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55 お出かけ日和(3)

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 ハンバーグの匂いにルンルンしながら、食堂を出た。
 そして、並んでパン屋へと向かう。
 隣の通りにあるパン屋は、パンでそのまま店を作ったような色合いで、いつでも焼いたパンの香りがしており、とてもいい雰囲気の店だ。
 中へ入っても多種多様なパンがあり、目移りしてしまう。
 カップケーキのコーナは、店の少し奥まったところにあった。
 小さな小型のカップケーキが並ぶ。
 クリームが乗っているもの、サクランボが乗っているもの、チョコレートやブランデーのケーキもある。
「ナッツのケーキ」
 タグを読み上げる。ナッツがふんだんに使われた小さなカップケーキ。数種類のナッツが入っているらしく、とても美味しそうだ。
「美味しそう」
「だろ?」
 と言ったかと思うと、ヴァルがすでに注文を始めていた。
「ナッツのケーキ15個と……」
 15……!?
 ……6人しかいないのに?
「フルーツが6、チョコレートが6……」
「お、多くない?」
「そうか?」
 とか言いながら、さらにパンも数種類注文していた。
 思った以上に大きな紙袋を抱えて、馬車へ戻る。

 馬車に乗ろうとすると、また手が差し出された。
 緊張、する。

 意識しないように。
 手が触れても、意識しないように。
 ヴァルは当たり前に手を差し出す。
 そう、これは、いつものこと。
「…………」

 二人が御者台に収まる。
 エマが前を向くと、
「んぅ……っ」
 口に、何かが押し付けられる感触がした。
 …………!?

 甘い…………。

 かろうじてヴァルの手が、エマの口元に押し付けているのが見える。
 指が……近い……。
 それを両手でなんとか受け取ると、一口かじって口を離した。

「もうすぐお昼なのに」

 手の中に収まっている小さなナッツのカップケーキを見る。
 文句を言っている間に馬車がまた、ゆっくりと動き出す。

「美味しい」

 つい、そういうと、
「だろ?」
 とヴァルの嬉しそうな顔がこちらを向いた。
 だから人数より多く買ってたんだ。

「あーん」
「………………」
 隣を見ると、ヴァルが口を開けて待っていた。
「…………?」
 え……と……。これは……。
 ヴァルとエマの間にある紙袋から、ナッツのケーキを取り出し、ヴァルの口に運ぶ。

 がぷっ。

 うわぁ……っ。

 …………!?……!!!!???

 手綱を握ってるから、手が離せないのか。
 ……この速度で?
 馬は、ゆったりとカポカポ歩いている。
 ……?????

 ヴァルを見ると、口を開けて待ち状態なので、もう半分のケーキも口に持っていく。
 かぷっ。
 指……!指……が……。

 でも。
 ヴァルを見ると、相変わらず待ち状態だった。横目でこっちを見ている。
 ナッツのケーキは15個買ったのだ。
 人数は6人、ナッツのケーキはあと13個。
 余分なケーキは、あと、1個。

 震えそうな手で、カップケーキを口に運ぶ。

 顔が、次第に熱くなる。

 が……ぷ。

「ひゃああっ」

 一口で食いつかれて、思わず叫び声を上げた。



◇◇◇◇◇



ただのイチャイチャ回。
基本的にハッピーなイチャイチャを楽しむラブコメです。
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