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24 出立(2)
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10年間、この場所で生きてきた。
家族がみんな揃った大きなドアの前。
父、母、マリア、ルチア、ルーシン、ライリー、そして、父の補佐のロイ。
大きなお屋敷の前に、みんながいてくれる。
嬉しくなってにかっと笑った。
みんな大事な家族だ。
母やルチアがニコニコと見送ってくれるのに対して、マリアは目がすっかりウルウルしていた。
母とルチアが「いつでも帰ってきなさいね!」と笑顔で言ってくれるのに対して、マリアの「辛いことがあったら……いつでも帰ってきてくださいね」は、鬼気迫るものがある。
「大丈夫だよ」
もう、そうとしか言えない。もちろん、エマだって家から出るのは不安なんだけど。
「時々帰ってくるからね。夏休みだってあるんだし」
にっこりと笑う。マリアがウルウルしてるから、そのウルウルが移りそうになるじゃない。
他のみんなとも一人一人挨拶をしていく。
ライリーとさよならのハグをする。なんだかんだ外にいるときは相手をしてもらっていた。
ルーシンからは道中食べるためのクッキーをもらった。ルーシンは母の侍女なのだけれど、エマのおやつを作ってくれることも多かった。
父とロイは今日は正装で、二人には手を握ってもらった。
「またね、お父様」
「ああ、楽しんでおいで」
ヴァルに引き上げてもらって、幌馬車に乗り込む。
中には大きな座布団と温かな毛布が置いてあり、思った以上に快適だ。
「またね、みんな!」
馬車の後ろから手を振りながら、遠ざかっていく屋敷を見た。腕には、父からもらった腕輪が光る。
煉瓦造りの茶色の大きなお屋敷。
いつの間にか、それは自分の家だった。
晴れた空の下の屋敷を、目に焼き付けるように眺めた。
見えなくなるまで手を振った。
振り向くと、チュチュの笑顔がそこにあった。人懐こい猫のような笑顔。
ヴァルは御者台だ。
「御者さんは順番にやってるんだ。エマは馬はどう?」
ふるふる、と首だけで返事をする。
「覚えてもらうからね。大丈夫、簡単簡単」
「……大丈夫かな」
それ、本当に簡単?
初めてのことが、たくさんありそうだ。
周りには、木箱や樽が積んである。食料や薪、生活用品、色々。
「食料とか水とかたくさん準備してあるけど、基本的には町の宿屋に泊まるから」
「あ、そうなんだね」
冒険ファンタジーものみたいに、ずっとキャンプになるのかと思っていた。
「街は安全だけど、外は狼とか盗賊とかいて危ないの。学園からもらった旅費もみんなで分けて持とうね」
そう言われ、エマは財布をひとつ渡された。チュチュが近づいてきて、両手で優しくエマの手の中に財布を押し込む。目が合って、微笑まれる。
財布の渡し方ひとつ取っても、あざといというか、なんというか……。照れちゃうじゃない。
そこからは楽しかった。
チュチュはおしゃべりで、これから行く学園のことや、好きなケーキのこと、途中の町で会った犬のことなど、いろんなことを話してくれた。
「あ、蝶々!」
チュチュが立ち上がり、馬車の中でジャンプしようとする。
「危ないよ」
それを落ち着かせようとエマがチュチュに手を差し出すと、チュチュが馬車の中で足を滑らせ二人して倒れこむ。
「何やってんだよ」
二人の頭の上から、呆れた声が降ってくる。
終始そんな感じだった。
笑うほど楽しい時間は、久しぶりのような気がした。
◇◇◇◇◇
乙女ゲームに転生したはずなのに、すっかり冒険ファンタジーの様相を呈しておりますが。
間違いなく、イチャイチャのためのほのぼのラブコメです!
家族がみんな揃った大きなドアの前。
父、母、マリア、ルチア、ルーシン、ライリー、そして、父の補佐のロイ。
大きなお屋敷の前に、みんながいてくれる。
嬉しくなってにかっと笑った。
みんな大事な家族だ。
母やルチアがニコニコと見送ってくれるのに対して、マリアは目がすっかりウルウルしていた。
母とルチアが「いつでも帰ってきなさいね!」と笑顔で言ってくれるのに対して、マリアの「辛いことがあったら……いつでも帰ってきてくださいね」は、鬼気迫るものがある。
「大丈夫だよ」
もう、そうとしか言えない。もちろん、エマだって家から出るのは不安なんだけど。
「時々帰ってくるからね。夏休みだってあるんだし」
にっこりと笑う。マリアがウルウルしてるから、そのウルウルが移りそうになるじゃない。
他のみんなとも一人一人挨拶をしていく。
ライリーとさよならのハグをする。なんだかんだ外にいるときは相手をしてもらっていた。
ルーシンからは道中食べるためのクッキーをもらった。ルーシンは母の侍女なのだけれど、エマのおやつを作ってくれることも多かった。
父とロイは今日は正装で、二人には手を握ってもらった。
「またね、お父様」
「ああ、楽しんでおいで」
ヴァルに引き上げてもらって、幌馬車に乗り込む。
中には大きな座布団と温かな毛布が置いてあり、思った以上に快適だ。
「またね、みんな!」
馬車の後ろから手を振りながら、遠ざかっていく屋敷を見た。腕には、父からもらった腕輪が光る。
煉瓦造りの茶色の大きなお屋敷。
いつの間にか、それは自分の家だった。
晴れた空の下の屋敷を、目に焼き付けるように眺めた。
見えなくなるまで手を振った。
振り向くと、チュチュの笑顔がそこにあった。人懐こい猫のような笑顔。
ヴァルは御者台だ。
「御者さんは順番にやってるんだ。エマは馬はどう?」
ふるふる、と首だけで返事をする。
「覚えてもらうからね。大丈夫、簡単簡単」
「……大丈夫かな」
それ、本当に簡単?
初めてのことが、たくさんありそうだ。
周りには、木箱や樽が積んである。食料や薪、生活用品、色々。
「食料とか水とかたくさん準備してあるけど、基本的には町の宿屋に泊まるから」
「あ、そうなんだね」
冒険ファンタジーものみたいに、ずっとキャンプになるのかと思っていた。
「街は安全だけど、外は狼とか盗賊とかいて危ないの。学園からもらった旅費もみんなで分けて持とうね」
そう言われ、エマは財布をひとつ渡された。チュチュが近づいてきて、両手で優しくエマの手の中に財布を押し込む。目が合って、微笑まれる。
財布の渡し方ひとつ取っても、あざといというか、なんというか……。照れちゃうじゃない。
そこからは楽しかった。
チュチュはおしゃべりで、これから行く学園のことや、好きなケーキのこと、途中の町で会った犬のことなど、いろんなことを話してくれた。
「あ、蝶々!」
チュチュが立ち上がり、馬車の中でジャンプしようとする。
「危ないよ」
それを落ち着かせようとエマがチュチュに手を差し出すと、チュチュが馬車の中で足を滑らせ二人して倒れこむ。
「何やってんだよ」
二人の頭の上から、呆れた声が降ってくる。
終始そんな感じだった。
笑うほど楽しい時間は、久しぶりのような気がした。
◇◇◇◇◇
乙女ゲームに転生したはずなのに、すっかり冒険ファンタジーの様相を呈しておりますが。
間違いなく、イチャイチャのためのほのぼのラブコメです!
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