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31 キャンプ(1)

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 馬車は問題なかったけれど、馬は怯えてしまったままだった。
 チュチュが馬をなだめてくれていたけれど、今までのように走るわけには、もういかなかった。

「……仕方ない、この辺りで広い場所を見つけて、キャンプにしよう」

 ヴァルは、馬をなだめながら馬に寄り添って歩いた。
 程近い場所に、開けた場所を見つけると、ヴァルが手際良く薪を重ねる。
「チュチュ、火着けられるか?」
「う~~~ん」
 一人、直立で腕を組んで悩む。目を閉じている。

 魔術に得意不得意があるのはゲームと同じだけど、苦手な魔術になると本当に使えなくなるんだな。

 チュチュはカッと目を見開くと、
「じゃあ、やってみるね」
 と、両手を開き、集中を始めた。
 先ほどの戦闘より集中力を見せ、高らかに声をあげる。

「炎」

 チュチュのベルトの石の前に魔法陣が現れ、弾ける。
 すると、チュチュの両手の中に、マッチで灯したような小さな炎が現れた。
「おおー!」
 エマが歓声をあげる。
 ヴァルがすかさず、着火材のようなものにその炎で火をつける。
 火がついたことを見届けたチュチュは、手の中の炎を消し、その場に座り込んだ。
「ぷっはぁ……つつつつつつっかれたあ」
「おつかれさま~」
 本当に、得意な魔術以外は大変らしい。
 魔術なんていうものがある世界だから、とても便利なんだと思っていた。なんでもできてしまうものかと。
 けれど、この世界では魔術は万能ではなく、普通の人間が生活で活用している様子もない。

 それでも魔術というものは、エマにとってはとても不思議な現象だ。
 感動するほどに。
 ジークが使う魔術は、どんなものだったのだろう。
 走る炎を想像する。
 実際に、見ることができたらよかったのに。

 3人で、炎を囲んだ。
 食事は、野菜の他に、真空パックのような状態でパッケージングされた肉があった。串に刺して炎で炙ると、ジュワジュワと美味しそうだ。
「おいしい!」
 エマが声を上げる。
「あちちちち」
 チュチュは大騒ぎだ。
 その様子を見たヴァルが、笑いながら「お前らうるっせーな」なんて言って、また笑った。

「獣が来ないように、魔術で暗くしようと思う。流石に何も見えないほど真っ暗なら、獣も怖気付くだろ」
「おーいいじゃん」
 チュチュが親指を立てる。
「魔術……って寝てる間も発動できるの?」
 エマが首を傾げる。
「ああ、まあ、熟睡はできないけど。俺くらいになればな」
 たき火の火を消しながら、ヴァルがしれっと言った。
「そういうもの?」
 チュチュの顔を見ると、チュチュも
「アタシも枕元にナイフ置いたまま寝ることくらいはできるよ」
 ということだった。

 火が消えると、森の中にただ3人で立っていることが強調された。
 暗い、静かな森。
 ヴァルが少し遠くを眺めるような目で上を見上げたので、追いかけるように空を眺める。
「う……わぁ」
 今まで、転生する前だって後だって、空をゆっくり眺めようなんて思ったことはなかった。
 静かな空気。
 微かに揺れる木の葉。

 そこにあるのは、満天の星空だった。

「こんなの……初めて見た……」
 そこにあったのは、心臓が痛くなるほどの、散りばめられた光だった。



◇◇◇◇◇



魔術はすでに作られた魔術を使うこともできますし、新しく作ることもできます。ヴァルが使う“深淵の王”は既存の魔術、チュチュが使う“ジュエル”はオリジナルの魔術です。
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