転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

文字の大きさ
上 下
42 / 239

42 雪が降った日

しおりを挟む
 季節はとっくに冬になっているはずだった。
 けれど、大木の中は暖かく、この地域は雪もあまり降らないので、これといって冬という感じはない。
 けれど、その日はいつもとは違った。

 昼食中ずっと、みんながソワソワしているのがわかった。
 窓から、白い雪が降っているのが見える。
 そう、今日は雪が降っているのだ。

 音もなく雪は降る。
 窓の外を眺めれば、そこは一面の銀世界だ。

 全員の食事が終わり、
「雪合戦しよう!」
 と真っ先に叫んだのはメンテ。
「いっくぞー!」
 と叫んだのはチュチュ。
 双子が手を繋いで、チュチュと一緒に走って行くのはあっという間だった。

 明るい日差しの中。
 食堂のクッションコーナーにはエマが学ぶべきたくさんの積まれた本。ちょっと取り残された感覚。

 本の中に埋まると、
「お前は行かないの?」
 声をかけられて、そちらを向く。
 見ると、ヴァルがエマの近くまで寄ってきていた。
「もうちょっと、魔法陣の練習しないと」
 はは、と笑ってみせる。
 ヴァルが、魔法陣の練習用の小型黒板を覗く。
 この世界にはタブレット、なんてものがないので、簡単に書いたり消したりするには黒板が便利なのだ。
 そこには、エマが書いた魔法陣が書いてある。シエロに教わった魔法陣をなんとか真似て描けるようになってきたところだった。
「ふーん、上手いじゃん」
 優しい瞳。
「いい魔法陣だな」
「いい魔法陣?」
「魔法陣は、既存の魔術でも魔術師がアレンジを加えて使うことが多いから、魔術師ごとにちょっとずつ違うんだ」
「これも?」
「ああ、これも、シエロがお前用にさらにアレンジしてある。基本的に威力よりも術の使用者の安全重視だな」
「へぇ」
 と魔法陣を改めて眺めるエマを、ヴァルが眺める。
「…………」
 エマが振り返ったところで、ヴァルがニッと笑った。
 ぽん。
 エマの頭に置かれたのは、ヴァルの手だった。
「それだけ描ければ十分だろ。雪、見に行こうぜ」
「え、あ……うん」
 もごもごと返事をして、本をまとめ始めた。
 離れていく手を、何とはなしに目で追った。

「さむーい」
 外に出た瞬間、冷たい風に襲われた。
「うひゃー」
 門のすぐ外では、チュチュが雪だるまを作ろうと雪玉を転がし始めたところだった。
「エーーーーマーーーー」
 チュチュが手を振る。
 双子がすかさず走って来てくれた。おさげを半分毛糸の帽子で埋めているリナリが2人分の手袋を渡してくれる。
「体作ろう!」
「私も!」

 思った以上に5人ではしゃいだ。
 最初は遠くでみんなを眺めていたヴァルも、双子に誘われて雪だるま作りに参加し始めた。
 最後にはバケツやスコップまで持ち出すと、雪だるまは完成した。
 全員でハイタッチ!
「大きいねー」
 ほわほわとリナリが嬉しそうな声を出した。
 カメラでもあれば、写真を撮るんだけどなぁ。
 空が晴れて、雪はキラキラと光る。



◇◇◇◇◇



精霊文字を覚えることで、既存の魔法陣をアレンジすることが可能です。パズルのようなものでステータス振り分けをするイメージです。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...