転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

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47 ダンスレッスン(3)

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 実際、10歳の子供のための靴は、特に踵が高いわけではない。
 低めのヒール。歩きづらいこともない。
 けれど、履き慣れていない靴で、ダンスをするとなると話は別だ。

「うわっ……たっ……」
 転びそうになったところを、ヴァルが支えてなんとか持ち堪える。
「はぁ……、ありがとう」
 両手を繋いだ状態で、エマはにっこりと笑う。
 いつもの動きやすいブラウスにスカート。足だけキラキラとした靴をはいて、チグハグな格好だ。
「どうしてもつま先がひっかかっちゃう」
「練習だな」
 言いながら、ヴァルはエマをくるくると回した。
 ヴァルの方はそう困ることもないらしく、軽々とステップを踏んだ。
 こうなると、ヴァルの方が先に進んでいるようで、エマはおもしろくない。
 口を尖らしてダンスをしていると、
「なんて顔してんだ」
 とヴァルが小さな声で言った。

 食堂で二人、ホットミルクを飲んだ日から、それが日課になっていた。
「今日もお疲れ様~」
 ホットミルクのマグを、乾杯の調子で持ち上げる。
「お疲れ」
 正面に座るのも慣れてきた。
 みんなが部屋に引き上げた後。
 寝る前のひととき。
 こんな毎日は、悪くない。

 そして、とうとうパーティーの前日。
 夕食後の練習時間。
 大広間の中心にヴァルが一人立つと、扉が開く気配がした。
 振り向きそこにいたのは、もちろんエマだ。
 今日は靴だけでなく、ドレスもきっちりと着ている。
 頭だけはいつものハーフアップだけれど。
 月色の髪が、ドレスで光る宝石と一緒に煌めく。
「えっへへ、どう?」
 ポーズを決めるエマに、ヴァルがにっと笑った。
「いいな」

 反射するほどの輝く床。
 カツカツと、ヒールの音が響く。
 エマが、差し出されたヴァルの手を取ると、すっと引き寄せられた。
 同じ目線。
 ヴァルのちょっと偉そうな瞳が見える。
 ぐい、っと腕を引かれ、ダンスが始まった。
 輝くシャンデリアの下、二人、くるくると回る。
「ターン!」
 言われて、くるり、と回ると、景色もくるりと回った。
「ふっ……ふふふ」
 楽しくなってしまって、笑いが止まらなくなる。
「ふふっ……あはは」
「おま……どした?怖いんだけど」
 踊りながら言うヴァルも、つられて笑ってしまっている。
「えっへへへ。ちょっと楽しくなっちゃった」
 エマがにっこりと笑顔を向けると、ヴァルがまた笑った。

 練習最後の夜。
 明日はもうパーティー当日。
 二人で大広間で踊るのも、二人で食堂で向かい合うのも、これで終わりになるんだろう。
 エマはそれをさみしく思う。
 けど、さみしく思ってるなんて気付かれたくはなくて。
 自分でもそう思いたくなくて。

 笑いながら、その日最後のダンスを踊った。



◇◇◇◇◇



残り3話でラブコメ前哨戦が終了します。
第51話からラブコメ本戦へ突入。
本格的にイチャイチャしはじめますが、どうぞよろしく!
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