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54 お出かけ日和(2)
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カポカポと馬が歩く。
明るい木々の隙間に、青空が見え隠れする。
春。周りで若草色の草花が戯れる。
「思ったよりあったかいね」
太陽が眩しく輝く。
つい、ワクワクした声を出してしまう。
正直、お出かけが嬉しくてしょうがなかった。
「今日、何買ってく?」
ヴァルも今日は、ご機嫌みたいだ。お使いとはいえ、ヴァルだって外に出るのはワクワクするんだろう。
「そうだなぁ」
エマは、空にある雲を眺めながらおやつを思い描いた。まるで、雲がそれに見えるみたいに。
「おだんご……ドーナツ……チェリーパイも捨てがたいなぁ」
そうしていると、本当に雲がドーナツに見えてくる。
そうだ。
ふと、思い出す。
『メモアーレン』の王子様ルート、第3章。
ランドルフ王太子とジークが、シュバルツ伯爵邸を抜け出して、カップケーキを食べるシーンがある。
ジークがパン屋で買って、ランドルフに投げてよこす。
たしか、森の近くの町。位置的に、あの町はここだったりするんじゃない?
「木の実の……カップケーキ……」
呟くと、ヴァルがふいっとエマの顔を見た。
「…………?……ああ、パン屋の?」
「え?」
ヴァルが知っていたことに驚いて、一瞬戸惑ったけれど、そう、確かにジークがパン屋で買っていた。
「前にクロワッサン美味しいって言ってたパン屋に売ってるやつだろ?」
「!」
エマが、まさにそれだという顔で、目を見開いた。
そういえば、以前朝食用に買ったクロワッサンが美味しかったので、何度か行ったお店がある。あの店の中に、カップケーキのコーナーが確かにあった。
「そうそう!それ!」
エマが、ヴァルに詰め寄るように嬉しそうな顔を向けた。
ヴァルの顔にも笑みがこぼれる。
「いいな」
二人で馬車に乗る時間は、和やかな時間だった。
ゆっくりと時間をかけて、馬は歩いた。
やがて町の食堂の裏に馬車を停める。
ガランガランガラン。
食堂の扉についている鐘は、ひたすらにうるさい。
夜は酒場になっているから、うるさくないと聞こえないのかもしれない。
「こんにちは」
ヴァルが先導して入っていく。
中は、いかにも酒場といった雰囲気だった。
丸太でできたテーブルや椅子。お酒の並んだ棚。レコードが並んだ棚。
カウンターから出てきたのは、ここの女将さんだ。エプロンに三角巾といった出で立ち。
「こんにちは!」
「おや、こんにちは。弁当できてるよ」
にこっと笑ってくれる。
大きな風呂敷に包まれたお弁当、6つ。
前回のお弁当が包まれていた風呂敷を出しつつ、エマが前に出た。
「ありがとうございます!いつも美味しくいただいてます」
「ああ……時々お手紙をくれる子だね」
「はい」
エマは食堂のお弁当が好きすぎて、時々手紙を書いていた。コロッケや唐揚げがお気に入りだと。実際読んでくれて、お弁当も2週間に1回はコロッケだ。
受け取った風呂敷の包みは、横からヴァルにかっさらわれた。
「お嬢ちゃんが喜んでくれるから、弁当も作りがいがあるってものだよ」
「今日もいい匂いですね」
「今日はハンバーグだよ」
「ハンバーグ……!」
えへへへ、とヴァルの方を向くと、エマに気圧されたヴァルから、「……おお」とだけ返ってきた。
◇◇◇◇◇
エマちゃんはファンレターを積極的に出すタイプです。そして関連グッズをけっこう買うタイプ。
明るい木々の隙間に、青空が見え隠れする。
春。周りで若草色の草花が戯れる。
「思ったよりあったかいね」
太陽が眩しく輝く。
つい、ワクワクした声を出してしまう。
正直、お出かけが嬉しくてしょうがなかった。
「今日、何買ってく?」
ヴァルも今日は、ご機嫌みたいだ。お使いとはいえ、ヴァルだって外に出るのはワクワクするんだろう。
「そうだなぁ」
エマは、空にある雲を眺めながらおやつを思い描いた。まるで、雲がそれに見えるみたいに。
「おだんご……ドーナツ……チェリーパイも捨てがたいなぁ」
そうしていると、本当に雲がドーナツに見えてくる。
そうだ。
ふと、思い出す。
『メモアーレン』の王子様ルート、第3章。
ランドルフ王太子とジークが、シュバルツ伯爵邸を抜け出して、カップケーキを食べるシーンがある。
ジークがパン屋で買って、ランドルフに投げてよこす。
たしか、森の近くの町。位置的に、あの町はここだったりするんじゃない?
「木の実の……カップケーキ……」
呟くと、ヴァルがふいっとエマの顔を見た。
「…………?……ああ、パン屋の?」
「え?」
ヴァルが知っていたことに驚いて、一瞬戸惑ったけれど、そう、確かにジークがパン屋で買っていた。
「前にクロワッサン美味しいって言ってたパン屋に売ってるやつだろ?」
「!」
エマが、まさにそれだという顔で、目を見開いた。
そういえば、以前朝食用に買ったクロワッサンが美味しかったので、何度か行ったお店がある。あの店の中に、カップケーキのコーナーが確かにあった。
「そうそう!それ!」
エマが、ヴァルに詰め寄るように嬉しそうな顔を向けた。
ヴァルの顔にも笑みがこぼれる。
「いいな」
二人で馬車に乗る時間は、和やかな時間だった。
ゆっくりと時間をかけて、馬は歩いた。
やがて町の食堂の裏に馬車を停める。
ガランガランガラン。
食堂の扉についている鐘は、ひたすらにうるさい。
夜は酒場になっているから、うるさくないと聞こえないのかもしれない。
「こんにちは」
ヴァルが先導して入っていく。
中は、いかにも酒場といった雰囲気だった。
丸太でできたテーブルや椅子。お酒の並んだ棚。レコードが並んだ棚。
カウンターから出てきたのは、ここの女将さんだ。エプロンに三角巾といった出で立ち。
「こんにちは!」
「おや、こんにちは。弁当できてるよ」
にこっと笑ってくれる。
大きな風呂敷に包まれたお弁当、6つ。
前回のお弁当が包まれていた風呂敷を出しつつ、エマが前に出た。
「ありがとうございます!いつも美味しくいただいてます」
「ああ……時々お手紙をくれる子だね」
「はい」
エマは食堂のお弁当が好きすぎて、時々手紙を書いていた。コロッケや唐揚げがお気に入りだと。実際読んでくれて、お弁当も2週間に1回はコロッケだ。
受け取った風呂敷の包みは、横からヴァルにかっさらわれた。
「お嬢ちゃんが喜んでくれるから、弁当も作りがいがあるってものだよ」
「今日もいい匂いですね」
「今日はハンバーグだよ」
「ハンバーグ……!」
えへへへ、とヴァルの方を向くと、エマに気圧されたヴァルから、「……おお」とだけ返ってきた。
◇◇◇◇◇
エマちゃんはファンレターを積極的に出すタイプです。そして関連グッズをけっこう買うタイプ。
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