25 / 239
25 外の世界へ
しおりを挟む
初めて見る外の世界は、とてもキラキラしていた。
狼や盗賊がいるというから怖い山道ばかりなのかと思ったけれど、次の町へ行くまでは、長閑な草原の景色が広がっていた。
御者台にはチュチュ。エマの目の前にはヴァルが座る。外を眺めるヴァルの顔は、こっそり見るだけでもなかなか好みの顔だ。
とはいえ、こうなると話すこともなくて手持ち無沙汰。
こんな時にスマホがあれば、ゲームをするなりジークのスチルを表示させるなりで時間を有意義に使えるんだけど。
ふと思い出す。
『メモアーレン』はインディーズのゲームだったから、フィギュアみたいなグッズはなかった。あくまで同人で作れるレベルのグッズばかりだ。
それでも自作フィギュアや自作ぬいぐるみを作っている人はいて。その中でも攻略対象の一人であるシエロくんのぬいぐるみを作って一緒に旅をしている人のSNSをエマはよく見ていた。
シエロくんは12歳。いわゆるショタ枠。金髪キラキラおめめの天使のような少年。
自作ぬいぐるみの人は、そんなキラキラ天使の瞳をうまく再現していた。
そういえば、そういうことはしたことがなかったな。
ジークの自作のぬいぐるみ……作れるだろうか。
そんなことを思いながら、外の風に当たる。
「そうだ。うちのメイドが、クッキーを持たせてくれたんだ」
クッキーの包みを出し、広げながら声をかける。
「ヴァルは、クッキー好き?」
それまで外を向いていたヴァルが、エマの方を向いた。
あ、目が、合った。
「ああ、もらうよ」
クッキーに目を落とすヴァルは、少しだけ嬉しそうだ。
甘いものは好きみたい。
心がふわふわする、そんな空気。
「いいにおーい!アタシにも残しておいて!」
「もちろんだよ」
「チュチュに出すと全部食べられるぞ」
「そんなに大食いじゃないよ!?」
モシャモシャと食べるクッキーは、いつになく幸せな味がした。
それからしばらくして。
「さあ!エマが馬当番だよ!」
チュチュが急に立ち上がった。
「うん!え、でも大丈夫かな」
子爵邸にも馬はいたので、馬と戯れることはあったけど、実際に手綱を握ったことはない。
「だーいじょうぶ!ヴァルがやっさしく教えるから」
「おい、なんで俺だよ」
ヴァルが呆れた声を出す。
「クッキーたくさん食べたでしょ」
「…………」
確かに、一番クッキーを食べたのはヴァルだった。
「ほら!二人とも、こっち来て」
揺れる馬車の中、よろよろと前へ移動する。
「……大丈夫か?」
なんとか御者台までたどり着くと、突然手綱を渡される。
「えっ」
「持ってみて。このまま歩いてくれてるからね」
ヴァルと二人、御者台に座る形になった。
後ろでは、早速チュチュが座布団をかき集めてごろごろしながら余ったクッキーを貪っている。
目の前はどこまでも草原で、青い空が広がる。
二人で座るなんて、なんかちょっと照れるじゃん。
◇◇◇◇◇
チュチュ。8歳。背が低いので幼く見られがちです。基本的にしっかり者。家族とは仲が良く、パパっ子です。
狼や盗賊がいるというから怖い山道ばかりなのかと思ったけれど、次の町へ行くまでは、長閑な草原の景色が広がっていた。
御者台にはチュチュ。エマの目の前にはヴァルが座る。外を眺めるヴァルの顔は、こっそり見るだけでもなかなか好みの顔だ。
とはいえ、こうなると話すこともなくて手持ち無沙汰。
こんな時にスマホがあれば、ゲームをするなりジークのスチルを表示させるなりで時間を有意義に使えるんだけど。
ふと思い出す。
『メモアーレン』はインディーズのゲームだったから、フィギュアみたいなグッズはなかった。あくまで同人で作れるレベルのグッズばかりだ。
それでも自作フィギュアや自作ぬいぐるみを作っている人はいて。その中でも攻略対象の一人であるシエロくんのぬいぐるみを作って一緒に旅をしている人のSNSをエマはよく見ていた。
シエロくんは12歳。いわゆるショタ枠。金髪キラキラおめめの天使のような少年。
自作ぬいぐるみの人は、そんなキラキラ天使の瞳をうまく再現していた。
そういえば、そういうことはしたことがなかったな。
ジークの自作のぬいぐるみ……作れるだろうか。
そんなことを思いながら、外の風に当たる。
「そうだ。うちのメイドが、クッキーを持たせてくれたんだ」
クッキーの包みを出し、広げながら声をかける。
「ヴァルは、クッキー好き?」
それまで外を向いていたヴァルが、エマの方を向いた。
あ、目が、合った。
「ああ、もらうよ」
クッキーに目を落とすヴァルは、少しだけ嬉しそうだ。
甘いものは好きみたい。
心がふわふわする、そんな空気。
「いいにおーい!アタシにも残しておいて!」
「もちろんだよ」
「チュチュに出すと全部食べられるぞ」
「そんなに大食いじゃないよ!?」
モシャモシャと食べるクッキーは、いつになく幸せな味がした。
それからしばらくして。
「さあ!エマが馬当番だよ!」
チュチュが急に立ち上がった。
「うん!え、でも大丈夫かな」
子爵邸にも馬はいたので、馬と戯れることはあったけど、実際に手綱を握ったことはない。
「だーいじょうぶ!ヴァルがやっさしく教えるから」
「おい、なんで俺だよ」
ヴァルが呆れた声を出す。
「クッキーたくさん食べたでしょ」
「…………」
確かに、一番クッキーを食べたのはヴァルだった。
「ほら!二人とも、こっち来て」
揺れる馬車の中、よろよろと前へ移動する。
「……大丈夫か?」
なんとか御者台までたどり着くと、突然手綱を渡される。
「えっ」
「持ってみて。このまま歩いてくれてるからね」
ヴァルと二人、御者台に座る形になった。
後ろでは、早速チュチュが座布団をかき集めてごろごろしながら余ったクッキーを貪っている。
目の前はどこまでも草原で、青い空が広がる。
二人で座るなんて、なんかちょっと照れるじゃん。
◇◇◇◇◇
チュチュ。8歳。背が低いので幼く見られがちです。基本的にしっかり者。家族とは仲が良く、パパっ子です。
1
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。
櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。
兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。
ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。
私も脳筋ってこと!?
それはイヤ!!
前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。
ゆるく軽いラブコメ目指しています。
最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。
小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる