転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

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49 パーティーにて(2)

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 ヴァルに手を引かれ、ダンスのために開かれた大広間の中心へ出た。
 周りの大人達が場所を開けてくれる。視線と、騒つく声。
 これほど注目されるのって恥ずかしい……!

 周りは見ない!周りは見ない!周りは見ない!

 けど、そんな気持ちも、ヴァルと向かい合ってしまえば、なんてことはないものになった。
 目の前にあるいつも通りのヴァルの顔。
 照れ隠しにふふっと笑う。

 引かれる手に、くるくると回る景色。
 大広間の反対側では、シエロとブランカが踊る姿が見えた。
 まるで天使がダンスを踊っているみたい。
 もう2人とも光ってるみたい……。
 天井からの明かりだって眩しい。

 ステップを踏む。
 ヴァルのリードでくるんと回る。
 なんだ、楽しいじゃない。
 ダンスがこんなに楽しいだなんて、知らなかった。

 曲が終わると同時に壁際へ下がる。
 周りは相変わらず、「かわいいカップルね」と言いながら拍手を送ってくれた。

 繋いだ手。
 ヴァルの方を向けば、ヴァルもこっちを見ていた。目が合う。
 ふふっと思わず笑みがこぼれる。
「うまくいったんじゃない?」
「だな」
 明るい笑み。

 それからは、気楽な気分になった。
 こそこそと耳打ちする。
「ねえねえヴァル、あのローストビーフ食べた?」
「あっちに唐揚げがあったぞ」
「唐揚げ……!?」
「……?鶏肉揚げたやつ」
「ホントに唐揚げ!?どこどこ」

 正直、前世を含めてもこんな豪華なパーティーは初めてだ。
 あとは全力で楽しんだ。
 まさかこんなところに唐揚げがあるとは思わなかったけど。この国では、唐揚げもご馳走の一つなんだろうか。
 ジュワジュワした唐揚げを頬張る。
「ふはっ」
 隣で笑う声がした。
「なんて顔してんだよ」
 ヴァルもちょっと楽しそうだ。
「これ、ほんと美味しい」
「だろ?」

 屋敷を出る時には、すでに日が暮れていた。
 空はもう暗くて、一番星も顔を出している。
 もうほとんど夜と言っていい時間。
 前を歩くヴァルの頭をのんびりと眺める。
 夜を照らすライト。
 植え込みの緑。
 どこかの童話みたいに、煌びやかに並ぶ馬車。
 ヒールが低い靴をはいているといっても、立ちっぱなしはさすがに疲れた。
 すると、目の前のヴァルが立ち止まり、手を差し出してきた。
 それが当たり前みたいに。
 ちょっと困ったような、それでいて偉そうな表情。
 手を繋ぐ。
 それが当たり前みたいに。
「へへっ」
 と笑ってみせる。
 もう暗いというのに、風は心地よかった。春のあたたかな風が吹いていた。
 ヴァルが少しだけ手を強く握って、軽く引っ張られる。引き寄せられて、距離が近付く。
 少し、にやけそうになるのを堪えた。
 笑っているのが見つからないように。
 その手の温かさを嬉しいと思ってしまうことが、誰にも見つからないように。



◇◇◇◇◇



次回、ラブコメ前哨戦ラストです。
そこからはいよいよ本格的にラブコメします!
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