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38 魔術師になるには

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「いいか」
「はい、先生」
「先生はやめろ」

 翌日から、なぜかエマは実習室でヴァルと膝を突き合わせていた。
 実際に、実習室の真ん中、床に向かい合って座り込んでいる。ツヤツヤとした木の床は、冷たくはなく、肌触りもいい。
 大魔術師である学園長が、魔術の素養を見てくれる予定なのだけれど、それまでに魔力運用を覚えないと、魔術が使えないのだ。
 そんなわけで、魔力運用が得意なヴァルが、エマに教えることになった。

「魔術を使うには、魔力を注ぎ込む依り代が必要なんだ」
 言いながら、ヴァルが腰から短剣を取り出す。
 短剣。
 短剣を魔術の依り代にするというのは、よくあることなんだろうか。

 じっと、見る。

 ジークの依り代も、短剣だ。
 ジークの短剣は、どんなものだったんだろう。
 ジークの短剣を思い出そうとして、最後のスチルを思い出す。
 心臓が、痛い。

 窓からの光を反射して、キラキラと鋭い刃が光る。
 一見シンプルだけれど、見惚れるほど形が綺麗な短剣。

「お前のは?」
「私のは、これ」
 スッと左腕を出す。
 いつでもつけている、左腕の腕輪。
 父からもらった、大切な腕輪。

 ヴァルは手を出すと、腕輪を、エマの左腕ごと自分の手に乗せた。
「…………」
 じっと、腕輪に顔を近づける。

 ヴァルは、じっと見続けて、一頻り眺めた後、やっと、すいっと顔を上げた。
「いい腕輪だな。長い間着けてたんだろ?お前の魔力によく馴染んでる」
「魔力?」
 魔力。
 エマは未だ、魔力がどのようなものであるのか解っていなかった。
 本を何冊か読んでみたし、時々腕輪に集中してみたり眺めてみたりしたけれど、あまり魔力が湧いてくるなどの実感はなかった。
「ああ。最初は感覚が掴めないと思うけど」

 そう言って、ヴァルは自分の手の中に収まっている腕輪を見た。
 宝石を指し示す。
「石に集中してみて」
 む?
 集中?
 う~~~~ん。
「ハッ!」

「…………。あ、うん。ちょっと、違う、かな」
 ヴァルがふいっと目を逸らす。
 違うかな、とか言っちゃって。笑っちゃってるじゃん。
「力入れるみたいに。血液が、ここを巡るように」
「……うん」
 宝石をじっ……と見る。
「うん、いいな」

 こんな感じでいいのか。
「じゃあ、力抜いて」
「……ふぅ」
「集中」
「……むむっ」
 宝石を見る。

 金色の宝石。
 まるで……ジークの瞳の色みたいな。
 これに赤を差し入れたら、完璧な……。

「集中」
 言われて気付く。
 意識が別のところに行ってしまっていた。
「はい」
 む~~~~~~。

 そんな感じで、魔力運用の訓練を続けた。

 カーン、カーン……。
 鐘の音がして、ヴァルが立ち上がる。そのままエマの手を引き上げた。
「そろそろ昼食だな」
 お昼の鐘の音だ。
 そこでやっと、二人の手が離れていった。

「お昼も誰かが作ってるの?」
「いや、町の食堂で弁当作ってもらってさ」
「わー、楽しみ!」



◇◇◇◇◇



ただ、二人で一緒にいた、というだけのお話。
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