイススケートってやつ
しおりを挟む
翌日は、シエロとエマがお弁当を取りに行く番だった。
空は今日もとてもよく晴れている。
エマが手を挙げる。
「はーい、先生」
「先生はやめろ」
黒板の前にいるヴァルが呆れた声を出す。
シエロがいない今、教壇に立っているのはいつも通りヴァルだった。
「そろそろ時間なので、抜けまーす」
「いってらっしゃーい」
チュチュと双子が口々に言う。
みんなに手を振ってから、ヴァルにも手を振ると、つまらなそうな顔をしたヴァルが手をヒラヒラさせた。
階段を駆け下り、2階の玄関ホールへ着くと、もうシエロが杖を持って待っていた。
エマに気付くと、にこにこと手を振ってくれる。
「先生、早いですね」
駆け寄ると、
「じゃあ行こうか」
と、そのまま外へ。
「馬車は……」と、エマが言いかけたとき、シエロがくるりとエマの方を向いた。
「今日は、足で行こうか」
「え?」
確かに、散歩がてら歩いて行ける程度の距離だ。
そう思ったのだけれど、
「ああ、歩いていくって意味じゃないよ」
と返ってきてしまった。
門の前で杖を構えると、シエロの通る声が響く。
「氷結の柱」
杖の上で魔法陣が煌めくと、弾けるように消える。
その瞬間、町へ続く道が水で覆われ、その表面がパリン、と凍った。
そして、シエロが取り出したのは、裏側にブレードが付いた靴。いわゆる、スケート靴だ。
「え……?」
冷や汗をかきながら、エマが言う。
「あの、私、スケートってあんまりやったことなくて。距離もあるし……」
すると、シエロが天使のような笑顔でにっこりと笑った。
「うん。エマはもっと体力つけた方がいいと思うんだよね。あと、バランス感覚」
「うっわわわわわ!いやああああああ」
エマがスケート靴をはいた途端、悲鳴ばかりになった。
町までは、緩やかとはいえ、坂らしい坂もないわけではない。
エマが想像以上のスピードに悲鳴をあげている隣では、シエロが優雅に、踊るようにスケートを滑っている。
「先生~!これ、転んだら死ぬんじゃ……」
「僕がいるから大丈夫だよ」
その笑顔!
27歳なのにゲームの雰囲気を失わないその笑顔。
この笑顔には、私も弱い。
27歳でもショタって言っていいんだろうか。
きっとよくない。ガチなショタ好きにきっと怒られる。
でも目の前のシエロを見ていると、27歳のショタか~~~~~~と思えてしまう。
もう滑れない、と思ったところで、段々とスピードが落ちてきた。
ここ……まさか……。
「登り坂……」
呟くと、シエロがにっこりと笑う。
「登りの時は、こうかな」
と言いながら、優雅に歩くように登っていく。
「え……?」
とりあえず見様見真似でやってみるけれど、ズルズルと落ちていってしまう。
「刃を横にすれば滑らないよ」
とのことだけど、じゃあシエロはどうやって登ったんだろう。
結局、
「先生~~~~~~」
と泣きついて、両手を繋いで引っ張ってもらうことになった。
……うぅ。
それにしても……、シエロくんは後ろ向きで登り坂をスケートしてるんだけど、……どうやって登ってるんだろう。……ブレードが氷に刺さってる……?
へろへろのままなんとか町に辿り着き、やっと靴を履き替えさせてもらった。
「うぅ……」
その日は町に居る間、ずっとヨタヨタしていた。そして、町でのショッピングは、ヨタヨタしている間に終わってしまっていた。
気付けばシエロがにこやかに食堂でお弁当を受け取り、オススメのアイスクリームを買っていた。
そして、町外れにて。
「氷結の柱」
シエロの通る声が響く。
杖の上に魔法陣が現れ、弾ける。
学園への帰り道が、水で覆われ、表面がパリン、と凍る。
そしてシエロは、まるで天使のような笑顔でこう言った。
「じゃあ、帰ろうか」
「……ですよね」
◇◇◇◇◇
シエロくんは何年経ってもショタと呼びたい雰囲気を纏っています。
空は今日もとてもよく晴れている。
エマが手を挙げる。
「はーい、先生」
「先生はやめろ」
黒板の前にいるヴァルが呆れた声を出す。
シエロがいない今、教壇に立っているのはいつも通りヴァルだった。
「そろそろ時間なので、抜けまーす」
「いってらっしゃーい」
チュチュと双子が口々に言う。
みんなに手を振ってから、ヴァルにも手を振ると、つまらなそうな顔をしたヴァルが手をヒラヒラさせた。
階段を駆け下り、2階の玄関ホールへ着くと、もうシエロが杖を持って待っていた。
エマに気付くと、にこにこと手を振ってくれる。
「先生、早いですね」
駆け寄ると、
「じゃあ行こうか」
と、そのまま外へ。
「馬車は……」と、エマが言いかけたとき、シエロがくるりとエマの方を向いた。
「今日は、足で行こうか」
「え?」
確かに、散歩がてら歩いて行ける程度の距離だ。
そう思ったのだけれど、
「ああ、歩いていくって意味じゃないよ」
と返ってきてしまった。
門の前で杖を構えると、シエロの通る声が響く。
「氷結の柱」
杖の上で魔法陣が煌めくと、弾けるように消える。
その瞬間、町へ続く道が水で覆われ、その表面がパリン、と凍った。
そして、シエロが取り出したのは、裏側にブレードが付いた靴。いわゆる、スケート靴だ。
「え……?」
冷や汗をかきながら、エマが言う。
「あの、私、スケートってあんまりやったことなくて。距離もあるし……」
すると、シエロが天使のような笑顔でにっこりと笑った。
「うん。エマはもっと体力つけた方がいいと思うんだよね。あと、バランス感覚」
「うっわわわわわ!いやああああああ」
エマがスケート靴をはいた途端、悲鳴ばかりになった。
町までは、緩やかとはいえ、坂らしい坂もないわけではない。
エマが想像以上のスピードに悲鳴をあげている隣では、シエロが優雅に、踊るようにスケートを滑っている。
「先生~!これ、転んだら死ぬんじゃ……」
「僕がいるから大丈夫だよ」
その笑顔!
27歳なのにゲームの雰囲気を失わないその笑顔。
この笑顔には、私も弱い。
27歳でもショタって言っていいんだろうか。
きっとよくない。ガチなショタ好きにきっと怒られる。
でも目の前のシエロを見ていると、27歳のショタか~~~~~~と思えてしまう。
もう滑れない、と思ったところで、段々とスピードが落ちてきた。
ここ……まさか……。
「登り坂……」
呟くと、シエロがにっこりと笑う。
「登りの時は、こうかな」
と言いながら、優雅に歩くように登っていく。
「え……?」
とりあえず見様見真似でやってみるけれど、ズルズルと落ちていってしまう。
「刃を横にすれば滑らないよ」
とのことだけど、じゃあシエロはどうやって登ったんだろう。
結局、
「先生~~~~~~」
と泣きついて、両手を繋いで引っ張ってもらうことになった。
……うぅ。
それにしても……、シエロくんは後ろ向きで登り坂をスケートしてるんだけど、……どうやって登ってるんだろう。……ブレードが氷に刺さってる……?
へろへろのままなんとか町に辿り着き、やっと靴を履き替えさせてもらった。
「うぅ……」
その日は町に居る間、ずっとヨタヨタしていた。そして、町でのショッピングは、ヨタヨタしている間に終わってしまっていた。
気付けばシエロがにこやかに食堂でお弁当を受け取り、オススメのアイスクリームを買っていた。
そして、町外れにて。
「氷結の柱」
シエロの通る声が響く。
杖の上に魔法陣が現れ、弾ける。
学園への帰り道が、水で覆われ、表面がパリン、と凍る。
そしてシエロは、まるで天使のような笑顔でこう言った。
「じゃあ、帰ろうか」
「……ですよね」
◇◇◇◇◇
シエロくんは何年経ってもショタと呼びたい雰囲気を纏っています。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる